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牛乳アレルギー児を持つ母親のストレス軽減

牛乳を少しずつ増やすことに前向きに取り組めるようにサポート

牛乳アレルギー児を持つ母親のストレス軽減 牛乳を少しずつ増やすことに前向きに取り組めるようにサポート

代表研究者 国立成育医療研究センター:小西瑞穂

 食物アレルギーの第2位に位置する乳幼児の牛乳アレルギー改善に向け、精神医学分野で発展した家族心理教育を応用してプログラム開発を行い、その効果の検証をしました。その結果、母親の精神的な負担感が減少し、心の健康が向上しました。

 また、子どもの牛乳アレルギーによる厳格な生活管理から生じるストレスの多い生活にも、前向きに捉えられるようになりました。

 さらに、母親のストレスが軽減されたことで、日常の子どもの態度や行動に対してイライラしたり、面倒に感じたりすることが少なくなりました。

母親のストレス軽減を目的としたプログラム開発

  食物アレルギーの発症は、乳幼児期が圧倒的に多いことが知られています。食物アレルギーの治療の基本は、アレルゲンを除去する徹底的な生活管理にあります。乳幼児期は、母親の多くが多少なりとも育児不安やストレスを抱える時期でもあり、その上、食物アレルギーが子どもにあれば、母親のストレスは増大することが推察されます。しかも、食物アレルギーの治療を進めていく上で、主に子どもの生活管理をしている母親の責任は大きく、その精神的負担の大きさは計り知れないものがあります。実際問題として、母親は食物アレルギーに関する正しい知識の不足や周囲の無理解によって、困惑したり不安を感じたりすることも少なくありません。

 また、死に至る可能性もあるアナフィラキシーショックへの恐怖は、特に子どものアナフィラキシーショックを実際に目の当たりにしたことのある母親にとっては非常に現実感を伴ったものです。さらに、乳幼児期という急激な成長期に、食物アレルギーによって重要な栄養源の除去を余儀なくされることによって、十分な栄養が摂取できないことへの不安を抱えながら、日常生活を送っているケースも多くあります。

 そこで本研究では、食物アレルギーの中でも発症率も高く、治りにくいケースの多い「牛乳アレルギー」に着目し、牛乳アレルギーの子どもを持つ母親のストレス軽減を主な目的に、精神医学分野で発展した家族心理教育を応用してプログラムを開発しました。母親がプログラムの実践を通して、牛乳アレルギーについて正確な知識を得るとともに、牛乳アレルギーの治療や育児から生じるストレスに対処できるようになり、心の健康を向上させることを目指しました。
 

プログラムを重ねるごとに母親が心理的に変化

 プログラムは、A病院アレルギー科外来に通院する牛乳アレルギー患者3~5歳児の母親6名(内1名は辞退)を対象に実施しました。子どもの年齢を限定した理由は、食物アレルギーの症状がある程度落ち着いた状態になると言われている3歳時点でも改善が見られない場合の母親の焦りや、小学校入学を前に、給食で牛乳が出されることに不安を感じる母親の精神状態を考慮したからです。

 今回のプログラムは、母親を2グループに分け、2週間に一度、全4回実施しました。プログラムは2部構成からなっており、専門的知識を提供する教育プログラムと、母親から提示された「現在困っていること」や「話し合いたいこと」について母親同士で問題を共有化し、実践的に問題を解決するグループワークで実施しました。プログラムは1回につき2時間とし、プログラムの開始前と開始後には、「食生活管理に対する負担感」「母親の精神的健康」「育児に対する感情」「牛乳負荷量」などについての質問紙と、プログラムの感想を自由記述によるアンケートで調査しました。さらに、長期的な効果を検証するため、プログラム終了後3ヶ月と6ヶ月後には、前述のプログラムと同様の構成で、フォローアッププログラムを行い、同様の質問紙と自由記述によるアンケート調査を実施しました。
 質問紙の結果を分析すると、フォローアップ終了後には「食生活管理に関する負担感」及び「子どもへの態度・行為への負担感」「育児不安感」の数値が低下するとともに、「母親の精神的健康」が改善しました。また、牛乳アレルギーの症状を改善させる治療法として、「経口免疫療法」という子どもが毎日飲む牛乳の量(牛乳負荷量)を少しずつ増やしていく方法を用いたことにより、プログラムが進むにつれて順調にその量が増加しました。牛乳アレルギーの子どもが飲む牛乳の量を増やすということは、アレルギー症状を引き起こす可能性が高くなるということになります。そのため、母親は不安を感じたり、ナーバスになりがちです。しかし、プログラムに参加することで、母親が牛乳アレルギーの治療に対する知識を深め、同じ疾患の子どもを持つ母親同士で悩みを共有できたことで、精神的な負担感が低下し、リスクを伴うがゆえに消極的になりやすい子どもが飲む牛乳量の増量についても前向きに取り組めるようになりました。 
 

