牛乳の放射能問題に関するQ&A
(2012年6月)

Q1.牛乳の基準値はどのようにして決められたのですか、これは安全なレベルなのですか?

A1
牛乳の基準値は、国際放射線防護委員会(ICRP)が提案した放射線保護のための放射線量レベル、及び食品安全委員会による「食品中に含まれる放射性物質の食品健康影響評価」に基づき、十分な安全性を配慮して厚生労働省が設定しています。
これまで、防護対策をとるべき放射性セシウムの年間放射線の上限量を5ミリシーベルトとし、これを基に各食品カテゴリーに割当てて算出した暫定規制値が設定されていました。今般(平成24年4月より)、より一層、食品の安全と安心を確保する観点から、食品中に含まれる放射性物質の年間線量(放射性セシウムや放射性ストロンチウムなどによる年間内部被ばく量)の上限を1ミリシーベルトとした基準値に引き下げられました。この背景には、①食品の国際規格(コーデックス)の指標が年間1ミリシーベルトを超えないように設定されていること、②モニタリングの結果で多くの食品からの検出濃度が時間の経過とともに相当程度低下傾向にあること、がありました。
食品群別の基準値設定の考え方は、まず「飲料水」についてWHOが示している10ベクレルを基準値と設定し、「一般食品」に割り当てる線量は「飲料水」からの線量(約0.1ミリシーベルト)を差し引き約0.9ミリシーベルトとしました。次に、年齢性別区分(10区分)ごとに「一般食品」の摂取量と体格・代謝を考慮した係数により限度値を算出しました。この際、流通する食品の50%が汚染されていると仮定して計算しています。その結果から、全ての区分において最も厳しい値(13~18歳の男性:120ベクレル/㎏)を下回るように100ベクレルと設定し、全区分の基準としました。この基準は、乳幼児を始めとした全ての年齢性別区分に配慮したものとなっています。
さらに、「牛乳」及び「乳児用食品」については、子供への配慮の観点から設けた食品区分であるため、流通する食品の全てが汚染されていると仮定しても影響のない値を基準値とすることとして、「一般食品」の半分である50ベクレルを基準値としました。
規制の対象となる核種は、原子力安全・保安院がリストに掲載した半減期1年以上の核種とされ、半減期が短く既に検出が認められない放射性ヨウ素や、原発敷地内においても天然の存在レベルと変化のないウランについては基準値が設定されていません。また、放射性セシウム以外の核種(ストロンチウム、プルトニウム、ルテニウム)は、測定に時間がかかるため、放射性セシウムの寄与率から算出し合計で1ミリシーベルトを超えないように放射性セシウムの基準値が設定されています。

Q2.牛乳の放射性物質汚染については、どのような検査が行われていますか?

A2
東電福島第一原発事故により、厚生労働省は食品衛生法に基づき食品中の放射性物質の暫定規制値を設定(平成23年3月17日)し、暫定規制値を超過した食品の出荷制限を措置するなど食品の安全性を確保してきました。
その後、食品安全委員会による「食品中に含まれる放射性物質の食品健康影響評価」に基づき、厚生労働省は平成24年4月1日から食品中の放射性物質の新たな基準値を設定し(表1)、これを踏まえて原子力災害対策本部は「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」を改正(平成24年3月12日)しました。
「乳」についてのモニタリング検査は、この「考え方」を踏まえ厚生労働省が示した「地方自治体の検査計画」に基づき17都県(注1)が対象自治体となっており、クーラーステーション又は乳業工場(又は乳業工場に直接出荷している全ての者)単位に検体採取を行うこととされています。検査の頻度は、原則として概ね1週間ごとに継続的に実施することとされていますが、一部都県(注2)にあっては検出状況等を踏まえて概ね2週間ごととすることができるとされました。
牛乳や乳製品は、その原料となる原乳(生乳)段階でモニタリング検査を実施することにより、その安全性を確保しています。
表1 放射性セシウムの基準値
食品群 基準値(Bq/kg)
飲料水 10
牛乳 50
乳児用食品 50
一般食品 100
[基準値は放射性ストロンチウム、プルトニウム等を含めた値です。]
注1: 福島県、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、岩手県、青森県、秋田県、山形県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県 (以上17都県) 
注2: 青森県、秋田県、山形県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県 (以上10都県)
 

Q3.原乳の放射性物質に関するモニタリング検査は、どのように行っているのですか?

