コラム、「ミルクの国の食だより」の第5回をお送りします。
フランスの国を挙げての大規模食育イベント、 ”味覚週間(la Semaine du Goût )”のご紹介です。

味覚週間とは

フランス国民の9割以上が認知

フランス食育政策の要の一つに、 ”味覚週間(la Semaine du Goût )”があります。

1990年、料理評論家のジャン=リュック・プティルノー氏と砂糖協同組合の発案によって、パリで行われたのが始まり。これは、350人のシェフによる小学校での1日だけの”味覚のレッスン(Leçon de Goût)”でした。

当時、フランスでは子供たちを取り巻く食の乱れが指摘されるようになりました。

次世代を担う子供たちに、フランスの食文化をきちんと伝えていこうという思いで始めたのが、人々に広く受け入れられ、現在では9割以上のフランス国民に認知されるほど、国を挙げての大規模なイベントになっています。

味覚週間の目的

第一の目的は”教育”

味覚週間は、毎年10月第三週にフランス全土で開催されます。その、第一の目的は教育です。

*味覚週間の目的*

  1. 消費者、特に児童・若者への食の教育と実習
  2. 味や風味の多様性を提供
  3. 食品の起源、品質などの情報提供
  4. 職業と技能の伝承
  5. 味わう喜び
  6. バランスのとれた食事が持続できるように促す

具体的な取り組み内容

フランス中のいろいろな場所で、対象にあわせたプログラムが行われます。
● 味覚のレッスン(Leçon de Goût)
1990年のイベント創設以来、味覚週間に欠かせない活動のひとつ。5000人を超える料理人や食の職人(パン屋、肉屋、チーズ製造者、農家他)がボランティアで学校を訪れ、子どもたちに味覚の基本や食品の味を教えます。
●シェフinキャンパス(Chef sur le Campus)
食べることがいかに健康に大切かを学生に伝えるため、星付きレストランのシェフがおいしく健康的でバラエティに富みかつ低予算でできるメニューを、30以上の大学の講義室で披露します。
●味覚のテーブル(Les Tables du Goût )
町のレストランでは、味の再発見をしてもらうための特別メニューが提供されます。参加するレストランは500軒以上、学生は割引価格で食べることができます。
●味覚のアトリエ(Les Ateliers du Goût )
臨時の市、商業イベント、祭り、シンポジウム、討論会、見学会など、各地で2,000以上のイベントが開催されます。
子どもだけでなく誰でも参加でき、市役所、県会、商工会議所、美術館、農業者、企業などが中心となって企画されています。

小学校での味覚のレッスン(Leçon de Goût)の様子

■味覚のレッスンの前に栄養のお話。食物のグループを花びらに例えています。
■特徴あるチーズを試食させて子どもに味の発見をさせます。
■コップの中にはカマンベール、パルメザン、シェーブル、エメンタールが入っています。臭いをかいで、振って音を聞いてそれぞれどれが入っているか当ててもらいます。

公民館での味覚のアトリエ(Les Ateliers du Goût )の様子

■公民館での味覚のアトリエの様子。リヨンの特産品を展示するブースが10店、子どもを対象にしたのが6店ありました。
■リヨン名物、内臓料理のTrips lyonnais(トリップリヨネ)。シェフ自ら料理の説明をしながら試食を出してくれました。
■コップの中身は牛乳。試飲は、キウィ、ミント、シナモン、桃のシロップなど、お好みのシロップを混ぜて。

日本での味覚週間

さまざまな活動を通して食への興味を引き出し、食を楽しむ心をはぐくむ味覚週間。
この「味覚」をキーワードにした食育は、いまやフランス国内のみならず、スイス、ルーマニア、中国そして日本など多くの国で共感・賛同され開催されています。
*la Semaine du Goût(フランス)
*味覚の一週間(日本)
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。