j-milk magazine ほわいと 2005秋
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2005年の7月に食育基本法が施行され、社会全体で食生活について見直す動きが活発になっています。
特に注目を集めているのがこどもたちの食や運動など生活習慣と健康についての関わりです。
今回は、2005年7月11日サンケイプラザにて行われた、村田光範先生の講演から、こどもたちの生活をめぐる問題とその原因、対策についての考察をご紹介します。
■朝食抜きはなぜいけないのか?
平成14年度の東京都教育庁の調査で見ると「いつも朝食を食べない」「あまり食べない」というこどもが小学生で8.5%、中高生では10人に1人以上という状況になっています。食べない理由の多くが夜型生活で「食べる時間がない」「食欲がない」ということです。

朝食・昼食・夕食はどこの国でもほぼ決まった食習慣ですが、人はなぜ1日3回の食事を取るか、なぜ朝食を食べなければいけないか?というところから考えてみたいと思います。

人間は食事により炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン等の栄養を補給します。炭水化物からはグリコーゲンが作られ、必要なときにはブドウ糖に分解されて脳・神経系や赤血球を働かせます。グリコーゲンは1回の食事で約50gが肝臓に蓄えられますが、だいたい6〜8時間で使い切ってしまいます。脳には1日約140〜150gのブドウ糖が必要ですから1日3回の食事が必要になるというわけです。そして、1回、食事をしないと、肝臓のグリコーゲンがなくなり、筋肉のたんぱく質を分解してブドウ糖をつくり、脳と赤血球が使うエネルギーを補充します。

脳に供給されるブドウ糖が少なくなると、脳が「これは大変だ」と認識し、摂食中枢を刺激してエサを捕るために攻撃的・排他的にするのです。動物は攻撃的にならないとエサが捕れませんし、捕ったエサは排他的にならないと独占して食べることができないからです。つまり人間もそれと同様の落ち着かない状態になり、学習能力が低下し勉強などに集中できず、イライラしてキレやすくなるということなのです。

また、朝食を常習的に食べないこどもは学習能力とともに、運動負荷後の心拍数などから調べた結果、運動能力も落ちていることが報告されています。そうしたことから、朝ごはんを食べることがこどもたちのカラダのリズムを整え、学習をはじめるためには大いに重要だということがわかります。
■内臓型肥満とやせすぎのこどもたちが増えている
それから、肥満傾向児と痩身傾向児(※肥満傾向児と痩身傾向児:性別、年齢別、身長別標準体重に対して120%以上の体重を示すものが肥満傾向児。同様に80%以下の体重を示すものが痩身傾向児。)が増えているという問題があります。

特に腹腔内についた脂肪細胞からは臓器障害につながる活性物質やホルモンが出ることがわかってきていますので、内臓脂肪型肥満には注意しなければなりません。肥満の増加とともに増えてきているのが2型糖尿病で、このような健康障害を起こす内臓脂肪型肥満の原因のひとつに運動不足があげられます。

一方、やせすぎの問題もあります。私たちは今までこどものやせは栄養障害や慢性疾患などの病気ととらえていましたが、最近ではこどものうちからファッションとしてのやせ傾向が増えており、これは大問題であると認識しています。

大学でBMI(※BMI:肥満の度合いを示す数値。体重(kg)÷身長(m)2で18.5以上から25未満が標準的な数値。)18.5未満のやせ型の女子学生を調査したところ、筋肉も脂肪も少ないタイプが約33%。筋肉量が少なく脂肪量が標準的というタイプが58%。筋肉量は平均的で脂肪量が少ない人が5.0%でした。問題は筋肉量が少なく脂肪量が標準的なタイプで、最近は特にこの運動不足が原因と考えられる人が増えています。

やせ型の女性は、標準体型の人に比べ平均寿命が短いという統計が出ており、また、やせ型の女性から生まれたこどもは胎児期に倹約遺伝子(※倹約遺伝子:飢餓状態でも代謝を低くおさえて生き残るための遺伝子。人類の長い飢餓経験から、この遺伝子を持つ人は多く、エネルギー消費が少ないため、過食の時代には肥満につながりやすい。)が発現しやすく、将来、生活習慣病になりやすいという説もあります。これらの点から、こどものやせは、肥満以上に注目しなければなりません。

思春期を迎えると肺と心臓がぐんと大きくなります。より良い心肺機能を持って運動能力が高くなれば、より良いエサをたくさん捕り、より良い個体になれる。本来それが成長するということですから、テレビや室内ゲームなど室内娯楽に費やす時間が年々増えているこどもたちの運動不足は大きな問題で、そのような生活が心肺機能の低下や筋肉の減少、内臓脂肪型肥満とやせの増加につながっていることは憂慮すべきことです。
痩身傾向児の年次推移
■過食の時代、その一方で不足するカルシウム
食の問題については、国民栄養調査結果などで見ると、こどもたちの栄養摂取量はだいたい上限に近づいてきています。しかし、過食の時代といわれる現代でも摂取量が不足しているのがカルシウムです。カルシウムを含む食品には緑黄色野菜や小魚などいろいろありますが、吸収率の点から考えると牛乳はカルシウム補給に非常に適した食品です。牛乳のたんぱく質の80%を占めるカゼインはカゼインホスホペプチドになり、このペプチドと結合するとカルシウムは吸収率が良くなります。また、乳糖がカルシウムの腸管壁の透過性を高めるといわれています。そのほかに生活習慣病予防の見地から考えても、乳製品はストレスを軽減し精神を安定させる、高血圧予防に役立つカリウム、抗酸化作用のあるビタミンB2、腸内細菌の調整に役立つ乳酸といった多面的な三次機能を持つ栄養素が多く、上手に活用してほしいと思います。

おとなになると乳糖がうまく消化できない方が見られますが、乳児期の人間はほとんどすべての糖質を乳糖から得ています。離乳後の成長過程でもう少し乳製品の負荷が加わればこうしたことも少なくなるのではないかと考えています。
■真に豊かな食生活をこどもたちに
7月からは食育基本法が施行されました。学校などの場で栄養教諭は給食等、全体の栄養・衛生管理の仕事に加え、こどもたちの欠食やアレルギー問題を含めた個別の指導などの仕事も増えると考えられます。そこで、みんなでこどもたちのために真剣に考え、食育基本法を十分に活用していくことはとても重要です。

現代のように豊かで自由な社会は不健康な生活習慣を生み出す必然性があると私たちは理解しなければなりません。

食生活でいえば「好きなときに好きなものを好きなだけ食べる」のではなく、幼児期から早寝早起き型の生活習慣をつけ、朝・昼・夕の食生活リズムをきちんと確立する。外遊びを通じた身体活動の増加などを確立させる。こどもの生活状況を真摯に見つめ、保育所、幼稚園、学校の持つ意味を問い直し、食育について体系化する必要がありますが、これはこどもたちに近い現場、裾野から考えて体系化していかねば意味がありません。

豊かな生活を実現した現在、「ぜいたくと気ままな生活」という罠から逃れることは難しくなっています。社会全体が罠から逃れるため、真に「豊かなこと」と「ぜいたく」を分別し、食や生活習慣についておとながこどもに本当の豊かさを教えていかなければならないと感じています。
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