「しんどいときはしんどいと言っていい」という気づき

 今回、質問紙の結果以上に注目されたのが自由記述による回答で、母親の心理的変化が文面から“ ありあり” と伝わってきました。プログラム開始前、どちらかと言うと母親のニーズは、牛乳アレルギーに関する正しい知識を得ることが目的の教育プログラムにありました。しかし、すべてのプログラム終了後には、グループワークが効果を高めたことが自由記述の回答からも明らかでした。それを象徴するように、「現在困っていること」や「話し合いたいこと」など母親から提示されるグループワークの話題が、3回目までは牛乳アレルギーに関することでした。しかし、4回目とフォローアッププログラム時には牛乳アレルギーの話題が母親から上がらなくなりました。
 自由記述の紹介(一部抜粋)
・これまでの生活で当たり前に感じていたことを改めてアンケートに書いたり、口に出すことで新たな気づきがあった。
・精神的なことを口に出せてありがたい。
・悩みが少なくなった。
・前向きにみんなとシェアできることで元気をもらった。
・たくさんの励ましで、モチベーションが上がった。
・心理面の話に興味があり、新しい気づきがたくさんあった。
・満たされない部分をフォーカスするのは、人生においても損だ。
・同じ悩みを持っていることが聞けて、気持ちが楽になった。
・すぐに実践できることを学べるのは嬉しい。
・自分の成長に目を向けるきっかけになった。
・ゆったりした気持ちになることができた。
・毎回のプログラム参加後は、ストレスフリーになった。
 
  自由記述の回答を見ると、プログラムを重ねるごとにストレスが軽減し、自信が回復されていく様子が伺えます。しかし、母親はこれまでに子どもの牛乳アレルギーについて、人前で話すことがほとんどなく、当初、プログラムに参加することに困惑する人も多くいました。そのため、母親がリラックスして参加できるように、プログラム実施時は特に3つのことを配慮しました。

 1つ目は、毎回、同じメンバーでプログラムを行い、発言しやすい環境を作ることでした。2つ目は、専門家の話を聞く場ではなく、なるべくメンバー間で会話のやりとりができるように配慮しました。3つ目は、自分より子どもに目を向けがちな母親に、まずは自分自身に目を向けさせるため、内面の状態に気づけるような問いかけや声かけを意識しました。母親が自らの気持ちに気づき、それを話し、他者と共有することが心の安定につながることで、子どもの見方や接し方が変わると考えたからです。

 さらに今回のプログラムで一番の成果は、母親が「自分は頑張っている」ということに気づけたことだと考えています。母親は母親としての役割や責任感から、自分の精神的・身体的な「しんどさ」に気づかないケースが往々にしてあります。

 また、牛乳アレルギーの子どもに配慮しながらの生活は、乳幼児期から毎日そのような生活を送っている母親には当然の生活になっており、気づかぬストレスとなっている可能性もあります。そのため、母親が自分の不安や大変さに気づき、それを言葉にして誰かと共有し、前向きな生活を営むことができるようになることが必要です。母親が元気になることは子どもにも良い影響を与え、牛乳アレルギーの治療にも良い影響があるのではないかと考えています。 

 さらに、生活を送る中で大切なことは、大変な生活の中にも良い面に気づき、母親がこれまでの子育てや子どもに注ぐ深い愛情に自信を持つことだと考えます。もちろん、母親へのストレスを和らげることが、直接的に子どもの牛乳アレルギーの改善につながるわけではありません。しかし、疾患を持ちながらも日々を楽しく暮らすことが、治療に良い影響をもたらすと考えています。
 

- 「わかりやすい最新ミルクの研究」2016 年度 -

一般社団法人Jミルクと「乳の学術連合」(牛乳乳製品健康科学会議/乳の社会文化ネットワーク/牛乳食育研究会の三つの研究会で構成される学術組織)は、「乳の学術連合」で毎年度実施している乳に関する学術研究の中から、特に優れていると評価されたものを、「わかりやすい 最新ミルクの研究リポート」として作成しています。

本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。
 

2017年7月25日

牛乳アレルギー児を持つ母親のストレス軽減 牛乳を少しずつ増やすことに前向きに取り組めるようにサポート

代表研究者 国立成育医療研究センター:小西瑞穂

- 「わかりやすい最新ミルクの研究」2016 年度 -

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研究報告書は乳の学術連合のサイトに掲載しています

研究の詳細は、こちらをご覧ください。

牛乳アレルギーを持つ子どもの母親へのストレス介入プログラムの開発 

乳の学術連合のサイトはこちら

我が国における牛乳乳製品の消費の維持・拡大及び酪農乳業と生活者との信頼関係の強化を図っていく観点から、牛乳乳製品の価値向上に繋がる多種多様な情報を「伝わり易く解かり易い表現」として開発し、業界関係者及び生活者に提供することを目的とした健康科学分野・社会文化分野・食育分野の専門家で構成する組織の連合体です。

乳の学術連合 

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