ウワサ33 牛乳中の飽和脂肪酸は生活習慣病の原因? -その4-
低脂肪乳のほうが脂肪分が少なく健康的?

牛乳の気になるウワサをスッキリ解決!

ウワサ33 牛乳中の飽和脂肪酸は生活習慣病の原因? -その4- 低脂肪乳のほうが脂肪分が少なく健康的?

大規模調査で牛乳乳製品の摂取による“メタボ発症リスク”低下が報告されました。しかもその効果は、低脂肪乳より全脂肪乳のほうが高かったのです。

2020年5月、世界的な医学誌『ブリティッシュメディカルジャーナル(BMJ)』に、「牛乳乳製品の摂取は糖尿病・高血圧・メタボリックシンドロームのリスクを低下させることが大規模調査によってわかった」という内容の論文が掲載されました。動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸は、摂りすぎると“メタボ”や生活習慣病の原因になるので控えめに、という意見が多いなか、牛乳乳製品に関しては真逆の結果が出たというわけです。この注目の調査研究について、詳しくみてみましょう。


21カ国、約15万人対象の大規模調査
カナダのマクマスター大学などの研究グループは、大規模疫学コホート研究「PURE (Prospective Urban Rural Epidemiology)」に参加した21カ国、35~70歳の男女、約15万人を対象に、約9年間にわたって食事内容を追跡調査しました。
これまでの類似研究では北米、ヨーロッパを対象としたものが多かったのですが、今回は南米、アジア、中東、アフリカなど5大陸の多様な国が対象となっています。ここに日本は入っていません。
追跡調査の結果、牛乳や乳製品を多く摂取する人は、摂らない人に比べて2型糖尿病、高血圧、肥満、メタボリックシンドロームのリスクが低下すること、また、心臓病や脳卒中のリスク低下が期待できることが報告されました。
下表をみると、1日あたりの乳製品の摂取量が多いグループほど、平均血圧、血中脂質、血糖値などが低くなっています。

 
総乳製品摂取による平均血圧、血中脂質、および血糖値濃度(n=147,812)

「低脂肪乳」である必要はありません

牛乳の脂肪分を調整した「低脂肪乳」は脂肪の摂取を控えたい人に人気ですが、今回の調査研究では全脂肪乳と低脂肪乳を分けて調べた結果、むしろ全脂肪乳のほうがメタボの発症予防対策になることが示されました。
 
乳製品の種類と摂取量別メタボリックシンドローム有病率

疾患の発症率における全脂肪と低脂肪の差は、高血圧ではみられませんでしたが、糖尿病では摂取量が多いほどリスク低下につながる結果となったのは全脂肪乳製品のほうでした。
「牛乳乳製品は栄養豊富なのはわかっているけれど、脂肪が…」という人は多く、各国の食事ガイドラインでも低脂肪乳は推奨されています。ですが、今回の調査研究から「低脂肪乳のほうが効果が高い」という明確な根拠は得られませんでした。
また、論文の著者たちは、過去に乳製品の摂取と心疾患や脳卒中の発症率、死亡率との関連を調査した研究結果を医学誌『Lancet』に報告しています。*1 ここでも、リスク低下につながる効果が高かったのは全脂肪乳であり、摂取する乳製品は低脂肪乳である必要はないと結論づけています。
*1 Lancet 2018;392:2288-2297

 介入研究でも明らかになった牛乳乳製品の体組成への影響
さらに最近、医学誌『Nutrition Reviews』に、この知見と関連した別のシステマティックレビューが掲載されました*2。このレビューでは、大規模調査などの観察研究よりもさらにエビデンスレベルが高い(参照:「ちょっと気になる基礎知識 疫学研究って?」)介入研究のメタ解析をまとめた結果を示しています。
食事全体からのエネルギー摂取を制限した場合と制限していない場合において、それぞれの状況で牛乳乳製品の摂取による体組成(体脂肪量、除脂肪体重、腹囲、体重)への影響を調べた結果、エネルギー摂取の制限をしない場合では、牛乳乳製品摂取量を増加させても体組成には影響しませんでした。一方で、摂取エネルギーを制限した場合では、牛乳乳製品摂取を増やすと腹囲と除脂肪体重には影響がなく、体重、体脂肪量が減少することが示されました。
このシステマティックレビューでは、血圧や血糖値などメタボリックシンドロームのリスクについて直接の言及はありません。しかし、食事のエネルギー制限をせずに乳製品の総摂取量を増やしても体組成には影響を与えないことから、減量を目的とした食事療法において、牛乳乳製品の摂取制限を正当化するのに十分な根拠はないと結論づけています。
*2 Nutrition Reviews Vol.78(11)2020;901-913


 これらの研究からわかること
はじめに紹介した調査研究は、乳製品摂取と、メタボリックシンドロームの有病率や生活習慣病発症リスクとの関連性を調査した最初の大規模多国籍コホート研究です。南米、アジア、アフリカなど乳製品の摂取量がまったく異なる地域でも結果に一貫性がみられることから、信頼性が高い研究結果といえるでしょう。
リスク低下の効果が、低脂肪乳よりも全脂肪乳の摂取で顕著に現れたこと。これは、摂取した脂肪量の「多い・少ない」が直ちに疾患への影響として現れるものではないことを示しています。
また、2つ目に紹介した介入研究のメタ解析では、エネルギー制限をせずに牛乳乳製品の摂取を増やしても体組成に影響しないこと、エネルギー制限をした中で牛乳乳製品の摂取を増やすと体重や体脂肪量を減少させることが示されました。牛乳乳製品の摂取が体組成に影響せず、生活習慣病のリスク低下につながるという結果からわかるのは、脂肪の含有量にかかわらず、牛乳成分が相互に、良い方向に作用したということです。栄養学の分野では、食品というのは「何がどれだけ含まれている」だけでは語れない、という考え方が注目され始めています。

 ウワサ30 「牛乳は太る」では、牛乳・乳製品を4年間摂取したことによる体重の変動に及ぼす影響を紹介しています。そこでも全脂肪乳と低脂肪乳の差はほとんどみられませんでした。