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骨の健康とカルシウムの関係 - 医療現場に伝えたい最新研究の成果 -

乳の学術連合・牛乳乳製品健康科学会議では、乳の栄養健康機能における価値をテーマに新たな知見の研究やエビデンスの収集を行っている。
乳の栄養機能の柱となるカルシウムと、骨粗しょう症予防など骨の健康との関連について、同会議会員の廣田孝子氏に聞いた。

j-milkリポートvol-26より

子どものカルシウム摂取は牛乳乳製品に依存

—— 先生のご研究の経歴と、牛乳乳製品との関わりをご紹介ください。

廣田:大阪大学大学院博士課程を修了後、米国ボストン大学医学部で女性ホルモンの伝達機構、次に米国立衛生研究所(NIH)でカルシウムによるホルモンの調節機構の研究に取り組みました。帰国後、世界でもほとんど研究がされていなかった女子学生の骨密度の研究を始めました。

 対象の学生を骨密度順に4群に分けたところ、一番低いグループはWHO定義の骨量減少に該当するほど骨密度が低かったのですが、このグループに観察されたのが、子どものころから現在まで牛乳をほとんど飲んでいない人がとても多いことでした。他のグループでは、子どもの頃は飲んでいた、あるいは子どもの頃から思春期を通じ今も飲んでいる人たちの骨密度が有意に高かったのです。牛乳摂取と骨密度との間に相関関係があることがわかりました。私がカルシウムや牛乳・乳製品に関心を持つようになったのはそれからです。

 食事に関連する調査で、それぞれの人が実際に摂っている栄養素の量を正確に把握するのは難しいのですが、カルシウムに関しては別です。なぜなら、カルシウムを豊富に含む食品は限られ、中でも牛乳はカルシウム含量が多く、吸収効率も高いため、牛乳摂取量がカルシウムの量に強く反映されます。カルシウム摂取量を知りたければ、牛乳の飲用習慣を聞くのが手っ取り早いということです。実際、子どもたちが1日に摂っているカルシウムの約50%は牛乳・乳製品によるもの。大人は30~40%ですから、子どものカルシウム摂取は牛乳・乳製品に大きく依存していると言えます。
 

思春期の骨密度増加が将来の骨の健康に

—— カルシウム摂取と骨密度の関連について、最近はどのような研究をされているのですか。

廣田:本学園の小学校高学年と中学校の子どもたちを対象に最大骨量の効果的な蓄積に関する研究を行っています。2005年に発表した論文で、大阪府南部と和歌山すさみ町の子どもたちの骨密度を測定し、子どもたちの毎日の食事が骨の成長に大きく影響を与える結果が観察されました。

 思春期の骨の健康に対する食事の重要性については、その後もさまざまな科学的なデータが出てきたので、もう一度、都市部の子どもを対象に、成長期の骨密度の変化を追ってみようと思ったのです。

—— 先生は以前から、子どもたちの骨密度に着目した研究を続けられてきました。骨粗しょう症予防の点でも子どもの骨の健康は重要です。


廣田:海外での研究によると、思春期の骨密度を10%高くすることで、高齢期の骨粗しょう症の発症を10年以上も遅らせることが出来ると報告されています。特に女性は、10代半ばに骨密度のピークを迎えるので、この時期までに出来るだけ高めておくことが重要です。更年期になってから慌てて、急激な骨密度の減少を抑えるよりも、思春期の骨密度を積極的に増やすほうが骨粗しょう症の予防にはとても効果があるという結果です。思春期こそが骨の健康にとって最も重要な時期だと改めて気づかされます。

 本学園の小学校高学年と中学生の骨密度を測定し、以前(2000年頃)測定した子どもたちのデータと比較したところ、まず、現代っ子は、日焼けを気にして、日光浴をしたがらない傾向が強く、ビタミンDが豊富な魚嫌いが多く、太るのも気にしていて、白くほっそりした小学生女子が多いです。次に、学校給食が毎日は無く、牛乳を残す子どもも多く、カルシウムとその吸収を促進するビタミンDの栄養状態は良好とは言えません。

