リヨンの学校給食から考える、持続可能で健康的な食生活 - 2
(食生活の格差の指標)

ミルクの国の食だより 連載一覧

コラム、「ミルクの国の食だより」の第91回をお送りします。前回に続き、リヨンの学校給食から考える、持続可能で健康的な食生活(食生活の格差の指標)についてお届けします。

2021年5月24日

意外と知らないフランス人の食生活

フランスで、肉は長い間、貴族や聖職者といった最も裕福な階級のみで登場する高級品であり、戦争時には強さと活力の象徴として、兵士のみが食べることが許された食べ物でした。

庶民はハレの日しか口にすることができなかった肉は、後に訪れた産業革命による農業・畜産技術や輸送の発展などにより、徐々に手が届く食品になっていきました。

栄養だけでなく、常に富と権力の象徴であり続けた肉は、都市化に伴う生活水準の向上により、誰もが食べる当たり前の食べ物として人々の食生活に定着していったのです。

1990年以降減少する肉の消費量

フランス革命前夜、1人1日当たり約50gだった肉の消費量は1900年代初頭に110g、1985年には270g*1) に達し、200年間で約5倍に膨れ上がりました。

その後も年々増え続けましたが、1990年代以降、徐々に減少していきます。

経済状況の悪化による食品価格の高騰が主な要因で、現在フランス人1人当たりの肉類・肉加工食品の消費量は約108g*2) で、日本人の消費量101gとあまり変わらない量まで大幅に減少しました。

そのため、今年2月にリヨン市が学校給食で肉料理を一時的に提供するのを止めた時、他の食品に比べ高額な肉は学校給食でしか食べられない労働者階級の子どももいるのに、それを出さないのは栄養不足の原因になると批判の声がありました。

職業別で違う肉の消費量

しかし生活環境調査観察研究所(CRÉDOC)の調査*3) によると、職業別では労働者階級の人の方がむしろ多く肉(特に肉加工食品)を食べているのです。

また、両親の教育階層別に子どもの食品摂取状況を調べた調査*4) では、0~10歳の子どものうち、両親が義務教育卒業レベルでは肉類・肉加工食品の消費量は1日当たり69.6gに対し、修士課程修了以上の両親の子どもは1日当たり63.2gと、両親の教育レベルが上がるにつれて消費量が低くなっていることがわかりました。

さらに、他の食品でも相関関係が見られ、特に野菜と乳製品が顕著で、野菜は両親が義務教育卒業レベルでは子ども1人当たり45.9g/日、修士課程修了以上のレベルでは69.1g/日とかなり多くなっています。

また、ヨーグルトとフロマージュブランは、両親が義務教育卒業レベルでは子ども1人当たり74.7g/日、修士課程以上のレベルでは94.4g/日と大幅に増える傾向にありました。

これまで、社会的地位によって生じる食生活の格差の指標が「肉」であったのが、「野菜」や健康的な「乳製品」に変わってきているのです。

  • フランスでは社会的地位によって生じる食生活の格差の指標が肉から乳製品や野菜に変わりつつあるようです。

社会的地位によって生じる食生活の格差

今、フランスの子どもたちに必要なのは、肉は量ではなく質であり、野菜や乳製品を組み合わせてより良く食べること、つまり、バランスのとれた食事が大切だということを知ることなのです。

かつて、貴族たちは野菜や乳製品は農民が食べるものと決めつけていました。それがルネッサンスという外国からの新しいムーブメントにより、それらの食品に新たな価値を見出し、彼らの食の概念を変えていった歴史があります。

フランス人の食生活はいま、大きな転換期をむかえています。


※このテーマは次号に続きます。

参考資料:
*1 論文:西ヨーロッパにおける19世紀と20世紀の食肉消費の変遷
 https://www.persee.fr/doc/rbph_0035-0818_2002_num_80_4_4680#:~:text=Cette%20progression%20est%20loin%20d,%C3%A0%2Ddire%20les%20pays%20m%C3%A9diterran%C3%A9ens.

*2 フランス国民栄養調査(2017年)より、一般食肉、家禽肉、加工肉製品、内臓の合計値

*3 生活環境調査観察研究所(CRÉDOC)調査【新世代の肉の消費】
 https://www.credoc.fr/download/pdf/4p/CMV300.pdf

*4 フランス国民栄養調査(2017年) 111~114頁 参照
 Étude individuellenationale des consommations alimentaires 3 (INCA 3)
 https://www.anses.fr/fr/system/files/NUT2014SA0234Ra.pdf

管理栄養士 吉野綾美

1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。