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j-milkリポートvol-41より

ミルクバリューチェーン
トモヱ乳業と四国乳業のSDGsへの取り組み
『SDGsという共通言語が地域乳業の可能性を高める』

 SDGs(持続可能な開発目標)への貢献を企業経営に取り入れる動きが広がっています。今回は、すでに活動を行っている地域乳業の経営者に、具体的な実践内容や社内外への波及効果などをお聞きしました。SDGsという新たな視点が、ステークホルダーとの関係性を強化し、地域における乳業の存在価値を高める可能性が見えてきます。
(聞き手=前田浩史・前Jミルク専務理事)  *座談会開催日:2021年6月2日
  • 酪農乳業界としての総合的な達成目標も必要


    三好 晶夫(みよし あきお)氏
    四国乳業株式会社 前代表取締役社長

    1955年松山市生まれ。2015年、愛媛県農林水産部長を定年退職後に同社社長に就任し、経営改善に手腕を発揮。「SDGs達成に向けた酪農乳業界としての総合的な数値目標があると、個別企業も張り合いを持って取り組める。Jミルクさんにはそうした目標設定もお願いしたい」と提案する。
  • 地域乳業の経営者が議論できる場づくりを


    中田 俊之(なかた としゆき)氏
    トモヱ乳業株式会社 代表取締役社長

    1969年古河市生まれ。獨協医科大学卒(医学博士)。循環器内科医師として活動後、2009年より同社副社長、2014年より現職。「業界が一体となってSDGsに取り組むためには、私たち地域乳業の経営者が議論できる研究会のような場が必要。Jミルクさんもぜひ支援してほしい」と話す。

事業環境の変化に対応し 社員の幸福・健康の重視へ

 前田浩史(以下、前田) 酪農乳業界ではこの 年ほど、価格競争から価値競争への転換が進んできました。
 さらに近年は、価値競争の中身も変化しつつあります。今後は商品の機能性だけでなく、企業と地域社会、消費者が共通する価値を見出し、それを可視化して企業活動や商品に反映させることが、地域乳業の価値競争力を高めることになるでしょう。
 今回取り上げるSDGsは、ミルクのバリューチェーンに参加する人々が新たな価値を見出すための「共通言語」であり、地域の乳業メーカーにも大きな可能性をもたらすものと思っています。
 SDGsの具体的な活動内容の前に、両社の経営の現状をお聞きします。

 中田俊之 氏(以下、中田) 私は先代社長の父から2014年に経営を引き継ぎました。当初掲げた経営方針は、「事業規模の拡大」「ブランド力強化」「酪農乳業界への貢献」を軸にしていました。
 近年の事業環境の変化やコロナ禍、SDGsへの対応といった点も踏まえて方針を見直し、今年から「社員の幸せ、健康、成長」「酪農乳業文化の普及」「利益の確保と健康価値の開発」へと転換を図っているところです。
 社員が幸せを感じ、感謝し合える会社をつくることには、経営者として強い思い入れがあります。私は前職が医者ですので、社員の幸せの基盤となる健康増進には特に力を入れていきたいと考えています。SDGsへの対応はこの軸に位置付けています。
 乳文化の普及は先代も熱心に取り組んできたテーマで、父は世界150か国から5000点以上の酪農乳業関連の史料を収集し、国内唯一の牛乳博物館を整備しました。この施設のさらなる充実も図りながら、今後も酪農乳業文化の普及に貢献していきたいと思っています。

 前田 規模の拡大を目指す当初の方針を転換されたのにはどういう背景があるのでしょう。

 中田 事業規模が大きくなるほど、社員たちがある意味で疲弊していると感じたのです。その姿を見て、私が経営を引き受けた目的は何かと考えたとき、その大きな一つが社員の幸せの実現なのだと思い至りました。

 前田 シェア拡大を目指す飽くなき価格競争は社員の方々にも負担になるので、モチベーションが高まらず、新規の優れた人材も集まりにくいといった状況が起こり得ます。現在でも多くの地域乳業が抱えている課題かもしれません。
 続いて三好社長、お願いします。

  • トモヱ乳業の本社工場に併設されている牛乳博物館では、先代社長の中田俊男氏が世界中から収集した5000点以上に及ぶ貴重な史料を展示。一般見学も受け入れている(要事前予約)。

