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いろいろな殺菌方法

牛乳は食品衛生法に基づく乳等省令に基づいて殺菌され、包装されています。殺菌方法は乳等省令で「保持式により63℃で30分間加熱殺菌するか、またはこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌すること」と定められています。殺菌方法は表2-2のように5つに大別されます。
また、加熱殺菌する設備としては、牛乳と加熱熱源を接触させることなく加熱する間接加熱方式と、加熱蒸気を牛乳に接触させる直接加熱方式があります。間接加熱方式には、プレート式熱交換機(予備加熱部と加熱部および冷却部を連結した密閉式の波型プレート熱交換機)を使用し、牛乳がプレート間を通過する際に殺菌するプレート式などがあり、連続式低温殺菌(LTLT)や高温短時間殺菌(HTST)、超高温瞬間殺菌(UHT)の多くはこの方式で行われています。一方、直接加熱方式には、加熱蒸気中に牛乳を吹き込んで殺菌するスチームインフュージョン式、牛乳中に加熱蒸気を吹き込んで殺菌するスチームインジェクション式があります。
表2-2 | いろいろな殺菌方法とその効果
殺菌方法 概要 殺菌効果
低温保持殺菌(LTLT) 生乳を保持式で63~65℃で30分間加熱殺菌する方法 すべての細菌などを死滅させることはできないが、人間に有害な細菌などは死滅するため、冷蔵保管により一定期間は安心して飲むことができる
連続式低温殺菌(LTLT) 生乳を連続的に65~68℃で30分以上加熱殺菌する方法
高温保持殺菌(HTLT) 生乳を保持式で75℃以上で15分以上加熱殺菌する方法
高温短時間殺菌(HTST) 生乳を72℃以上で連続的に15秒以上加熱殺菌する方法
超高温瞬間殺菌(UHT) 生乳を120~150 ℃ で2~3秒間加熱殺菌する方法。日本で市販されている牛乳の9割以上がこの殺菌方法で処理されている 耐熱性胞子形成菌を死滅させるのはこの方法のみで、低温保持殺菌(LTLT)に比べ1万倍もの高い殺菌能力がある

それぞれの方法による殺菌効果

それぞれの殺菌方法は殺菌効果 が異なり、低温保持殺菌(LTLT)、連 続式低温殺菌(LTLT)、高温保持殺菌 (HTLT)、高温短時間殺菌(HTST)ではすべての細菌や胞子を死滅させることはできませんが、人間に有害な細菌などは死滅するため、冷蔵保管により一定期間は安心して飲むことができます。
耐熱性胞子形成菌を死滅させるのは超高温瞬間殺菌(UHT)のみで、低温保持殺菌(LTLT)に比べ1万倍もの高い殺菌能力があるといわれています。
日本の牛乳は、この超高温瞬間殺菌(UHT)が9割以上を占めています。
また、「常温保存可能品」と表示された牛乳もありますが、これはUHT殺菌乳を牛乳パックに無菌充填するまでを特別な機械や管理システムで行ったものです。このため、未開封であれば冷蔵保存の必要はなく、常温保存が可能となります。

牛乳の安全性を高めるために

牛乳は、殺菌温度と殺菌時間を容器に表示するよう義務づけられています。
近年では、耐熱性の胞子形成菌や抗生物質が効かない菌、新しい病原菌、低温でも繁殖する細菌などが次々と発見されています。より安全な牛乳を提供するために、乳業メーカーだけでなく酪農家や販売業者、行政が一体となり、食品安全の研究や品質チェックなどを行っています。
地域の保健所では、工場の立ち入り検査や市場に出回っている牛乳の抜き取り検査も行われ、牛乳の安全性を高める努力が続けられています。
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加熱殺菌と牛乳の栄養価
牛乳成分は高温殺菌の加熱で大きく変化することはありません。牛乳のたんぱく質は加熱により変性しますが、栄養価には変化はありません。「変性」という言葉が、悪いものに変わると誤解されているようです。
日本の牛乳の9割以上は超高温瞬間殺菌(UHT)されていますが、120℃以上で加熱すると牛乳中のたんぱく質は加熱変性を起こします。変性とは、たんぱく質の立体構造が変化することで、卵を加熱してゆで卵や目玉焼きにしたり、肉や魚を煮たり焼いたりするときに起こる変化と同じです。焦げのできるような極端に厳しい加熱温度と加熱時間の場合は別ですが、加熱による変性でたんぱく質のアミノ酸組成が変わるわけではなく、栄養価には変化はありません。むしろ加熱変性により消化性が高まるため、相対的な栄養価は上昇します。
また、牛乳中のカルシウムは超高温瞬間殺菌(UHT)により溶解性のリン酸カルシウムのごく一部が不溶化します。ヒトのカルシウム吸収率試験では、超高温瞬間殺菌(UHT)で殺菌された牛乳を用いた結果、牛乳40%、小魚33%、野菜19%と、他のカルシウム含有食品に比べ高い吸収率を示しました(詳しくは図2-21「カルシウムの吸収率の比較」を参照。『日本栄養・食糧学会誌』Vol.51、公益社団法人日本栄養・食糧学会、1998年)。