第56回 フランスのクリーム 泡立てのコツ その3

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コラム、「ミルクの国の食だより」の第56回をお送りします。
第55回に続き、フランスのクリームの紹介です。市販のクリームは泡立てにくい料理用がほとんどですが、ホイップクリームが必要なときはスプレー式クリームを活用しているようです。

泡立たちにくいクリームが大半

フランスでは「30%以上の乳脂肪を含む乳」をクリームといいますが、実際に家庭用として売られているクリームで乳脂肪30%を超えるクリームはほとんどありません。
乳脂肪35%のクリームもあるようですが、置いてあるスーパーは多くありません。
売り場の半分くらいを、乳脂肪分12%以上30%未満の低脂肪クリーム(crème légèreクレーム・レジェール)が占めています。
これは誤算でした。
日本では、クリームは「乳脂肪分18%以上」と定義されていても、売り場では乳脂肪40%前後のホイップ(泡立て)用のものが主流です。
一方フランスは、バターやチーズ、ヨーグルトよりも濃厚なフロマージュブランなど、重たい乳製品が多いと思っていましたが、クリームだけは軽いのが主流。
液状、半固形状と質感はいろいろですが、いずれも乳脂肪は最高でも35%、ホイップしても泡立たちにくい、料理に使うクリームが大半ということです。
■半固形状のクリーム/乳脂肪30%(左)、少しとろみがあるタイプの低脂肪クリーム/乳脂肪18%(中)、 全脂肪クリーム(crème entière)と表示された液状クリーム/乳脂肪30%、スプレー式クリーム/乳脂肪42%(後)

泡立ての工夫いろいろ

ダレたり、潰れたりせず、ショートケーキにデコレーションできるくらいの形状を保つには40%位の乳脂肪分が必要といわれています。
試しに乳脂肪の調整をしておらず、一般的に乳脂肪分が他のクリームより高い(30 - 40%)とされるクレームクリュ(無殺菌クリーム)をマルシェのチーズ屋で買ってきて泡立ててみると、問題なくきれいなホイップクリームができました。
乳脂肪分30%のクリームを使って角が立つくらいに泡立てたい場合は、乳脂肪分の高いマスカルポーネチーズを液状クリームの3割ほど加えるか、製菓材料としてクリームの保形性を保持する添加剤を加えて泡立てる方法もあるようです。

スプレー式クリームも風味があって美味しい!

もっと手軽にホイップクリームを味わいたい時はスプレー式クリームがあります。
砂糖が既に添加されているのでプシュッと搾り出すだけ。泡立て過ぎてボソボソしてそうな質感ですが、原材料にクリーム(もしくは低脂肪クリーム)が75%以上使用されているのでちゃんとクリームの風味があって美味しいです。
家庭でホイップクリームを手作りすることがあまり多くないフランス人たちはむしろ、このスプレー式クリームを”クレームシャンティイ”と呼び、いちごに豪快にかけて食べます。
クリームの方が多くていちごが隠れてしまうくらい。
生クリームに砂糖を加えて泡立てる - 17世紀の料理技術としてはそれは斬新なアイデアだったに違いありません。
まして冷蔵庫もなく、生乳からクリームを取り出すのでさえ、時間と労力がかかった時代。
貴重な泡雪のようなクリームはさぞかし美味だったことでしょう。
現在フランスでは、ホイップクリームことクレームシャンティイは、スイーツの重要なアクセントとして欠かせない存在です。
■ホイップクリームことクレームシャンティイは、フランスではスイーツの重要なアクセント。レストランで出されたりんごのコンポートにもクレームシャンティイがたっぷり
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。