 そこで、今回の測定結果を子どもたち自身に知らせて、カルシウムやビタミンD、運動を増やせば、今ならタイミング良く骨密度を増やせる!といったアドバイスを家族も巻き込んで行いました。半年後に再度、測定を行ったところ、驚くほどに骨密度が増えていたのです。骨密度が最高に蓄積されるこの時期に、自身の骨密度値を知り、食生活などを改善すれば、効率よく骨密度を高められるのです。一生の骨の健康につながる実践的な取り組みを促すことが大切です。
 

牛乳にまつわる“誤解”の解消のために

—— 骨粗しょう症予防における牛乳乳製品の価値は、一般の認知も高まっているように感じますが、先生はどう見られていますか。

廣田:牛乳摂取と骨粗しょう症予防の関連性についての認知は高まっていますが、その一方で「牛乳を毎日飲んでいたら太る」「動脈硬化になりやすいのでは」といった声も聞かれるようになってきました。

 そこで学生を対象に、骨密度と動脈硬化指数(血管年齢)をあわせて計測してみたところ、両者に共通する相関因子は牛乳摂取で、子どもの頃に乳製品をよく摂っていた学生は骨密度が高く、血管年齢も若いことがわかりました。

 次に女子学生を対象に、適切な食事と運動によるダイエットに並行して毎日牛乳を飲んでもらったところ、牛乳を飲まないダイエットに比べて、体脂肪が大きく減って筋肉量は増えていました。牛乳を飲まないダイエットでは、減った体重の大部分は筋肉でした。

 以上の研究結果から、牛乳を飲むと太るのではなく、メタボリックシンドロームや動脈硬化につながるものでもないことがわかりました。むしろ牛乳やカルシウムは、骨や血管に良い影響を与えていると言えます。その際に重要なのは摂取するタイミングで、子どもの頃からの牛乳摂取が骨や血管づくりにはとても大切なのです。

 残念ながら、牛乳の摂取が動脈硬化に良くないという意見は一部の医療現場でも聞かれます。こうした情報を伝えられた一般の人たちが、牛乳に対して誤解を抱いたり、飲まなくなったりするケースもあるようです。今後は医師や薬剤師、栄養士に向けて、科学的データを地道にお知らせしていく必要があると思います。
 

研究成果と生産者の思いをリンクさせる

—— 乳の学術連合での今後の活動について、先生ご自身のお考えをお聞かせください。

廣田:学術連合の会員になってセミナーなどでの講演が多くなり、参加者の反応から自分達の研究を顧みる機会が増えました。私は牛乳・乳製品をカルシウムという栄養面から捉えていたのですが、あるセミナーで酪農家のお話を聞いて、乳牛への思いや生産流通の現状について知ることができました。酪農家が苦労してつくっているミルクを飲むと、体にもこんなにすばらしいことがあるというように、生産者の視点と私たちの研究成果をリンクさせることで、消費者も納得しやすい情報発信ができるのではないかと思いました。

 今後はこうした点も踏まえながら、各所での講演でカルシウム(牛乳・乳製品)の摂取や骨の話題を扱っていきたいと思っています。秋には医師会の先生方を対象に講演させていただく予定もあるので、医療現場へ向けた啓発活動を私なりにお手伝いできればいいなと考えています。
 

2017年10月30日

京都光華女子大学 健康科学部 健康栄養学科 教授
神戸女学院大卒、大阪市立大学大学院生活科学部修士課程、大阪大学大学院医学部博士課程修了。米国ボストン大学医学部、米国国立衛生研究所勤務を経て、大阪大学医学研究員、辻学園中央研究室室長、その後現職。研究テーマは、抗老化の食事法(「若く見られる人はほんとに若い」中央公論新社)

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