フランス人の食習慣の変化に関する報告
-フレキシタリアンという選択-

ミルクの国の食だより 連載一覧

コラム、「ミルクの国の食だより」は、2013年よりスタートし、記念すべき第100回を迎えることができました!
「ベジタリアン」や「ビーガン」は日本でもよく耳にするようになりましたが、フランスでは「フレキシタリアン」が増加傾向にあるようです。

フランス人の食習慣の変化に関する報告

皆さんはフレキシタリアンという言葉を耳にしたことがありますか。

肉・魚は食べないが卵・乳製品は食べる人をベジタリアン(菜食主義者)、動物性食品を一切食べない人をビーガン(完全菜食主義者)と呼ぶのに対し、フレキシタリアンは“柔軟”を意味する「フレキシブル(Flexible)」と、「ベジタリアン(Vegetarian)」をかけ合わせた造語で、動物性食品(肉・魚・乳製品・卵)の摂取量を減らす食事をする人(準菜食主義者)のことを指します。

柔軟なフレキシタリアンが増加傾向

フランスでは2020年、コロナ禍によるロックダウンを機に、家庭で料理する人が増えたこともあり、健康のためによりよく食べたい(84%)、消費を減らし質の良い食にしたい(82%)、地元の製品を好んで購入したい(78%)、環境を考えて食行動を変えたい(62%)*1と、食に関心を払う人が増え、これまでの食生活を見直し、ベジタリアンやビーガンにはならないまでも、動物性食品を控えるフレキシタリアンが増えてきています。

フレキシタリアンの公式な定義は今の所ないので状況に応じて解釈がかなり異なりますが、「自発的に肉の消費量を減らす」という括りにおいて、自身がフレキシタリアンであると回答したフランス人は24%、約1,060万人に相当します。

また同調査で、ベジタリアンと回答した人は0.8%、ビーガンは0.3%にとどまっています。ベジタリアンやビーガンが一時的な流行であると考えているフランス人は少なくなくありません。フランス人の多く(74%)は植物性食品と動物性食品の両方を食べる(オムニボア)と回答していますが、この中には主に経済的理由から肉類を控え、結果的にフレキシタリアン同様の食生活の人も含まれます。

「フレキシタリアン」で食生活を見直すきっかけに

菜食主義に転向するわけではないのでハードルが低く、主に健康的な観点から肉類を中心に動物性食品を控えるフレキシタリアン。

動物性食品となると肉類だけでなく、乳・乳製品の消費減少が懸念されますが、植物性ミルクなどに置き換えられることはほとんどなく、乳・乳製品はこれまでと同様に消費する傾向にあることがわかりました。

フランスで人々に選択されるようになったフレキシタリアンという新しい食習慣。その中において、乳・乳製品のイメージや存在価値、特に親の食生活の影響を受ける子供の食事にはどのような影響があるのか、フランスのミルクブランドLactelの調査結果を紹介します。

  • 【自己申告による食生活分類】
    ●オムニボア(OMNIVORE)植物性食品と動物性食品を分け隔てなく食べる
    ●フレキシタリアン(FLEXITARIEN)ベジタリアンやビーガンには転向しないが肉類の消費を控え、卵、乳製品などの動物性食品を食べる
    ●ペスカタリアン(PESCETARIEN)肉は食べないが、魚・卵・乳製品などの動物性食品は食べる
    ●ベジタリアン(VEGETARIEN)肉・魚は食べないが卵・乳製品などの動物性食品は食べる
    ●ビーガン(VEGAN)動物性食品を一切食べない

    【出典】フランス農業・食料・漁業・農村省によるIFP委託調査結果よりグラフ翻訳

準菜食主義(フレキシタリアニズム)が増加傾向にあるフランス人家庭の食生活アンケート結果

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより生活に規制がかかり、フランスではこれまでの食習慣を変えようとする人が増え、食事から動物性食品を減らす傾向だと指摘されています。

動物性食品(肉・魚・乳製品・卵)の摂取量を減らす準菜食主義者(フレキシタリアン)と回答したフランス人は2020年調査では24%*2になります。

特にロックダウン後に準菜食主義者が増える傾向において、家庭内では牛乳・乳製品の存在価値やイメージにどのような変化が生じているのかを知るために、フランスのミルクブランドLactelはアンケート調査(2020年)*2を行いました。

