一般社団法人Jミルク Japan Dairy Association

地域乳業ビジネスの可能性と課題 - 地元とのつながりが生む企業価値とは -

地域乳業としての強みや良さを生かしたビジネスを展開していくうえでのポイントや、今後の課題は何か。
また、こうした地域の企業に対して、業界にはどのような支援が求められているのか。
高知県南国市を拠点に、四国全域から関西、関東へと商圏を広げている、ひまわり乳業の吉澤文治郎社長に話を伺いました。

j-milkリポートvol-30より

地域・酪農家とのつながりを深め、商品力を高める

前田:長い歴史をお持ちのひまわり乳業さんですが、南国・高知のイメージにも合う「ひまわり」という印象的な社名は、どのような経緯でつけられたのでしょうか。

吉澤氏:弊社は大正11(1922)年に創業し、昭和21年に高知牛乳食品として法人化しました。私の祖父が社長だった昭和30年代初頭、余乳処理の問題を解決するために練乳を製造し、製菓メーカーなどへの販売を開始しました。大阪で商談がまとまったときに、それを喜んだ祖父が、帰りに、ひまわりを模したブローチを買い求め、妻(私の祖母)に贈ったのです。祖母は会社にとっての“ラッキーアイテム”として大切にしていたそうです。

その頃から、県内でも牛乳宅配事業の競争が激しくなりました。祖父は価格より商品力で競おうと考え、特選濃縮の加工乳を開発し、商品名に「ひまわり」を採用しました。“おいしくて濃いひまわり牛乳”は大ヒットして県下に行き渡り、会社も地域の人々から「ひまわりさん」と親しまれるようになりました。その後、昭和40年代後半の愛媛・松山への進出を機に、高知牛乳食品からひまわり乳業に社名変更し、現在に至っています。

前田:ひまわりのブローチの話しは感動的ですね。また、昭和30年代という早い時期から、価格よりも付加価値での競争を重視されてこられたのですね。そういう発想につながる基盤があったのでしょうか。

吉澤氏:高知は交通の便に恵まれず、外から物を運ぶのも難しかったため、いろんなものを自分たちでつくる文化があったのです。練乳もそうですし、ヨーグルトなども自社開発してノウハウを蓄積していきました。そうした過程で、“ひまわり乳業のあるべき姿”を模索してきたのだと思います。

もう一つは、酪農家さんや地域社会とのつながりですね。高知はもともと酪農地帯ではないので、弊社も地域の酪農家さんと一緒に育ってきたという意識を強く持っています。新しい商品開発でも酪農家さんと相談する機会は多いです。例えば、弊社は全国でも早い時期から低温殺菌牛乳を販売しています。生乳により高い品質が求められますから、開発段階から酪農家さんと一緒に進めました。


■吉澤社長のご祖父様が、ご祖母様に贈ったひまわりを模したブローチ。ひまわり乳業にとっての“ラッキーアイテム”として、今でも大切に保管されています。


“地域を元気にする商品”が商圏拡大の契機に

吉澤氏:20年ほど前から香川県の大手スーパーさんとの提携が進み、弊社も香川や徳島での販売を始めました。ちょうどその頃、県の工業技術センターから新しい青汁の開発を持ちかけられました。高知にもケール100%の青汁はあったのですが、もっと飲みやすいものはつくれないかと投げかけられ、試行錯誤の末に開発したのが「健康青汁 菜食健美」です。

私たちはこれを、“地域を元気にする商品”と位置づけています。原材料となる10種類の野菜は、高知県大豊町の40戸の契約農家さんに無農薬でつくっていただいています。中山間の耕作放棄地などを有効活用し、栽培管理や集荷はすべて弊社が担当します。
実は、大豊町は日本で最も早い時期から、65歳以上人口が5割を超える「限界自治体」とされてきた地域です。私たちは、大豊町に少しでも元気になってもらいたいと思い、原料となる野菜の契約栽培をお願いしました。この青汁を販売することによって大豊町がますます元気になるという意味で、地域に貢献できる商品と自負しています。

青汁を自社宅配商品として取り扱いを始めたところ、お客様から大変好評で、2003年からは四国の外でも販売を開始しました。ちょうど、提携スーパーさんとの関係で岡山と大阪に物流が広がった時期だったので、そこに青汁を乗せようと考えたのです。当初、いかるが牛乳(大阪府)さんと大山乳業(鳥取県)さんに扱っていただいたところ、いずれも好評で、現在はOEMになって「いかるが」ブランド、「白バラ」ブランドで宅配展開されています。その後、九州乳業(大分県)さん、湘南乳販(神奈川県)さん、飛騨酪農農業協同組合(岐阜県)さんでも扱っていただくようになりました。弊社にとっては商圏拡大のきっかけをつくってくれた商品ですね。

■高知県産の野菜を使った ヒット商品「健康青汁菜食 健美」。地域に貢献できる 商品と自負しています。
 

“自社ならでは”の追求から生まれた高付加価値商品

前田:地域や酪農家さんとの関係を深めることで、商品の付加価値を高め、価格競争を避ける戦略につながったというのは興味深い展開ですね。

吉澤氏:
「ひまわり乳業にしかできないこと、ひまわり乳業しかやらないこと」を大切にする社風が受け継がれていると感じます。これは当然、他社さんがつくっていない商品をつくろうという意識づけになります。また、関西方面の量販店にも売りたいとすると、物流費の問題で付加価値のある高単価の商品が求められるという事情もあります。

