乳和食レシピができるまで — レシピの変遷と進化 —

乳和食開発者である料理家・管理栄養士の小山浩子先生が作り出す乳和食レシピは、牛乳料理や減塩料理という枠で説明するには十分ではなく、これまでにない牛乳の使い方により日本人の食生活に馴染むように生み出された料理で、日本人による日本人のための、まさに“新しいスタイルの和食”といえます。
減塩料理といえば主に高齢者や血圧に気をつけなければならない人向けの料理というようにイメージしがちですが、乳和食は全ての世代に必要な牛乳の栄養素を上手に摂取するための私たち日本人の暮らしに寄り添った調理方法で、普段の食卓の料理を置き換えても違和感がないことが大きなポイントです。
レシピページで公開しているとおり、特別な材料を使わずに作ることができ、小さな子どもから高齢者まで好まれる定番の家庭料理です。
中には、小山先生が全国各地で調理指導をする中で「こんなレシピはできませんか?」という受講者からの要望から生まれたレシピもあるそうです。

それでは、どのようにレシピを開発していくのでしょうか?
通常のレシピ開発とはどういった点が異なるのでしょうか?
「レシピ開発をするときには食材の組み合わせや調味料との配合を何度も試し、使用する材料を限りなくシンプルにしていく作業を行います。牛乳特有の複雑な旨み成分のおかげで調味料の種類や量が抑えられるので減塩につながりますが、単純に調味料を減らして牛乳に置き換えるのではなく、味を構成する要素をまずイメージして、牛乳と調味料の量の割合を確定することが重要で、その作業にかなりの時間を要するんですよ。」と小山先生。
乳和食の活動がスタートした2013年当初から乳和食がバージョンアップしていくようすを、当時を代表するレシピと、レシピ開発をする小山先生の思いとともに時系列に沿って紹介していきます。

[2013年] “おいしく減塩・乳和食” 活動開始

「目からウロコのおいしい減塩乳和食」(発行:社会保険出版社 2013年)
現代日本人の食生活課題である減塩と高血圧予防に効果的な調理法として誕生した「乳和食」。
5つの調理方法(*だしにする  *わる・のばす  *ゆで戻す  *溶く  *酢を加える)を「ミルクマジック」として訴求することで、牛乳を減塩に利用できることが広く印象づけられました。
「日本人が普通に食べている和食に牛乳を違和感なく使うという無謀とも思えることへの挑戦でした。」という小山先生。
一番苦労したのは乳和食の定番である「さばのみそ煮」です。牛乳の色、牛乳の味のしないみそ煮を目指し、試作を 50回以上重ねた結果、乳和食の基本となる大きなポイントを発見したそうです。
それはすべての材料を加熱前に合わせておくことと、食材に対する牛乳の量にありました。
私たちが食生活の中で塩分を多くとってしまいがちな漬物には、牛乳に酢を加えて作ったホエイ(乳清)を使うことで、減塩でもおいしい酢の物や浅漬けを作る調理法を確立。(参考レシピ:わかめときゅうりの酢の物
和食の献立に欠かせないみそ汁にも牛乳を使いたいところでしたが、当時は汁ものに牛乳を使う際に白くならない技術はなく、ヨーグルトを使用することで減塩を実現したそうです。


 さばのミルクみそ煮(2013年)
牛乳、調味料を含む材料をすべてに鍋に入れて加熱。臭みが抜けて減塩に。(レシピ:さばのミルクみそ煮

[2015年] 和食ならではの特徴を乳和食に

和食は季節を大切にする料理です。旬の食材を使うことや、特別なときにいただく行事食は古くから親しまれ、日本人の食文化として根付いています。乳和食はその和食の特徴を大切にしながら開発されています。
冬の食卓の定番「寄せ鍋」レシピの開発は苦労の連続だったそうですが、牛乳を入れた鍋の中にレモンの輪切りを入れて一緒に加熱することで、白い牛乳鍋ではなく、透明な鍋つゆのレシピが生まれました。牛乳から分離してできた固形分のカッテージチーズはひき肉と混ぜてつみれに使います。このレシピは鍋を囲み楽しみながら親子で作れることで評判です。
こうして生まれたつみれ鍋の発想は煮物にも利用されています。(参考レシピ:たけのことたらこの牛乳煮


