酪農はますます重要な産業になる
アンチ論に負けずに誇りを高めよう

Dairy Japan 誌からインタビューを受けた記事が、同誌2017年10月号に掲載されました。
同誌の承諾を得て本文を掲載いたします。
Dairy Japanのサイトはこちらからご覧ください。http://dairyjapan.com

SNSなどで繰り返されるアンチミルク論。そして、酪農や乳業に対する誤った見識も散見される。
今一度、酪農や牛乳乳製品の必要性、意義を見直し、ミルクサプライチェーンの一員としての誇りを取り戻そう。本稿では、牛乳乳製品の価値や酪農の価値をJミルク・広報グループ・箸本弘一部長に聞いた。

Jミルクとしてのアンチミルク論の考え方と対処方

本誌:アンチミルク論についてJミルクはどのように考え、対処しているか?

箸本:例えば、アンチミルク的言説の中で定番のように出てくる、「牛乳は子牛の飲むもので人の飲用には適さない」といった文言の出どころを探っていくと、これはすでに解明されていて明治時代の思想を著した書籍に行き着きます。

それらの中に書かれていることは、思想というと聞こえは良いかもしれませんが、要するに、近代栄養学・西洋型食文化などへの情緒的批判からくる非科学的な論考であり、一つ一つエビデンスを重ねて真実に近づいていこうというような科学的態度からは程遠いものであるわけです。

ただ彼らとて自分達の思想を一般消費者に浸透させるためには、それなりに科学的な説明が必要だと知っているため、自分達の主張に都合の良い研究結果をつまみ食いし、いかにも科学的であるかのように装っているのです。これが、アンチミルクの本質的な姿であろうと見ています。

ですから、そういう人達に科学的エビデンスを示してみても、最初から取り合う気がなく、まったく噛み合わないわけです。それどころか、意図的に炎上させようとするようなところさえ見られます。

ひとたび炎上すると、それに賛同する人達があたかも大勢いるかのように感じられるかもしれませんが、実はそういう人達はごく一握りにすぎません。サイレントマジョリティー(物言わぬ多数派)はエビデンスに立脚した信頼の置ける情報を基に、自分で判断しようとしている人達です。そして常識的な判断ができる方達です。

ですからアンチミルクへの対策というのは、アンチミルクを唱えている方を直接対象にするのではなく、その影響を受ける可能性のある消費者の方々に、より科学的な情報をわかりやすく伝えることが重要なことである、そのように考えています。

質の高い蛋白質を供給する牛乳乳製品

本誌:牛乳乳製品が必要とされるわけは?

箸本:人間は生きていくために必要な栄養を摂取しなければなりません。そのなかで動物性蛋白質も重要な栄養です。その必要な蛋白質をはじめとした栄養をどのように摂取するかを考えたとき、多くの栄養をバランス良く含み、さらに栄養単価の優れた牛乳乳製品が選ばれるのだと思います。

先にも話しましたが、アンチミルクにある「牛乳は子牛に与えるものでヒトが飲むものではない」「異種の乳を飲むことは体に悪い」というものは、論理的ではありません。人類がミルクを1万年前から利用してきた事実を根っこから否定することになり、それ自体でこの論理は破たんしています。

ヒトは生きるうえで必要なアミノ酸を摂取するために食品から蛋白質を摂取し、それを分解してアミノ酸として吸収して体に必要な蛋白質に合成して利用します。そして、その蛋白質はヒト以外の動植物から摂取します。当たり前ですが、ヒトがヒトの蛋白質を摂取することは乳児の間を除いてはありません。その蛋白源の一つとして、牛乳乳製品が支持されているのです。

今でも世界の人口は増加していて、将来の人口は90 億人とも100 億人とも言われています。地球上でそれだけのヒトが生活できるだけの食料を生産できるのかと議論されているなかで、ヒトが利用できない草や食品製造副産物を食べ、優れた食品として供給してくれる酪農に期待がかかっています。

牛乳の疑問に答える

本誌:牛乳乳製品のネガティブな情報を正すためにしていることは?

