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スポーツ科学で国際競技力向上を支援

独立行政法人日本スポーツ振興センター、国立スポーツ科学センター・統括研究部長 川原 貴氏

j-milkレポートvol-6、<乳の学術連合の窓>より

初回の「学術連合の窓」には、国立スポーツ科学センター統括研究部長の川原貴先生にご登場いただいた。先生は、牛乳乳製品健康科学会議の幹事で、生活習慣病予防部門の委員をされている。先のロンドンオリンピックでは日本は過去最多38個のメダルを獲得。その好成績に国立スポーツ科学センター(JISS)の存在が大きく寄与したといわれる。センターの役割やアスリートのサポート体制についてお話しいただいた。

トレーニング施設と研究施設が一体となった支援

-ロンドンオリンピックでは金メダルは少なかったが、獲得メダル総数は最高だった。当センターの役割や影響について伺います。

川原:国立スポーツ科学センターがオープンしたのは2001年ですが、毎年の世界選手権のメダルをオリンピックに見立てて評価すると、センターができてからメダル総数はグッと上がってきている。
メダル総数は比較的安定していて、金メダルは本当にわずかな差で勝敗が出るので予測は当たらない。野球のペナントレースの順位が、プロが予測しても外れるのと一緒です(笑)。

予測できないところが面白いところで、皆ワクワクドキドキするわけです。
今回実力どおりいけば10個は取っておかしくなかった。取れる可能性のある人が皆取れれば15~18個の可能性はあった。
悪ければ数個もあり得るという幅の中にあるんです。

2008年の北京オリンピックでは金メダルは9個だがメダル総数は25個と落ち込んでいる。シドニー、アテネ、北京と同じような人たちがメダリストで、新しい人が育っていなかった。
ドイツのデータによると、3分の1くらい新人が入っていないと、次は落ち込むといいます。当センターができても、ここはトップアスリートしか対象にしていない。競技団体もジュニアまで育成する余裕はなかった。


オリンピック等のメダルの推移

 
-今回はその反省で、ジュニアの育成にも力が入るように?

川原
:トップのデータを活用したり、一緒にここで練習していますから、多分ジュニアの育成も徐々に効果が出てきている。ナショナルトレーニングセンターができたのが2008年。北京の前はまだなかった。その要素もあるかもしれない。

外国はみんなトレーニングセンターがあって、なおかつ地域にもトレーニング拠点がある。そこでジュニアを育成している。日本にはそのシステムができていない。その割には頑張っている。ハードや仕組みができていないのになぜこんなに頑張っているかというと、企業や学校が支えていたわけです。

学校体育は世界的にみてもよくやっている。中国はオリンピックのためにスポーツをしている。子供たち皆のスポーツはぜんぜんやってきていない。
日本はそこはよくやっていて、部活に半分くらいの子供が参加している。ところが世界で戦うといった場合、話は別です。世界と戦うには拠点を据えないとだめだし、ジュニアの育成ができていないとこれ以上は難しいと思います。


-選抜された選手は基本的にはここを拠点としてトレーニングを?

川原:それは少数派です。所属チームがあるので普段はそこで練習する。ナショナルチームの合宿がある時にここに来る。
当センターの役割は、日本オリンピック委員会・競技団体・大学・国内外のスポーツ研究機関と連携し、日本の国際競技力向上への支援を行うことです。そのため6つの事業を行っています(図1)。

トレーニングだけだったら全国どこでもできる。ここはクリニックがあり、リハビリ機能があり、栄養士がいて栄養相談ができ、レストランもあり、トレーニング施設があって専門の指導員がいる。
さらに情報技術者がいて、パソコンのネットワーク環境を整備したり、映像の技術者は映像をデータベース化している。そういったITのシステム開発をする人もいます。

クリニックで言うと、内科、整形外科、リハビリテーションはフルタイムの職員がいます。それ以外に歯科が週4回外から来ます。他に眼科、耳鼻科、皮膚科、婦人科、心療内科、心理カウンセリングと栄養カウンセリングがある。MRIが2台、CTが1台、超音波、高酸素治療機とか、かなりの機器がある。