鶏の牛乳レモンつみれ鍋(2015年)
鍋の中の化学変化が特徴的。ホエイが透明のだしに。(レシピ:鶏の牛乳レモンつみれ鍋

[2016年] “ミルクみそ”の誕生

「毎日の暮らしの中でどうしたら乳和食を実践してもらえるのか、料理をあまりしない人に作ってみたいと思ってもらうためにはどうしたら良いのか」という課題に対して、小山先生は材料の見せ方を工夫をされました。手間がかかると思われがちな減塩料理ですが、「牛乳」と「調味料」の使用量を、シンプルに「基本配合」として示すことで少しでもハードルを下げられるのでは、というアイデアです。
そんな課題に向き合っていた中、長い間考えあぐねていた「白くないみそ汁」に答えが出ました。
牛乳みそ汁というと、できあがったみそ汁にあとから牛乳を加えることが一般的ですが、それでは白いみそ汁になってしまいます。そこで、みそと牛乳を別々に加えるのではなく、あらかじめ混ぜ合わせた「ミルクみそ」を作っておき、最後に加えたところ、和食として違和感のない乳和食のみそ汁ができあがりました。


みそ汁(2016年)
みそと牛乳であらかじめ「ミルクみそ」を作り、最後に加えることで色も味も牛乳入りとは気づかない仕上がりに。(レシピ:みそ汁

[2017年] 大量調理レシピの開発

病院や福祉施設など給食を提供する施設で導入されているスチームコンベクションオーブン(スチコン)を使用すると、焦げ付きやすい牛乳料理も材料をセットするだけで簡単においしくできあがります。
スチコンの専門家によると、牛乳とスチコンはとても相性が良いとのこと。
水は使わず、調味料と牛乳をあらかじめ「合わせ調味料」にしておき、材料と混ぜて一気に加熱します。密閉空間で蒸気により火を通すので家庭料理で少量作るときよりも少ない調味料と牛乳量でおいしい減塩が可能になります。
牛乳を使わない場合と使った場合の試作を重ね、比較しながら限界まで塩分を落としたレシピが完成しました。(スチコンレシピページでレシピ36品公開中)


 卯の花(2017年)
「スチコンで減塩!大量調理レシピ」より(レシピ:卯の花

[2017年] “牛乳+調味料” のバリエーション

みそと牛乳を合わせて使うことで、和食と違和感なく仕上がる「ミルクみそ」と同様の考え方で、みそ以外の調味料を使ったレシピが多数開発されました。通常より調味料の使用量が少なくても、牛乳と合わせるだけで減塩でもしっかりとした味わいに。「ポン酢と牛乳を合わせて作った煮物が、まるで肉じゃがのようにおいしくできあがったことは大発見でした。」と小山先生。
他にも「マヨネーズ」を合わせたつくね(えびマヨつくねのごま揚げ)、「ケチャップ」を使った茶碗蒸し(トマトとしょうがの茶碗蒸し)、オイスターソースのシュウマイ(カニ風味のシュウマイ)など、食べ盛りの子どもも喜ぶレシピをたくさん紹介しています。


ポン酢で作るとり肉じゃが(2017年)
さわやかな風味が人気の「ミルクポン酢」。(レシピ:ポン酢で作るとり肉じゃが

[2018年] “新しいスタイルの和食” として

「やさしい、おいしい はじめよう乳和食」(発行:日本実業出版社 2018年)

持続可能な健康生活をおくるために

 ①見た目も味も「和食」のおいしさそのまま、②牛乳を和食の「だし」として使う、③減塩効果と栄養バランスを整える乳和食の特徴を3つのポイントに整理し、調理法をより簡略化することで、通常の和食と変わらずに、幅広い層の食事に取り入れてもらうことを意識したレシピ開発に取り組まれました。
牛乳、ホエイ、カッテージチーズそれぞれの役割を和食調理の中での使い方を明確にしたことで、見た目とおいしさ、作りやすさを追求した完成度の高いレシピが完成しました。
ホエイを水代わりに使用する「ホエイごはん」の応用で「おこわ」や「すしめし」に、ホエイを調味料と合わせた「ホエイだし」を使った常備菜のレシピも充実しています。(参考レシピ:オクラの焼き浸し


さつま芋の黒ごまおこわ(2018年)
3大ミネラルのカルシウム、カリウム、マグネシウムをごはんで摂れる。(レシピ:さつま芋の黒ごまおこわ
 鶏の照り焼き(2018年)
「ホエイ」+「めんつゆ」を使ったホエイだしで見た目も味も満足の照り焼きに。(レシピ:鶏の照り焼き

[2020年] 介護現場への提案

高齢になると病気などをきっかけに低栄養になりやすく、筋力の低下や骨量の減少による骨粗しょう症にもつながるおそれがあります。毎日摂りたい牛乳を無理なく取り入れられる乳和食は、噛む力や飲み込む力が弱くなった高齢者の嚥下調整食としてもおすすめ。
家族みんなで食べる食事の一部をきざみ状やペースト状にすることで、牛乳の豊富な栄養素を摂取でき、調理する側の負担も軽減することができます。(介護レシピページでレシピ11品公開中)
塩分が控えめなので小さな子どもがいる家庭でも、家族の食事から安心して取り分けることができます。

乳和食レシピはこれからも家族みんなの暮らしと健康をサポートするために開発されていきます。

2021年04月14日