箸本:Jミルクでは、アンチミルク論や牛乳乳製品、その摂取などで疑問に思われることに対して正しい知識を得ていただくために、「牛乳の気になるウワサをスッキリ解決!」というWebページ(https://www.j-milk.jp/knowledge/food-safety/uwasa_index.html)を展開しています。現在では24のウワサについて解説しています。酪農家の皆さんにも、ぜひ目を通していただきたい内容ですから、一度ご覧ください。

このコンテンツは、JミルクWebサイトのなかでも、閲覧数が大変多くなっています。また、アンチミルクに対しては、業界が直接情報を発信するよりも、牛乳の価値を理解しているミルクファンの消費者の方々が、自分達の言葉でミルクの良さや効能を発信していただくとより効果が高いと思います。そうした情報素材として、このサイトが活用されるようになっているのが最近の特徴であり、大きな成果が出始めていると強く感じています。

このコンテンツのなかで、検索数が一番多いのは、乳糖不耐についてです。アンチ論というよりは、不安からくる検索ではないでしょうか。ここで乳糖不耐について、少し解説します。

牛乳に含まれる乳糖は小腸で酵素によって分解されますが、乳を飲む必要がなくなる年齢になると酵素が生成されなくなることで乳糖不耐が起こります。欧米人は古くから乳を食文化に取り入れたおかげで、成人しても乳糖分解酵素が分泌される形質を獲得しましたが、東洋人には酵素が生成されなくなり乳糖不耐になるヒトが多いようです。

ただし、乳糖不耐は慣れるものであるとも言われています。すなわち、牛乳を飲み続けることで腸内細菌叢が変化し、乳糖を消化しやすい環境ができてくることで乳糖不耐の症状がある程度緩和される可能性が指摘されています。稀に本当にきつい症状が出る方もいますから、そういう方は乳を摂らないという選択もできますし、乳糖を分解した牛乳やヨーグルトなどを上手に利用することもできます。

牛乳乳製品が給食に不可欠なわけ

本誌:子どもにとって牛乳乳製品が優れている点は?

箸本:学校給食における牛乳の役割についてですが、学校給食の献立を考えるときに、牛乳を一本つけることで、必要とされる栄養の多くが満たされます。そのため、副菜の自由度が増すと評価していただいています。給食は1食単価に厳しい制約があるので、そのなかで牛乳の果たす役割は大きいのです。

一時問題となった新潟県三条市で学校給食から牛乳を除く試験をしていたときですが、三条市では試験的な献立をWebで公開していました。それを調べてみると、牛乳をなくしたぶん、ヨーグルトなどの乳製品を提供する割合が高くなっていました。これからもわかるように、学校給食と牛乳乳製品は切っても切れないものです。そして結局、三条市では給食のほかに牛乳を飲む「ドリンクタイム」を設けることになったのです。

このほかにも、和食志向から牛乳を外す試みをした地域もありますが、そもそも和食は時代に応じて変化しています。これまでも海外の料理や文化を上手に取り入れて発展してきました。ですから、牛乳が和食に合わないと結論づけずに、上手に組み合わせることが大切ですね。

酪農はより大切な産業になる

本誌:酪農家に意識してほしいことは? 

箸本:多くの酪農家はすでに意識していると思いますが、「消費者から見られている」という意識を高めてほしいですね。また酪農を知ってもらう機会を業界として、もっと活発に作り、ファンを育てていきましょう。

酪農家が大切に愛情を持って乳牛を健康に飼い、その苦労や工夫の結果として美味しいミルクが生産される過程に対し、多くの消費者が強い共感性を持っています。こうした共感がミルクの価値をさらに高めていることが、多くの調査で確認されています。したがって、酪農家が、牛乳のさまざまな価値を、牧場に訪問した方やSNSなどを通して伝えることは大変効果的です。

初めて酪農場を訪れた消費者は、匂いのことを口にする方もいるようです。しかし、牛に触れあっていると、それも気にならなくなるとも聞きます。私もJミルクに来てから初めて牛と触れ合いましたが、その愛らしさに感動したものです。こうした体験を通じて、酪農への理解を深めてもらえるようにしたいものです。

そして、将来を見据えれば、国際需給の不安定さから安易に乳製品の輸入ができなくなるかもしれません。そういう意味からも、酪農は今後、より大切な産業になっていきます。乳蛋白質は国民にとって大切な蛋白資源なので、国内で安定供給できる体制を整えておかなければなりません。

酪農家の皆さんは早朝から晩まで、年間欠かさずに乳牛と向き合い、生乳を生産していただいています。ご苦労もあるとは思いますが、将来に向けてますます重要性が増す職業ですので、今後とも生乳の安定供給に尽力していただければと思います。
取材=前田朋氏(デーリィ・ジャパン社)