特に威力を発揮しているのがMRI。一般の医療レベルでは運動しなければ自然と治るといった痛みやケガでも、スポーツ選手はそういうわけにはいかないので、すぐMRIで調べる。
病院だと予約して、診てもらって、結果が出るまで2~3週間かかってしまう。ここではすぐ出ます。肉ばなれなどは治癒経過のデータがあってフォローできる。
スポーツ選手にとって大事なデータがすぐとれる。トレーニング施設と研究施設が一体となって、競技ごとにいま何が課題で、それを解決するためにはどうしたらいいか、チームをつくってやっています。


図1:事業紹介

栄養サポートも重要な役割

スポーツ界で栄養管理の重要性が認識されたのはいつ頃からでしょう。

川原:「オリンピック強化指定選手」の栄養調査結果という1987年のデータがありますが、その中の「エネルギーと栄養素の摂取パターン」(図2)を見る限りかなり問題がある。それ以降でしょうね。


-栄養管理の中で牛乳乳製品の位置付けは?

川原:日本人の足りなくなりやすいのは野菜と乳製品です。
バランスが崩れているのは、乳製品を摂るかどうかでずいぶん違う。摂っていればバランスがよくなる。牛乳は大事だと思いますね。

スポーツ選手の基本的な食事の形として、主食、主菜、副菜、牛乳乳製品、果物とあります。
メディカルチェックをする時に一緒に、食事はこうしたらいいとフィードバックしているのと、定期的に選手向けの講習会をしていますから、強化選手はそれを受けられるし、希望すれば個人指導もする。

減量や増量、一日中試合がある時の途中のエネルギーの摂り方とか、種目に応じた問題もありますから。 
ロンドンオリンピックで劇場を1棟借り切ったマルチサポート・ハウスでは、厨房を改修してここと同じ食事を出せるようにした。それが一番評判がよかった。

選手村の食事はすぐ飽きる。するとハンバーガーとか偏ってしまう。リカバリーコンディショニングホール、トレーニングルーム、心理・コンセントレーションルームなどもあり、分析室にはテレビが何台もあってどの競技もリアルタイムで見られ、対象競技はそこから収録してゲームを分析してコーチに届けたりしました。


図2:エネルギーと栄養素の摂取パターン(各パターンの割合)
 

永年、日本選手の診療、健康管理に携わる

 -先生の当センターでの仕事をご紹介ください。

川原:今は管理職として医学のマネジメントと全体のマネジメント、情報技術者の取りまとめをやっています。
センターができた時、内科医は私一人しかいなかった。メディカルチェックを年間2000人くらいした。内科の診療、医学部長をやっていたので大変だった。

なおかつ体協、JOCの委員もやっていましたから、対外的に文科省に説明に行ったり、本部へ行ったり、JOC競技団体と話したり。去年までは医学部長、情報部長、統括研究部長と3つやっていた。1976年に医学部を卒業して、1977年にユニバーシアード大会に選手団の本部ドクターで行き、それ以来シドニーオリンピックまで13回日本代表のドクターを務めた。そういう関係で日本選手の診療や健康管理に永年携わってきた。

現在は選手団全体でいうと10数名のドクター、30人くらいのトレーナー、なお村外にはパーソナルトレーナーが来ていて、すごい数のメディカルスタッフが行きますけど、私が行き始めた時は世の中にスポーツ医学はあまり認識されていなかった。

舞台がぜんぜん違うのでわけがわからず、教科書にも出ていない。どうしたらいいんだと(笑)。記録が落ちてくると多くはトレーニングのやり方とか、コンディション、栄養に問題があったりということが多い。そこを指導しないといけない。
その辺が普通の医学と違いますね。


▲交替浴・炭酸泉
 
▲畳スペース                    ▲リカバリー/コンディショニングホール

ジュニア層の育成にトップアスリートのデータ活用も

 -これからのスポーツももっと科学しなければいけないと感じた。科学しているところが伸びている。今後について感じられることは。

川原:まだ活用の余地が多くあるので活用してほしい。そのためには強化戦略がしっかりしていないと。センターだけが一生懸命になってもダメ、連携が重要です。競技団体も計画を持って活用してほしい。

今後は育成をどうするか、そこに当センターがどうかかわっていくか。
ジュニア期から栄養や体のケア、トレーニングのチェックや目標設定をしてあげるとか。

センターができた時はトップアスリートに集中するということでしたが、それだけではこの国の本当のスポーツの力にならない。
継続していい成績を維持するには裾野がないと。まずはセンターが持っているトップ選手のデータをいかに活かせるような形にして提供するかということですね。


聞き手:高見裕博
Jミルク理事

2012年10月22日

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