地域の力を生かした経営で社会の活性化に貢献する

 三好晶夫 氏(以下、三好) 私が社長に就任したのは6年前です。当初に打ち出した経営成長戦略は、「営業力と発信力の強化により年商200億円を目指す」「産官学や地域連携で新商品開発を図る」「地域素材の機能性で優位に立つ」「酪農振興で地域創生に寄与する」の4つが柱です。
 産官学連携は、当社のような中小の乳業メーカーが価値競争に立ち向かうための有効な手法と考え、企業の研究開発力と地元の行政、大学・研究機関の知見を総結集して商品開発を図ってきました。また地域素材の活用では、特産の柑橘類の栄養分など機能性素材を使った独自商品を開発しています。
 当社は農協と国や県の資本出資を受けていることもあり、地域への貢献が経営上の命題です。酪農振興や食文化の教育・普及など地域に溶け込んだ活動を通じて、地域社会の創生、活性化に寄与することも常に意識しています。

 前田 この6年間の経営をどう評価されていますか。

 三好 営業力と発信力では社員の意識や士気の高揚が見られ、ラッピングバスの運行など、地域社会に発信する活動に喜びを感じてくれています。
 新商品開発では、4品を消費者庁から機能性表示食品として認めていただきました。うち1つは自社での臨床試験を経て、認定が受けられたことも大きな成果です。

 前田 トモヱ乳業さんは、農協系資本が入っている四国乳業さんとはステークホルダーとの関係性が異なると思います。地域の消費者や、そこに近い流通現場に対してはどのような関係づくりをされていますか。

 中田 前述した牛乳博物館を通じた情報発信も、企業の取り組みを地域の皆さんに知っていただく機会と捉えています。
 当社は東日本大震災後に、耐震性を強化した第2工場の建設や予備電源の導入など、災害に強い生産現場づくりを進めてきました。こうした設備を流通関係者にも見てもらうことで、リスク対応力があり、地域に商品を安定供給できるという当社の価値をお伝えしています。

  • 広島大学と共同開発した「8020ヨーグルト」。虫歯や歯周病を抑えるL8020乳酸菌を使用し、国内で初めてオーラルケア効果をうたう機能性表示食品として承認された。
  • 地域への情報発信ではラッピングバスも活用。
  • 地域社会とのコミュニケーションの場として実施しているサイクリングのイベントには、趣味はロードバイクという三好元社長も愛車で参加する。

牛乳を啓発ツールに活用し「シトラスリボン」を支援

 前田 それぞれのアプローチで、地域における存在価値を高めておられる様子がわかりました。
 次にSDGsに関する具体的な活動内容をお聞きしますが、その前段として、企業によるSDGs活動の視点を整理しておきます。
 一つは、企業の社会的責任という観点です。経済的利益の追求だけでなく、社会の課題解決に関わることが求められていて、その取り組みがブランド力の強化にもつながる。逆に不十分だと、企業の評価・評判が損なわれる可能性があります。
 二つめは、企業のビジネスリソースを活用することです。お金を出して社会的活動を支援するのではなく、自社の商品や施設などを活用してSDGsに貢献することは、地域社会やステークホルダーと共通言語を持つことになるので、互いの関係性がより強化されます。
 三つめは、四国乳業さんの柑橘類を使った商品開発のように、地域の資源を活用すること。商品の価値を高めると同時に地域の価値も高めることで、企業がより大きな存在になります。そうした活動は社員の方々の意欲向上だけでなく、優れた人材の獲得にもつながるでしょう。
 以上の視点も踏まえて、社内での議論や活動の現状、地域への働きかけなどをご紹介ください。

 三好 当社は2021年度事業計画の社会貢献の項目に、初めてSDGsの推進を盛り込みました。
 Jミルクさんの「提言」なども参考に企業として何ができるかを模索し始めた時期に、「シトラスリボンプロジェクト」の存在を知りました。愛媛県の大学教員を中心とするグループが提唱した、新型コロナの感染者や医療従事者への偏見や差別をなくそうという社会運動です。
 当社もぜひ支援したいと考え、5月から自社ブランド牛乳のパッケージに、シンボルマークのリボンと活動趣旨を記載してPRするとともに、1本につき1円を行政のコロナ対策基金に寄付することにしています。
 合わせて啓発用のポスターとシトラスリボンのピンバッジを制作、配布しています。この取り組みにはJミルクさんの基金事業から補助を入れていただいており、大変感謝しています。
 こうしたツールを使ってシトラスリボン運動を展開することが、SDGsが目指している社会の実現、みんなが笑顔で過ごせるまちづくりに寄与するものと考えています。

 前田 地域や酪農家さんの反応はいかがですか。

 三好 支援開始時の県知事への報告会が報道され、酪農家さんからも評価をいただいています。ポスターを掲げて特設売り場をつくる地元スーパーもありますし、同じくプロジェクトに賛同しているダイエーさんが近畿圏の店舗でフェアを開催された際には、当社の牛乳のオーダーもいただきました。

  • 新型コロナ関連の偏見や差別の防止を呼び掛けるシトラスリボンプロジェクト。四国乳業は牛乳パッケージを活用した啓発や、ピンバッジやポスターの配布などで活動を支援した。

