J-MILK REPORT Vol.51 需要拡大の取り組み-ミルクのために、ひとつになろう-
コラボが描く、ミルクの未来
「牛乳でスマイルプロジェクト」参加メンバーの事例から探る「新たな価値を創る協働」のヒント
多様な業種・主体が参加して牛乳・乳製品の消費拡大を目指す「牛乳でスマイルプロジェクト」。
そのメンバー企業3社の担当者をお招きして、酪農乳業と実施したコラボレーション事例と成果、今後の期待などを語っていただきました。コラボだからこそ見えてくる牛乳・乳製品の価値や、異業種連携を広げるためのポイント、「地域」をキーワードにした新たな展開の可能性などを探ります。
● 地域乳業とのコラボが生んだ 「牛乳割りプロテイン」
- 本日は牛乳でスマイルプロジェクトの参加メンバーで、酪農乳業とのコラボ実績のある3社にお集まりいただきました。まずは各社のコラボの経緯と具体的な取り組み、成果をお聞きします。Real Styleさんからお願いします。
当初は従来同様の味やパッケージでのコラボ企画としてスタートしましたが、大山乳業さんから「牛乳の消費拡大にもつながる内容にしたい」というご提案をいただき、弊社もその思いを一緒に実現したいと考え、商品コンセプトを変更しました。
一般的なプロテインは水で割って飲みますが、今回開発したのは「牛乳割りプロテイン」です。原料の一部に大山乳業の脱脂粉乳を使用し、1年がかりで350回近い社内試飲を重ねて、「白バラコーヒー」の味の再現にもこだわりました。
SNSでは、商品をご購入されたお客様から、「本当に白バラコーヒーの味がする」「プロテイン特有の風味が少なく、おいしい」「いつでも買えるようにしてほしい」といったうれしいお声をいただいています。商品開発はチャレンジングな内容でしたが、お客様からの反響を目にすると、挑戦してよかったと感じています。
商品開発の過程では、用途別の乳価の違いや酪農家の経営状況など、酪農乳業の現状や課題も知ることができました。
弊社としても生産者の皆さんを支援したいという思いが強まり、牛乳でスマイルプロジェクトに参加するとともに、コラボ商品発売に合わせて「牛乳割りプロテイン部」という新プロジェクトを立ち上げました。現在は筋トレ系インフルエンサーが酪農現場を体験する様子や、牛乳の栄養価値などの情報をYouTubeやXで発信しています。
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株式会社Real Style
高成長が続くプロテイン市場と、牛乳の消費拡大・酪農家支援に取り組む地域乳業の思いから生まれたコラボ商品「ビーレジェンドWPCプロテイン 白バラコーヒー風味」。Real Styleではコラボを機に、国内酪農乳業の理解醸成を図る情報発信にも取り組んでいる。写真は、人気の“筋肉タレント”コアラ小嵐さんたちが大山乳業の工場見学に訪れた際の1枚。
● ふるさと納税で酪農を応援 不需要期の消費下支えにも
- では次に、さとふるさんの取り組みをご紹介ください。
2022年11月、この特集の一つとして「牛乳・乳製品特集」を公開しました。ちょうどこの年は、年度後半にかけて生乳の余剰問題が大きく報道されていました。ふるさと納税のお礼品を通して、多くの酪農家さんや乳業メーカーさんとつながりのある弊社としても、消費拡大をお手伝いして皆さんを応援したいと考え、牛乳でスマイルプロジェクトに参加したのち、特集を公開しました。
牛乳・乳製品特集では、牛乳、ヨーグルト、チーズ、バターなどのお礼品の紹介、酪農家や乳業メーカーさんのインタビュー、牛乳を使ったレシピなどを掲載しました。公開後約1か月で、コメントを掲載した事業者さんが提供するお礼品への寄付額が前年の2倍に増加するなど注目度も高かったです。
酪農家・メーカーさんへのインタビューでは、お礼品になっている商品をどのような思いでつくられているかなどをお聞きしました。私たちとしても、酪農や乳業の現場の実情を知る貴重な機会になりました。
この特集は現在、季節による生乳需給のギャップを紹介して、年間を通じて酪農乳業を応援しようというコンセプトで引き続き掲載中です。牛乳や乳製品のお礼品を検索すると関連情報として表示されるのでぜひご覧ください。
このほか、需要が落ち込む年末年始や春休み期間などには、弊社SNSでも生産者さんの応援や消費拡大を呼びかけています。
- ふるさと納税という制度と、地域の牛乳・乳製品との関係性をどのように見られていますか。
また、ふるさと納税はその年の所得に応じて控除上限額が確定するため、年末が寄付申し込みのピークとなり、ちょうど年末年始の牛乳の不需要期と重なります。その意味でも、消費の下支えとして機能しやすいのではないかと思います。
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リソル株式会社
リソルホテルとJA全農のコラボ企画「ウェルカムミルクスタンド」。ロビーに専用冷蔵庫を設置し、3種類の牛乳を宿泊客に無料で提供した。リソルホテルでは、美肌や疲労回復、免疫力強化などの目的に応じて、管理栄養士監修メニューを組み合わせて食べる“Eatwell Breakfast”を提案しており、牛乳・乳製品の健康栄養面のメリットも伝えている。
●「日本の牛乳」が旅の思い出に ウェルカムミルクを試験導入
- 続いて、リソルさんの取り組みについて教えてください。