A3
牧場の原乳は、近隣のクーラーステーションと呼ばれる大型の冷却施設に一旦集められ、そこから乳業工場に出荷されるのが一般的です。そのため、通常はそのクーラーステーションでサンプルを採取し、登録検査機関(注3)等が検査しています。地域にクーラーステーションがない場合、或いは乳業工場がごく近くにある場合などは、乳業工場に直接運ばれてサンプルを採取しています。
厚生労働省は、より一層、食品の安全と安心を確保するため食品衛生法に基づく新たな基準値を設定しましたが、これを受けて「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」が一部改正されました。ここで定められた食品中の放射性物質試験法には、測定機器としてゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメータを定めています。
なお、「一般食品(基準値100Bq/㎏)」を対象とした場合には、スクリーニング法としてNaI(TI)シンチレーションスペクトロメータを使用する用法が例示されていますが、測定下限値に限界があることから、他の食品区分のスクリーニング法には適用しないこととなっています。 

注3:登録検査機関とは、政府の代行機関として、認可を受けた製品検査を行うことができる検査機関のことです。 

食品中の放射性物質に関する検査を実施することが可能である登録検査機関は下記サイトで確認できます。
厚労省のHPへ(PDFファイル)https://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/shokuhin_kensa.pdf

Q4.原乳の放射性物質に関するモニタリング検査の結果は、どこで確認することができますか?

A4
モニタリング検査は各自治体(都県)が実施しますので、その結果は各自治体(都県)のホームページに掲載されています。
なお、下記のサイトでは、県別、時期別に検査結果をご覧いただけます。 

Q5.原乳のモニタリング検査の頻度はどの程度ですか? また、出荷制限はどのような手順で、解除されているのですか?

A5
原乳のモニタリング検査は、原子力災害対策本部による「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」(平成24年3月12日改正)に基づき、原則として概ね1週間ごとに実施することとされていますが、一部都県にあっては概ね2週間ごととすることができるとされました。(Q3参照)
国が行う出荷制限・摂取制限は、クーラーステーション又は乳業工場(又は乳業工場に直接出荷している全ての者)単位に属する市町村単位で設定されます。その解除は、原則として1市町村当たり3か所以上、直近1か月以内の検査結果が全て基準値以下という条件に合致し、当該都県からの申請により原子力災害対策本部が解除を判断します。解除後は、概ね1週間ごとの検査を実施することとされています。
なお、現在(平成24年4月末)、福島原発の警戒区域及び計画的避難区域(田村市の一部、南相馬市の一部、川俣町の一部、楢葉町の一部、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、川内村の一部、葛尾村、飯舘村)を除く全ての区域で出荷制限が解除されています。これらの出荷制限区域には、現時点では乳牛が飼養されていないため、実質的に出荷制限を措置されている原乳はありません。

Q6.牛が食べる牧草や水、呼吸する空気について放射性物質検査はしているのですか?

A6
大気中及び水道水中の放射線量は各自治体などによる調査が実施され、それぞれHPで計測値が詳細に公表されています。
牧草については、「大気中の放射線量が通常より高いレベルで検出された地域」において、「今後(原発事故後に)生産される粗飼料について暫定許容値以内のものを使用するとともに、その検査を行うこと」とされました。
これに加え、平成24年4月1日から食品中の放射性物質の新たな基準値が設定されることを踏まえ、飼料中の放射性セシウムの暫定許容値の見直しが行われました。牛用飼料については(表2)の通り改正されました。
平成23年産の牧草は、15都県(注4)における放射性物質の継続的な検査により、岩手県・福島県のそれぞれ一部地域において、現在も粗飼料の利用及び放牧の自粛が行われています。
平成24年に収穫する青刈り用トウモロコシ等の単年生飼料作物及び永年生牧草については、安全確保をより確実なものとするため、8県(注5)を調査対象県とし流通・利用を自粛するとともに、原則として、当該県を3か所の調査地域に区分し、区分ごとに5点以上の調査地点の放射線量を調査することとしました。自粛の解除は、原則として、調査地域内の全ての調査結果が改正された暫定許容値以下となった場合とされています。 