例えば、「高知育ち」シリーズのヨーグルトは、ゆずやショウガ、トマトのゼリーとの二層式で、特にショウガのヨーグルトなどは全国的にも非常に珍しいと思います。
また、酪農家さんとの距離や関係の近さという強みを生かし、牛乳で高く売れる商品をつくれないかと考えて開発したのが、搾乳日をパッケージに記載した「高知育ち 乳しぼりをした日がわかる低温殺菌牛乳」です。

朝晩搾乳したものを、翌朝の2時前後にローリーで集乳し、工場に4時頃着、品質検査を経て午前6時過ぎに殺菌充てんを終え、その日の昼に大阪に届けられて翌日には店頭に並びます。同様に関東方面にも出荷していて、現在はPB商品も含めて都市部の高級スーパーなどで販売しています。

弊社ならではの商品としては、「ヤギミルク」もあります。南国市内に飼料完全自給でヤギ飼育を始めた酪農家さんがいまして、ぜひ応援したいと思い商品化しました。現在は200頭以上の規模になっていて、ミルクの製造販売は弊社が担当しています。

ヤギのミルクは臭いというイメージをお持ちの高齢者の方は多いと思いますが、飼料やヤギの管理を改善し、現在ではそうした心配はありません。ヤギ乳は牛乳に含まれるアレルゲン「αS-1カゼイン」がゼロなので、牛乳アレルギーのある方にも飲んでいただけます。やや高価ですが、こちらも付加価値も高い商品になっています。

酪農家さんとの距離や関係の近さを生かし開発した、乳しぼりをした 日がわかる低温殺菌牛乳(左)。
「子ども食堂」支援のPB 牛乳(右)。

自社製品を通じた地域貢献として「子ども食堂」支援も

前田:高付加価値化戦略の一方で、コストをいかに下げるかという課題もあると思いますが、生産性向上やコストカットで気を配っていることは。

吉澤氏:
一つは物流で、いま大きな改善計画を進めている段階です。二次物流、三次物流となると採算性が厳しいですから、基本的に一次物流のみとしてルートを整理しつつ、共同配送も一部取り入れています。もう一つは工場のエネルギー効率の改善です。稼働率の低い設備などもあるので、これらの見直しを含む高効率化が今後の課題ですね。

前田:
地域社会との関係や信頼づくりの一環として、子ども食堂への支援なども行われていますね。

吉澤氏:
弊社のモットーは、「健康・自然・地域」です。このうち、いま一番力を入れているのが「地域」で、南国市の学校給食会さんと一緒に地場食材を使った商品の開発なども行っています。

子ども食堂への支援は、市内の食堂からお話があり、協賛で牛乳をお届けしたのがきっかけです。その後、県の補助金などで運営する「高知県子ども食堂支援基金」が設立され、加盟する県内の子ども食堂すべてを支援できるしくみが整いました。
地域のスーパーさんから、この基金を利用して大規模な支援活動をしませんかというお話をいただいて、PB商品の牛乳1本につき1円を弊社とスーパーさんで負担して、基金に寄付する活動を2017年に始めました。今年は別のスーパーさんと連携して同様の活動を続けています。
 

人手不足のいまこそ地域企業にビジョンが必要

前田:子ども食堂を利用する子たちは食生活の管理がしにくい状況にあります。牛乳を提供して栄養バランスの改善に役立ててもらう、あるいは乳業メーカーから栄養士さんを派遣してアドバイスするなど、子ども食堂との新たな関係づくりの提案をJミルクでも検討しているところです。

ここまで地域乳業としての強みをお聞きしてきましたが、逆に地域でのビジネス展開における課題はどんなことでしょうか。

吉澤氏:
やはり人手不足の深刻化ですね。優秀な若者が来てくれない、地元に残ってくれないというのは、地方の多くの企業に共通の悩みではないでしょうか。

地元に残って働こうという言葉だけでは、現状はなかなか変えられません。会社としての課題を整理し、将来的なあり様を明確化して、「こういう会社をみんなでつくっていこう」というビジョンを示すことが重要だと思います。弊社としても今後、「ひまわり乳業しかできないこと、ひまわり乳業しかやらないこと」を大切にした地域でのビジネスを続けながら、多くの人材を引きつける企業像を確立していきたいと考えています。

前田:
企業としてのブランド価値をどう顕在化させ、発信していくかが課題ということですね。酪農現場も人手不足で悩んでいますが、全国の酪農家たちのネットワークを利用して、牧場と人材のニーズをマッチングし、牧場間での人材の異動などを支援する動きが成果を出しています。酪農経営を始めるのは難しいけれど、酪農や乳業に関連する仕事をしたいという若者は多いですから、業界としてサポートできることもあるかもしれません。

またJミルクでは、地域乳業さんの人材開発支援にも注力しています。日々の業務があってセミナーなどにも足を運べないという声を受け、地方への講師派遣事業を始めました。社員の能力開発に加え、次の経営者育成を課題とする地域乳業さんも増えているので、こうした事業を拡充しながら、地域でのビジネス展開をお手伝いしていきたいと考えています。

地域とのつながりを生かした商品開発や事業展開を中心に、大変興味深いお話をお聞きすることができました。本日はありがとうございました。
 

2018年10月30日

吉澤 文治郎 氏(ひまわり乳業株式会社 代表取締役社長)

前田 浩史(一般社団法人Jミルク専務理事)

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はじまりは1本の牛乳。
健康でありたいと思う気持ちでした。