日常的な活動の積み重ねで 家庭や地域に輪を広げる

 前田 トモヱ乳業さんの取り組みの経緯と現状はいかがですか。

 中田 当社がSDGsに取り組むきっかけになったのは、2019年6月の社内責任者会議です。「全社でSDGsに取り組みたい」と私から提案したところ、満場一致で賛成してくれまして、各部署の社員が参加するプロジェクトチームが立ち上がりました。
 2020年は、SDGsのテーマを示すカードやバッジを社員に配布して啓発を図りながら、各部署での具体的な実践を始めました。ペーパーレス化や再生利用の推進、省エネなど、日常的に取り組めるSDGs活動ですね。また企業としても、新たに太陽光発電を導入しています。今年は「次世代を見据えよう」を社内スローガンとし、活動のさらなる充実を目指しているところです。
 私は、企業がSDGsに果たす大きな役割の一つが、社員を通じて家庭や地域へと活動の輪を広げていくことだと思っています。そのためにも、まずは社員たちにSDGsの目的をしっかりと理解してもらい、身近なところで行動してもらうことを大切にしています。
 SDGsへの取り組みを始めたのと同時期に、社員たちが月に1回、会社周辺の清掃活動を行うようになりました。SDGsの視点で地域とのつながりを意識することが、新たな行動にもつながっているのかなと思います。
 今後も、こうした地域に根付いた身近なSDGs活動を続けていきたいです。現在は状況的に難しいですが、私自身はイベント好きでもあるので、地元イベントへの参加などを通じて啓発を図り、古河という地域を盛り上げていきたいと思っています。

 前田 社員が社会的意識を持ち、自らアイデアを出して行動し、それを会社の経営にも関連付けていくことが、最も生産性の向上につながると言われます。生産性向上とは意欲と能力の開発ですから、中田社長が掲げる社員の幸せと成長という経営方針とも合致し、今後も確実に成果が出てくるのではないかと感じました。
 SDGs活動においては目標設定も重要で、数値目標を掲げて実践することにより、達成感を確認すると同時に社会にも成果をアピールすることができます。温室効果ガスの排出削減目標や再生可能エネルギーの利用率などはその代表例ですが、乳業としてどのような目標を設定されていますか。

  • 自社のCSRとSDGsの考え方と事例をまとめたパンフレットを作成し、社内外の啓発に活用。
  • 従来のCSRの取り組みをSDGsの観点(健康・栄養、環境、人と社会)から再定義。より包括的で自社の成長基盤にもなるCSR活動を目指している。
  • プロジェクトチームが今後の活動方針を検討するワークショップ。各自が出した活動アイデアをSDGsの17のゴールに分類し、社会への貢献度や経営上の優先度といった指標で評価する。

地域での一体的取り組みが バリューチェーンの強化に

 中田 今年の活動方針の一つに「SDGsの具現化」を掲げ、プロジェクトチームを中心に各部署での目標をまとめています。例えば排液の50%削減、カートンロスの10%削減、ペーパーレス化や認証紙の利用率向上、二酸化炭素排出量の削減など。私が全社的な数値目標を示すというより、社員たちが率先して部署ごとの達成目標を数値化してくれているのが現状です。

 三好 当社はSDGsの数値目標の設定はできていないのですが、包材やロスのカットなどは従来のコスト削減の枠内で目標を定めています。トモヱ乳業さんの素晴らしい事例をお聞きして、こうした既存の活動にSDGsの考え方を取り入れることによって、目標数値を整理できるのではないかと思いました。
 合わせて、酪農現場との連携強化も今後の課題です。牧草地が持つ環境浄化機能や国土保全機能などをアピールして、持続可能な地域づくりに酪農が貢献していることを伝えたい。地域の生産者や若手後継者の皆さんとも議論しながら、数値目標を検討し、連携して取り組んでいくことが重要だと考えています。

 前田 四国乳業さんが素晴らしいのは、三好社長のリーダーシップに加えて、行政や生産者、さらには生協など、バリューチェーンを構成する全ての主体が一緒になって議論できる環境、条件があることです。これは、地元の酪農家をオーナーとして持つ「農協乳業」の強さです。SDGsを共通言語にすることでその強みを発揮し、全てのステークホルダーが一体となって取り組めるという意味で、地域乳業はSDGs活動の実践的なモデルになり得ると私は思います。
 両社の活動事例やノウハウも参考に、今後多くの地域乳業がSDGsを経営に取り入れ、実践していくことを期待します。本日はありがとうございました。

  • 「社内体制や目標設定などトモヱ乳業さんの事例は勉強になります」(四国乳業・三好氏/右)。
    「シトラスリボンのような活動を当社もやってみたいです」(トモヱ乳業・中田氏/中)。