なお、牧草中の放射性物質の検査結果は、下記のHPで公表されています。
飼料作物関係の対応(農林水産省のHP) http://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/shiryo/001.html
飼料 暫定許容値(Bq/kg)
牛用飼料 100
粗飼料は水分含有量8割ベース、その他飼料は製品重量。飼料から畜産物への移行係数、食品の基準値、及び飼料の給与量から算出。] 
注4: 青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、長野県、新潟県 (以上15都県)
注5: 岩手県、宮城県、福島県、栃木県、群馬県、茨城県、埼玉県、千葉県 (以上8県) 

Q7.牛乳の放射能汚染を防ぐために、どの様なことをしているのですか?

A7
牛乳や乳製品への放射性物質混入を防ぐことは、その原料である生乳への放射性物質混入を防ぐことにほかなりません。
生乳に放射性物質が移行する可能性のある経路は、①大気中から呼吸器を経由して牛の体内に入り血液から乳腺を介して生乳に移行する場合、②牛が摂取する水又はエサから消化器を経由して牛の体内に入り血液から乳腺を介して生乳に移行する場合が考えられます。原発事故から時間が経過した現在、①の大気中からの経路と、②の水からの経路による原発事故に起因した放射性物質の移行はほとんど考えられません。したがって、②のエサからの移行を防ぐことが大切な取り組みとなっています。
こうしたことから、原発事故後に生産される粗飼料について暫定許容値以内のものを使用することとされています。平成24年に収穫する青刈り用トウモロコシ等の単年生飼料作物及び永年生牧草については、安全確保をより確実なものとするため、8県を調査対象県とし流通・利用を自粛することとなっています。この自粛は、当該県の調査地域内の全ての調査結果が暫定許容値以下となった場合に解除されます。(Q6参照)
飼料作物の利用を自粛している地域の酪農家は、自粛した飼料の代替となる輸入粗飼料を購入して乳牛に給与しており、経営的に大きな負担をしながら生乳の安全性確保に努力しています。また、今後、圃場の除染や堆肥の適切な措置への取り組みなど、放射性物質問題に対する長期にわたる対応が必要です。
これらの生乳生産段階の取り組みに加え、原乳(生乳)のモニタリング検査を原則として概ね1週間ごとに継続的に実施し、牛乳や乳製品の原料となる原乳(生乳)の安全性を確保しています。(Q3、Q5参照)

Q8.原乳はクーラーステーションで混ぜ合わせてから乳業メーカーに渡されるそうですが、どうしてそのようなことをするのですか?

A8
酪農家は地域内に離れて点在しているため、原乳は集乳車と呼ばれるタンクローリーで集荷され、一旦、クーラーステーションと呼ばれる大型冷却施設に集められます。そこで原乳の検査が行われ、安全性が確認された原乳を大型のタンクローリーに移し替え、各乳業工場に出荷します。(Q2参照)
このように、同じ地域の複数の酪農家の原乳を集めて大型冷却施設の中に冷蔵保管することを「合乳」と呼び、その目的は原乳の安全管理と輸送を素早く低コストで行うことにあります。こうした原乳の流通方式は、福島の原発事故発生以前から行われてきたもので、諸外国でも一般的に採用されている流通システムです。

Q9.基準値を超過した原乳を、他の地域の原乳と混ぜて出荷するということはありませんか?

A9
基準値を超過した原乳は出荷制限されますので、そのような事実はありません。(Q2参照)
なお、原乳は気候の変動などで生産量が増減し、地域によっては不足することがあります。その場合、特に酪農が盛んな北海道から各都府県に原乳が運ばれています。また、時期によっては都府県の原乳についても県域を越えて流通しますが、ブロック地域ごとに生産者団体が管理しています。

Q10.販売されている牛乳の産地や加工場所をチェックすることは可能ですか?