食生活アンケート結果❶ ミルクと乳製品は消費者にとって依然として不可欠な存在

子どもがいる世帯の約半分(51%)は、両親の少なくともどちらかは過去5年間に動物性食品の消費を減らしています。そのうち赤身肉は72%も消費を減らしているにもかかわらず、牛乳や乳製品は子どもの健康に不可欠であると考えている親は86%になります。

 過去5年間子どもたちの食事で、
  ミルクの消費量を維持し、あるいは増やしている親   …61%
  ヨーグルトの消費量を維持し、あるいは増やしている親 …75%
  チーズの消費量を維持し、あるいは増やしている親   …71%

また、ミルクや乳製品を減らした後、野菜ジュースや植物ベース代替ミルクを毎日飲んでいる子供の割合はわずか7%に留まっています。

動物性食品の消費を減らしたりやめたりした親の約半分(53%)が、18歳までの子供に1日あたり3〜4サービングの乳製品を国民健康プログラムPNNSが推奨*2していることを知っていますが、その子どもの3分の2(63%)は、1日あたり3サービングを下回っていると回答しています。学童期や青年期のミルクや乳製品の不足に伴う弊害について知っている親は動物性食品の消費を減らしたりやめたりした親の16%と多くありません。

両親の少なくともどちらかは過去5年間に動物性食品の消費を減らすかやめた子どもの食品摂取状況(%)



【出典】LactelのOpinionWay研究より翻訳(2020年6月9日)

食生活アンケート結果❷ 準菜食主義は10代の間で強まる傾向

親が動物性食品の消費を減らしたりやめたりしても、5〜11歳の男女および12〜18歳の男子の6割以上がミルクの消費量を増やしている一方、12〜18歳の女子では半数以上がミルクの消費を減らしています。

全体としての割合はごくわずかですが、16〜18歳の女子では家畜由来の製品を家庭で消費しないことに積極的に取り組んでいて、準菜食主義の傾向は10代の若者の間で、より顕著な傾向にあります。

食生活アンケート結果➌ ロックダウン中に変化した食習慣

ロックダウン中、子どもが食べるものについて注意を払い、料理をする際にも栄養バランスに気をつけていた親は7割以上で、特に準菜食主義者と菜食主義者の両親に多く見られました。この期間、小さな子どもも10代の若者も朝食をきちんととり、朝食が通常よりもバランスが取れていたと半数以上の親が答えており、朝食に欠かせないと考えられているミルクと乳製品がより大きな役割をもたらしたことに注目しています。

動物性食品の消費を減らしている親をもつ子どもがロックダウン中に消費を増やした食品

ヨーグルト チーズ ミルク 赤身肉
+35% +30% +31% +20%

ロックダウン中、親の32%は、子どものためにどの食品を選ぶべきかについて情報収集をしたと答え、この数字は、両親が動物性食品を減らしている世帯では43%に増加します。
ミルクは大切な存在(要約)
  • 準菜食主義の家庭では子どもの食事においても基本的な傾向ではある中、ミルクは子どもの食事の中で大切な存在です。
  • ロックダウン期間中は、朝食がより充実し、フランス人が台所に戻っただけでなく、子どもたちの健康に不可欠であると考えられている食品の認識のおかげで、牛乳や乳製品が通常よりも好まれました。
  • それにもかかわらず、ミルクの消費量は10代の若者、特に女子の間で低く、PNNSの推奨値を下回ると回答されています。
  • さらに、親は、子どもや青年に対してミルクや乳製品の摂取不足による弊害について十分に知らされていないことを認めています。
以上のことから、家庭においてバランスの取れた準菜食主義を支援するため、何よりも情報提供と教育が今後の課題になると結論づけています。

出典/参考資料: 

  • *2 PNNS(National Health and Nutrition Program 国民健康栄養プログラム)で推奨される1サービングはそれぞれ、ミルク150ml、ヨーグルト125g、チーズ30g
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。