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上西 一弘 氏

普及に寄与する研究の充実を -牛乳乳製品の価値と情報発信-

豊富なカルシウムやたんぱく質による骨・筋肉の健康に加え、高血圧や認知症予防など、牛乳乳製品には多くの価値があることがわかってきた。
上西一弘氏(乳の学術連合・牛乳乳製品健康科学会議幹事)に、研究成果を牛乳の普及につなげるポイントを聞いた。

j-milkリポートvol-29より

妊娠中だけでなく継続的なカルシウム摂取が重要

——先生のこれまでのご研究の経緯と、牛乳乳製品との関わりをご紹介ください。

上西氏:大学の卒業研究がカルシウムに関連した内容でしたから、牛乳乳製品との関わりはその頃からということになります。大学院を出てからは乳業メーカーの研究所で医薬品研究に携わっていました。その後、女子栄養大学に移ってからカルシウムを専門的に研究するようになりました。

大学卒業研究のテーマは、妊娠中と授乳期のカルシウム摂取でした。人のカルシウム吸収率は通常約25%ですが、妊娠すると40%程度にまで高まります。従来は、胎児の発育のために妊娠期間中はカルシウム摂取量を増やすべきとされていたのですが、吸収率が高まっている状態で普段以上に摂ると過剰摂取が懸念されるため、国の栄養摂取基準では2005年にこの項目を削除しています。

妊娠から出産、授乳期を経て母親の骨のカルシウム量は減少し、授乳期が終わるころから回復していきます。妊娠中だけ意識して摂るのではなく、妊娠前から出産後まで継続的に摂ることが、赤ちゃんの発育にもお母さんの健康にも大切なのです。

 

子どもの骨の健康と食事・生活習慣の関わりを探る

——女子栄養大に移られてからはどのようなご研究をされてきたのですか。

上西氏:最初は、食品ごとのカルシウム吸収率を調べました。ご存知の通りカルシウムの吸収率は、牛乳や小魚、野菜など食品によって異なるのですが、当時(1990年代後半)の日本では50年近く前に計測された古いデータしかありませんでした。最新の手法で計測し直そうということで、他の先生方と一緒にチームを組んで研究を行いました。現在広く使われているカルシウム吸収率の数値は、このときの研究データが基になっています。

もう一つの研究活動として、子どもたちの骨の状態と、食事を含めた生活習慣の関わりを調べています。中高生を対象に2000年から継続して調査を行っており、普段から牛乳を飲んでいる子どものほうが骨の状態が良く、女子については体脂肪率も低いといった興味深いデータが得られています。今後は、以前収集したデータと、現在の子どもたちとの比較分析なども行う予定です。
 

栄養素の組み合わせでカルシウムを有効利用する

——最近関心を持たれているのはどのようなテーマですか。

上西氏:栄養学全般に言えることですが、従来はカルシウムならカルシウムだけ、一つの栄養素に着目する研究が主流でした。それが現在では、カルシウムはビタミンDとセットにして考えるなど、複数の栄養素の関係性という視点が不可欠になっています。

この視点を踏まえながら、日本人のカルシウム摂取量の伸び悩みという課題に取り組むことが重要です。いまの日本人の平均的なカルシウム摂取量は、50年前とほぼ同じ。現在の食生活に1人1本ずつ牛乳をプラスすればカルシウムの栄養状態は大きく改善するのですが、この目標になかなか届かないのです。

牛乳乳製品をもっと積極的に摂ろうと訴え続けていくことも大切ですが、少ないカルシウムを有効に利用して骨に取り込むという提案も必要だと思います。そこで、ビタミンDとの組み合わせが重要になるのです。牛乳はカルシウムが豊富で吸収率も高く、常に身近にあってだれでも手軽に摂れるという点で、カルシウムの補給源として優れた食品です。魚も良いのですが調理の手間がかかりますし、高齢者になると食塩摂取の問題もあります。

もう一つ、自分が引退するまでにやりたいと思っているのが、牛乳が入ることで食事全体のカルシウム吸収率が上がるのかというテーマです。栄養素からさらに視野を広げて、食品の組み合わせでどんな結果が出るのかを探ってみたいと思っています。

読み手のレベルに合わせた正確な情報発信が必要

——牛乳はカルシウムを効果的に摂れる食品というお話ですが、研究者のお立場から、アンチミルク情報(牛乳乳製品に関する誤った情報)の流布をどう考えておられますか。

上西氏:牛乳に対するアンチ情報は周期的に出てくる印象があって、その都度「またか」と感じています。ただ、誤った情報を信じてしまう人がいるのは事実で、特に困るのが管理栄養士のように栄養学を学んだ人が信じてしまうことです。これは正しい知識を身につけていないことによるものですから、教育が必要だと思います。

学校栄養士などの集まりで講演すると、「保護者から牛乳は子どもの体に良くないと言われるが、どう対応すればいいか」といった質問が出ることもあります。私はJミルクのホームページなどを参照するように伝えています。エビデンスに基づいた正確な情報は、保護者への説明方法を考える際にも参考になるでしょう。典拠となる論文も含まれた研究者や専門家向けの情報と、一般の人たちへのわかりやすさを重視した情報、さらにその中間と、読み手に合わせて3段階くらいに整理して情報発信するという考え方もあると思いますね。

系統的な研究活動で牛乳乳製品の普及を支えたい

——まとめとして、乳の学術連合の今後の活動に対する抱負やご提案をお願いします。

上西氏:私たちのグループに求められているのは、牛乳乳製品の健康に対する効果を研究し、エビデンスを発信していくことでしょう。その際、骨や体脂肪、血糖値、認知症など、業界として強調したいテーマに重点を置いて、ある程度系統立てて研究を進めるべきではないかと考えます。研究者が個別にマニアックなことを追究しても、その成果が牛乳乳製品の普及につながるかという点は疑問です。研究者の自己満足や“研究のための研究”で終わらないためにも、牛乳乳製品の普及に寄与するという活動の軸を共有することが大切だと思っています。

——今後の普及という点では、研究者の皆さんに確かなエビデンスを出していただくことに加え、収集したエビデンスをわかりやすく社会に伝えていく活動も必要だと感じています。Jミルクとしましても、乳の学術連合の先生方のご協力を得ながら、両面での取り組みを充実させていきます。本日はありがとうございました。

2018年7月27日

上西 一弘 氏
女子栄養大学 栄養学部 教授
徳島大学大学院栄養学研究科修士課程修了。雪印乳業生物科学研究所を経て、1991年より女子栄養大学助手、2006年より現職。専門分野は栄養生理学。「日本人の食事摂取基準」(2005、2010、2015年版)策定ワーキンググループメンバー。著書に『栄養素の通になる』(女子栄養大学出版部)など。

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