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j-milkリポートvol-38より

ミルクバリューチェーン コーシン乳業株式会社(千葉県八千代市)

ミルクバリューチェーン
『安心安全な牛乳を生む品質への熱意と地域のご縁』

 1906(明治39)年創業のコーシン乳業株式会社は、日本の近代資本主義下における乳業の先鞭をつけた企業の一つです。110年以上の歴史を貫く安心安全な製品づくりへの思いや、地域の生産者・販売者とのつながりを重視した経営スタイル、さらにコロナ後の事業環境への対応についてお聞きしました。
(聞き手=前田浩史・Jミルク専務理事)
  • コーシン乳業株式会社 代表取締役社長 古谷 恒夫 氏
    平家物語の冒頭の一節がモットーという古谷氏。「地域の酪農乳業や流通業界も変化が速く、盛者必衰。だからこそ人と人との誠実な関係づくりが大切になる」と話す。

創業から受け継がれる地元産生乳へのこだわり

前田浩史(以下、前田) 御社の歴史を調べて、「日本で初めてトレーサビリティの発想を取り入れた」という表現に興味を持ちました。そこに至った経緯をお聞かせください。

古谷恒夫 氏(以下、古谷) 創業者である私の祖父は農家の次男でした。大学進学時の下宿先が牧場で、仕事の様子を見たり、手伝ったりする機会があったようです。牛乳を生業にしようと思い立った祖父は、牧場から乳牛を数頭分けてもらって搾乳を始めました。そして、安心して飲んでもらえる品質の良い牛乳を提供するためには、牧草の生産から牛の健康管理、搾乳や処理、瓶詰めして運ぶところまでを自分たちの手で行うことが重要と考え、イギリス製の設備を導入して最初の工場をつくりました。
 その後、八千代市一帯は都内から移転してきた牧場が集まり、弊社を含む乳業メーカーも点在する一大酪農地帯になっていきます。生乳の流通は戦後大きく様変わりしましたが、今も弊社は一部の地元酪農家から生乳を直接受け入れていますし、千葉産生乳へのこだわりも持っています。高い品質を求めて生産から処理までを一気通貫で行うという理念は、形を変えて受け継がれています。

前田 地域の乳業メーカーは、小売流通業の変化からも大きな影響を受けてきました。特に1980年代以降は牛乳の価格低下が進み、共同配送センター方式の定着でコスト圧力が高まる中、さらに価格競争が激化する厳しい状況もありました。小売業の競争が激しい地域で事業を続けてきた御社はどう対応されてきたのですか。
  • 東京市小石川区(現在の文京区)で興真舎牛乳店として創業。乳牛飼育、搾乳から配達まで一貫直営の牛乳業を開始。

地域乳業の現状と課題を小売・流通とも共有する

古谷 弊社のような中小規模のメーカーは、大手さんのような全国規模のビジネスではなく、地元に根ざした事業で生きています。地域でのご縁をベースに、常に効率化を図り、生産と物流体制を刷新しながら社会情勢の変化に対応していくしかないのです。そうしたメーカーとしての立場と取り組みを小売店側に説明して、理解していただくことも重要だと考えています。
 私が社長になって30年ほどになりますが、経営的に最も厳しかったのはBSE問題が発生した2001年頃です。畜産ほどではなかったとはいえ、牛乳の品質にも懸念が広がり、受託生産分も含めて3週間近く供給が停止しました。
 そうした中で、初代や父の時代からつきあいのあった地元の生産者団体が弊社を支援してくれましたし、古くからの取引先との関係は途切れることなく続きました。そういった取引先を新たにつくっていくためにも、地元の生産者や小売店とのつながりを常に保っていくことが大切です。

前田 厳しい価格競争の時代を乗り越えた地域乳業に共通しているのは、一定のハードルをつくって製品価格を下げすぎない姿勢や、アイテム数を絞り込んで収益を維持する営業スタンスです。日本で100年以上続く企業の割合は全体の2%程度ですが、乳業に限らずどの分野でも、積極投資で事業を拡大する時期と、場合によっては事業縮小し、利益を確保しながら我慢する時期を繰り返しながら存続している印象ですね。
 首都圏に立地する乳業メーカーとして、近年顕在化している生乳供給の構造的な脆弱性や不安定性についてはどうお考えですか。