私がホテルのフロント勤務をしていたころ、外国人のお客様がよく牛乳を飲んでいる姿を目にしました。旅先の牛乳をウェルカムドリンク感覚でふるまったら喜んでいただけそうだなと思い、企画提案したものです。提供方式としては、フロント横やロビーに冷蔵ショーケースを設置し、お一人様一本ずつお取りいただける形にしました。提供する牛乳や冷蔵ケースの管理、万が一お客様が体調に異変を感じられた場合の対応など、運用面やリスク管理をマニュアル化して各店舗に周知した上で実施しています。
池田啓さん(以下、池田)小林が発案した当初の企画は、全国各地のホテルでより多くの地域の牛乳を提供する内容だったのですが、配送面の課題などを考慮して、確実に実施可能な6ホテル、牛乳は3種類としました。今回の試験的な導入の成果や課題を精査し、今後の展開を検討したいと考えています。
小林 ホテルで提供する牛乳は、JA全農さんのご提案の中から、東北、関東、関西の3地域の200ml紙パック牛乳を選びました。パッケージの色味やデザインのかわいらしさも選定理由の一つで、ショーケースの中でも見栄えがよく、お客様に共感してもらえそうなものをセレクトしています。
インバウンドのお客様がショーケースの前で牛乳を持って記念撮影する姿や、パッキング作業の合間に牛乳を飲んでいる方も見かけました。日本人の年配のご夫婦が休憩スペースで牛乳を味わう光景も目にしました。規模としては小さいながらも牛乳の消費拡大にも貢献できたのかなと思っています。
池田 インバウンドのお客様が多い上野や秋葉原のホテルで人気が出るのはある程度予想していたのですが、意外だったのは外国人利用客の少ない郊外のホテルでの反応です。特にスポーツ団体などの合宿で利用されているお客様に、このミルクスタンドが大変好評だったという報告を受けています。
● 商品・ニーズ・企業理念 共通項から連携づくりへ
- 乳業メーカーや牛乳・乳製品とコラボする際のポイントや課題、その解決に向けた糸口になりそうなことはありますか。
池田 弊社運営ホテルは一部を除き、テナントレストランが多いです。今回のような期間限定のコラボ企画ではなく、牛乳・乳製品を食事として提供する場合、テナント側の対応力や品質管理、在庫スペースの確保といった実務面の課題は出てくると思います。
河本 完全な新規商品開発ではなく、「白バラコーヒー」のような既存商品とコラボするケースでは、味の再現性が一つのハードルになると感じました。
コラボの糸口の一つは、利用シーンやニーズの把握だと思います。例えば、リソルさんのお話にあったスポーツ団体のお客様に、牛乳とプロテインをセットで提案するといった形です。
池田 弊社は他社さんとのコラボは今回が初の試みで、ブランディングの一環として可能性を模索している段階です。コラボの前提となるのは、弊社の企業理念(人・社会・地球にやさしい)に合致することです。プロテインは健康志向やフードロス対策などさまざまな面で注目されているので、今後の展開も検討してみたいです。
河本 私たちも企業理念の一環としてSDGsの観点から健康や地球環境に配慮した取り組みを進めています。この分野の知識や情報を共有することを通じて、相互の交流を深められたらいいですね。
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株式会社さとふる
「さとふる」の牛乳・乳製品特集では、関連するお礼品の情報や事業者のコメントなどを引き続き掲載中。牛乳のお礼品を提供する事業者おすすめの「牛乳鍋」や「モーダ」(牛乳のソーダ割り)のレシピを写真とともに紹介するなど、寄付者に気軽に興味を持ってもらえるような工夫もしている。
● コラボという視点で高まる 地域の牛乳・酪農の魅力
- 今後のコラボの可能性、特に全国の酪農乳業関係者との連携や、地域の牛乳・乳製品の魅力にも目が向くようなアイデアがあれば教えてください。
「さとふる」では現在、7800点以上の牛乳・乳製品を掲載しており、すでに多くの地域の酪農乳業者さんにご利用いただいています。今後も、生産者の皆さんの思いやお礼品の魅力をお伝えしながら、取り扱いを増やしていきたいと考えています。
河本 弊社では、地域の牛乳販売店さんとの連携を模索しています。宅配牛乳とプロテインを組み合わせて提案し、フレイルやサルコペニアの予防も含めた、お年寄りの健康維持を目指す取り組みです。また脱脂粉乳の在庫問題に対して、弊社商品での新たな活用方法も検討しているところです。
小林 今回は3種類の牛乳を提供しましたが、全国各地の牛乳を楽しめることは、充実した旅行体験の一部になるという可能性を感じています。配送の課題は残りますが、普段は飲めない牛乳を旅先で味わえる場をつくれたらと思っています。
- 最後に、牛乳でスマイルプロジェクトへの期待をお聞かせください。
池田 インバウンドを中心に、地域の自然環境や、酪農を含む一次産業に関心を持つ旅行者が増えています。弊社のホテルでも、その地ならではの活動(観る・食べる・体験する・買い物する)をご提案できる体制を整えているところです。
旅行・観光業界全体でオーバーツーリズム問題に向き合いながら、地域と、そこに根ざした一次産業を盛り上げる環境づくりが重要です。牛乳でスマイルプロジェクトも、今後こうした動きに関わっていけるのではないかと感じました。
河本 牛乳+プロテインなどの機能的なコラボを通じて、健康を求める消費者にメリットを提供し、より多くの人に広げていくことは、牛乳の消費拡大にもダイレクトにつながります。その意味でも、牛乳でスマイルプロジェクトには、異業種間の出会いの場を提供し、コラボを支援する機能をさらに充実させていってほしいです。