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業界が思いをひとつに。酪農の特性を活かしては?

Jミルクの活動を支援していただいている業界関係者や、酪農乳業や食と関わりの深い方々に、今後の取り組みへの期待や提言を語っていただきます。

j-milkリポートvol-26より

困難で奥深いからこそ面白い“牛飼い”という仕事

—— 菊池会長が酪農を志したきっかけや、地域の酪農界をリードする存在になられるまでの経緯をご紹介ください。

 現在の那須烏山市の農家の長男に生まれて、農業高校卒業と同時に就農しました。昭和42年のことで、周りにも数頭の乳牛を飼っている農家が多くありました。私の実家は180アールの水田と小さな畑を持っていましたが、当時は牛乳の需要と共に乳価が急上昇していた時代でもありました。私自身は稲作より酪農に将来性を感じ、2頭の育成牛を導入して、少しずつ頭数を増やしていきました。

 私が酪農に感じていた魅力は、産業としての将来性だけでなく、交配によって限りなく良い牛をつくれるということです。自分の思い描く完璧な牛はつくれないのですが、その奥深さや難しさこそ面白いと思って、牛飼いの道へ進んでいったのです。

 その後、規模拡大や効率化など自家の経営と並行して、仲間たちと共に酪農組合に参加して、地域の酪農の発展にも関わるようになりました。30年ほど前からは次世代の育成を意識するようになり、国内の大学・高校からの実習生や、海外からの酪農研修生を牧場に受け入れてきました。

 こうした取り組みが認められ、平成23年に黄綬褒章を受章させていただきました。手探りの状態からこの道に入った私は、地域の先輩方や仲間たちに支えられて酪農家を続けることができました。次は私が若い人たちを支える番です。次世代の酪農家の育 成は、地域への恩返しの意味でも、今後も大切にしていきたい活動と考えています。
 

日本の農業の特性や役割を踏まえた組織改革議論を

—— 酪農の生産基盤強化、流通制度や酪農組織のあり方などについて、近年さまざまな改革案が提示されています。菊池会長はこうした動きをどのように感じられていますか。

 いま日本の酪農家は毎年4 - 5%のペースで減少しており、このままでは10年後には半減する可能性があります。こうした現状を踏まえると、酪農組織がずっとこのままでいいとは思いませんし、今回の規制改革会議の提言もある程度は理解できます。

 多くの産業や企業が目覚ましいスピードで変化しているなか、農業組織体は変化が遅いと言われることがあります。遅いから悪いのではなく、そこには農業組織体の特性が関係しているのです。たとえば、資本の回収に時間がかかる点があります。今日生まれた牛が搾乳できるようになり、投下した資金を回収できるようになるまでに5年くらいかかる。いま実行したことが、結果として出てくるのは5年、10年先のことになる。そうした産業の特性の上に組織があるのです。

 酪農を含めた農業の組織改革は、こうした長いスパンで考えることが重要です。一度体制を崩してしまうと、仮に10年後に結果が悪かったとしても、簡単には元に戻せないのです。たとえば現行の農協制度を崩すと、小さな農家ほど経営が苦しくなって離農していくでしょう。本来協同組合とは、規模の大小に関わらず皆が仲間として支え合うための組織です。規制改革会議の提言は、組織内でむしろ競争させようとする意図があるように読めるのですが、協同組合の理念からするとそれは違うのではないかと思います。

 農協は大きな農家だけを扱っているのではありません。私たちの地域でも、山間地に近いところで生活して、地域を守りながら酪農や農業を営んでいる農家が多くいます。農協はそうした地域の担い手となる小さな農家も支援していますし、高齢者家庭へのホームヘルパーの派遣や買い物支援などを、農協が参画する組織で担っている事例もあります。

 豊かな自然環境のなかで人々が暮らす農村、いわば「田舎」は、日本人の心の原風景であり、癒しを与えてくれるものです。そうした「田舎」を維持する農業や農業組織の役割まで踏まえたうえで、これからの農業施策や食の自給率向上策を考えることが重要だと思います。

 農業分野にも改革や変化は当然必要ですし、指定団体や酪農組織の再編が必要という農林水産省局長通達もすでに出ています。自己改革が難しい部分もあるので、第三者的な視点も必要だと私自身は思っています。ただ、提言をまとめる際には、こうした日本の酪農や農業の歴史や役割を紐解いて、産業や組織体の特性を踏まえたうえで、表現を考えていただきたいと思っています。

 もうひとつ大切なのは、方向性の統一です。一方に酪肉近代化や農業基本法といった方針があり、それとは別の方針を官邸主導の規制改革会議が提示する。これでは私たちとしても、どちらに軸足を置くべきかという判断が難しくなってしまいます。
 

牧場や農村の“癒しの力”を社会貢献につなげる

—— 今後、業界全体で取り組むべき課題、あるいはできることは何か、ご自身のお考えをお聞かせください。

 牛乳乳製品の価値訴求は今後もさまざまな視点で進むと思います。訴求の根拠となるエビデンスの集積は研究者の皆さんのお仕事ですが、出てきたエビデンスを発信する方法を考える部分は私たち業界関係者も参加できます。牛乳乳製品の価値の一つとして、食事として牧場から食卓までの情報を伝えないと、一般消費者には届きにくいと思います。女性誌や一般誌で情報を発信する、話題のジビエ料理とコラボするなど、いろいろな切り口を試みることも一つの手でしょう。

 メッセージを伝えるうえでは、分かりやすい言葉が大切だと思います。子育て中の親御さんは、子どもの健康という言葉に注目するでしょうし、お年寄りにとっては健康長寿が関心事です。1人から10人に広がるような口コミの基礎になるのは、こうしたシンプルなキーワードを伝えることだと思います。

 また、酪農乳業という産業全体での社会貢献も重要な取り組みのひとつだと思います。社会貢献の活動は、すでにそれぞれの企業や団体でも行っていることですが、私自身も15年以上前から、牧場や「田舎」の特性を活かし、牛と一緒に働きたいという思いがある人たちを受け入れて、酪農の仕事を体験していただいています。自然が好きな人や都市生活に疲れた人たちを含め、多くの人の心を癒す場として、牧場や「田舎」には大きな力があるように感じています。

 業界が一体となって様々な事業を推進していく中で、酪農を「体感」してもらう環境づくりや子供の教育活動の支援に取り組むことは、産業として張り合いもあり、理解醸成にも繋がります。牛乳乳製品の価値向上につながる大切な活動の下地にもなるのではないでしょうか。

 私はこれからも酪農や田舎の特性を活かした社会貢献という、「人々に心の活力や夢や希望を与えるお手伝い」を続けていきたい。

 業界が思いをひとつにしてできることは、まだまだ沢山あると思います。
 

2017年10月30日

菊池 一郎 氏
関東生乳販売農業協同組合連合会 代表理事会長、
酪農とちぎ農業協同組合代表理事理事長

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