古谷
 国内の生乳生産が年間約720万トンなのに対して、コメは約770万トンです。同じような生産規模がありながら、農家への補助が大きく異なったままでは、将来的な自給率の維持は困難だと私自身は考えています。
 北海道の生乳生産は新たな担い手の参入によって増えているものの、近年の自然災害の発生状況を踏まえると、都府県への供給が途絶えるリスクは常にあります。都府県の安定的かつ円滑な生乳供給を維持するためにも、生産基盤の維持はもちろん、広域の物流や輸送体制の充実も必要でしょう。
 企業独自としては、地元の酪農家さんや組合さんとのお付き合いを保ち、原料の調達先を確保しておくことしかないと思いますね。
  • 1928(昭和3)年、現在の八千代事業所に「習志野牧場」を開設。千葉から東京への牛乳供給の先鞭をつける。

容器リサイクルや飲み残しの削減 地域全体での取り組みが必要

風味問題の啓発活動では学校や生産者との連携も

前田 御社は千葉県と東京都の一部に学乳を供給しています。紙容器のリサイクル問題や風味問題など新たな課題にはどのように対応されていますか。

古谷 千葉や東京では他県のように学校が紙容器リサイクルを担う仕組みが定着していなかったのですが、千葉は昨年度、東京は今年度から学校側で全てを処理していただけるようになりました。学校でも食育や環境教育を通じてリサイクルと飲み残しの削減を進めていく必要がありますし、そうした取り組みを後押しするよう、行政にももっと力を入れてもらいたいと考えています。
 東京を中心に発生した風味問題への対応では、Jミルクさんと連携して教育関係者向けの講習会などを開催してきました。弊社独自でも学校給食事業者に情報発信してきたほか、直送で入ってくる酪農家さん向けの勉強会なども開催し、この問題には生産者とメーカーが一丸となって取り組むことが重要だとお伝えしています。

前田 新型コロナの影響による今後の事業環境の見通しについてお聞きします。業務用需要が減少する一方で、牛乳類の家庭内利用が5%程度増加するなど、地域乳業にとってはプラスになる部分もありそうです。これをチャンスとして生かすためにはどんな取り組みが必要だとお考えですか。
  • 八千代市にある同社千葉工場では、牛乳、乳飲料のほか、果汁やお茶、コーヒーなども製造。地域貢献の一環で実施している工場見学は千葉や東京の小学校の利用も多いが、現在は新型コロナの影響で受け入れを停止している。

安全性と品質の追求で市場の変化を生き抜く

古谷 私たち中小メーカーが常に大切にすべきなのは、お客様が安心して買っていただける安全な商品を提供していくことです。質の良い原料で優れた商品をつくり、品質事故を起こさない。その姿勢を貫くことが、今後予想される社会の変化を乗り越える力になると思っています。
 地域性という点で言いますと、私は社員たちに圏央道(首都圏中央連絡自動車道)の内側や隣接地域を意識するように伝えています。圏央道の内側の人口は約3000万人で、一極集中の進行により近年も増加が続いてきました。しかし少子化や新型コロナによる地方移住の動きなどもあり、5年後、10年後には状況が変わっていく可能性もあります。

前田 最近の調査では、消費者が食品購入時に重視する要素のトップは「安全」で、価格志向は若干弱まっています。牛乳乳製品は特に女性の消費が増えているので、安全安心面での他社との違いを女性にいかにアピールできるかがカギになっていますね。
 では最後にJミルクの活動に対する期待や提言をお願いします。

古谷 例えば学乳の風味問題などについて情報を発信したり、地域と連携して活動したりする際、どこに接触すればいいかわからないという中小メーカーは少なくないと思います。Jミルクは中小メーカーも多く加盟する組織です。地域の行政や関係省庁などに乳業メーカーの取り組みを伝え、活動時には橋渡し役になってくれることを期待しています。

前田 まさにご指摘の通りで、風味問題への対応は地域の乳業メーカーと行政や学校現場との連携が極めて重要です。学乳を提供する乳業メーカーが参加する県レベルの組織はすでにありますが、その全国版の可能性を現在検討しているところです。Jミルクが培ってきた学校現場や栄養・給食関係者とのつながりも生かして機能的なネットワークをつくりたいと考えています。本日はありがとうございました。
  • 「中小乳業として“縁”を大切にしたい。今一度歩んだ道を振り返り、創業時代と同じように力強く歩んでいきたい」と語る古谷社長(左)。武村啓司・取締役兼千葉工場長(右)と共に。
  • イメージキャラクター「ピロコ(ちゃん)」が描かれたコーシン牛乳。千葉県と東京都の一部で学乳としても採用されている。
コーシン乳業株式会社
(本社)〒113-0023 東京都文京区向丘一丁目1番15号 ファミールヒルズ本郷東大前203
TEL  03-3815-1301

(事業所・工場)〒276-0046 千葉県八千代市大和田新田130
TEL  047-450-2121

http://www.koshinmilk.co.jp