A10
牛乳のパッケージにある「一括表示欄」の記載については、食品衛生法に基づく表示指導要領が示されています。その要領では、「製造所所在地」(メーカーによっては「固有記号」で表示している場合があります。)及び「製造者名」の記載が義務付けられていますが、原乳の「原産地」に関する表示は指定されていません。
また、乳業メーカーが使用する原乳は、販売者である生産者団体が東北や関東などのように広域で組織化されていることもあり、その産地は都道府県単位に固定されていません。そのため、商品名に「産地」が使われている商品を除き、特定の原産地を表示することは難しい実態にあります。
お手元の牛乳の原産地や固有記号で表示された乳業工場の所在地をお知りになりたい場合は、製造者(乳業メーカー)のお客様相談室などにお問い合わせください。

Q11.学校給食の牛乳はどこから、どうやって調達されているのか教えてください。

A11
学校給食用の牛乳は、原則として、その牛乳を製造する乳業工場が所在する各都道府県産の原乳が使用されています。ただし、児童生徒人口が多く、酪農家戸数の少ない地域(例えば東京都)では、工場の近隣の他県産の原乳も使用する場合もあるなど、状況はさまざまです。
なお、それらの原乳についても、基準値を超過した原乳は出荷されないため、安全性は確保されています。(Q2参照)
学校給食に供されている牛乳の原産地をお知りになりたい場合は、ご面倒でも、製造者(乳業メーカー)のお客様相談室などにお問い合わせください。

Q12.乳業メーカーは独自に放射性物質検査をしないのですか?

A12
原乳段階でモニタリング検査が実施され、安全性が確保された原乳を使用して牛乳・乳製品を製造していることから、乳業メーカーとしては製品は安全であり改めて検査の必要はないと考えています。
しかし、平成24年4月1日より新たな基準値が施行されることから、17都県を中心とした乳業工場の牛乳について平成24年2月に各乳業メーカーが検査を実施し、現在流通している牛乳が新たな基準値にも適合していることを確認しました。この結果は、原乳のモニタリング検査の有効性が検証されたことにもなります。検査結果等については、下記のHPでご確認いただけます。

日本乳業協会のHPへhttp://www.nyukyou.jp/shinsai/20120229.html

Q13.肉用牛への稲わら給与が牛肉の放射性物質汚染の原因と報道されていますが、乳牛へは稲わらを給与しないのですか?

A13
乳牛、特に搾乳牛には、一般的に稲わらは給与されていません。何故なら、稲わらは栄養価が低く、乳牛の健康維持や産乳量に見合った栄養充足の必要性から、稲わらではなく、栄養濃度の高い良質牧草の給与が不可欠だからです。
なお、稲作を兼業とする酪農家、近隣が稲作地帯の酪農家の中に、稲わらを補足的に利用していることもありますが、牛床の敷料(敷きわら)として活用されるのが一般的です。
もちろん、稲わらを敷料としている酪農家が出荷した原乳も含め、定期的な検査において放射性物質の基準値を超過していない原乳が流通しています。
なお、肉用牛飼養に不適切な稲わら給与があった事例を受け、国や各自治体は、酪農家の乳牛の飼養実態(どのような餌を食べさせているのかなど)を調査し、問題がある酪農家にはその改善を指導するような取り組みを行っています。
また、24年に収集する稲わらについても、安全をより確実なものとするため、17都県(乳のモニタリング検査が指示された対象自治体と同じ。Q2参照)を調査対象とし流通・利用を自粛することとなっています。この自粛は、原則として、調査地域ごとに5点以上の調査地点を設定し、全ての調査結果が暫定許容値以下となった場合に解除されます。なお、玄米の調査で食品の基準値(100Bq/kg)を超え、その出荷が自粛された地域又は生産者の稲わらは、上記にかかわらず、流通と利用が自粛されます。