学校給食の提供がない子どもの食・栄養の問題と対応

健康と成長

学校給食の提供がない子どもの食・栄養の問題と対応

- カルシウム、ビタミンB1 、鉄分の不足に注意 -

帝京平成大学健康メディカル学部教授 児玉 浩子

 新型コロナウイルス感染予防対策としてほとんどの学校が休校となり、外出自粛も求められていることから 、子どもたちは 生活の大部分を在宅で過ごしています 。 2011年に起こった福島原発事故では、 県内の子ども たちが事故後に外出を制限され 、その結果 、肥満児の増加 や心の問題などが指摘され まし た(1,2) 。 子どもたちの置かれている環境は類似していますが、今回は学校給食の提供がなくなったため 、食と栄養の問題は深刻 です。

学校給食の大切さと家庭で不足しがちな栄養素

 学校給食では、 エネルギーと主な栄養素 をどれくらい提供す ればよいかが学校給食実施基準で示されており、 その中で規定されている学校給食摂取基準は 、「日本人の食事摂取基準」および「食事状況調査」結果等を勘案 して、 平成30年度に一部改正されました 。 文部科学省の学校給食摂取基準では 、子どもが欠乏しやすい栄養素 について、1日に必要とされる摂取量の40 - 50%を給食で摂取できるように決められてい ます (表 1 。
 そのため、多くの保護者は、学校給食で栄養バランスの良い給食が提供されていると安心しています。しかしながら、学校給食の提供がない日の昼食におけるカルシウム、鉄、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、食物繊維の摂取量は、いずれも学校給食のある日に比べて明らかに摂取量が少なく(3)、学校給食がないと多くの栄養素の摂取不足が心配されます(図1)。

図1 学校給食提供の有無による昼食の摂取栄養素量の比較
  • A=小学校3年男、B=小学校3年女、C=小学校5年男、D=小学校5年女、E=中学校2年男、F=中学校2年女(引用文献3 の資料より作成)

カルシウムなどの摂取不足で気になる子どもの健康

 カルシウムの摂取不足は、くる病(※1)や骨粗しょう症など、ビタミンB1 の摂取不足は、かっけ(※2)やウェルニッケ脳症(※3)などの発症の原因となります。ビタミンB1 は糖質代謝に必要な栄養素で、糖質を含む清涼飲料水などの摂取過剰でビタミンB1 が消費され、欠乏症になることが国内でも報告されています。鉄の摂取不足は貧血の原因になります。

(※1 乳幼児、小児の脊椎や四肢骨の弯曲や変形が起こる骨の障害)
(※2 心不全や神経障害に伴って足のむくみ、しびれが起きる疾患)
(※3 運動失調や意識障害、記憶障害が起きる脳の疾患)

 また食品群では、給食のない日の昼食では牛乳、豆・豆製品類、種実類、野菜が明らかに少なくなっています。
 小学5 年生を対象にビタミンB1 の含有量を増やした強化米使用の学校給食を提供し、1 日のカルシウムおよびビタミンB1 の摂取量を比較した試験では、いずれも、ない日はそれぞれの栄養素摂取量が明らかに不足していることが示されています(表2)(4)。

表2 給食での牛乳、または強化米の有無でのカルシウムおよびビタミンB1 の摂取量と欠乏のリスク率

家庭における子どもの食生活で気を付けたいこと

 このような点を踏まえた上で、子どもたちの家庭における昼食では、以下の項目に留意するとよいでしょう。
  1. もし、可能であれば、食育を念頭に置き子どもと一緒に昼食を作って食べる。
  2. だらだら食いはしないで。時間を決めて食べる。
  3. おかずと主食の大まかな目安量は主食:主菜(肉・魚など):副菜(野菜など)を3:1:2の割合にする。
  4. 適度な水分補給を行う。糖分を含む飲み物は控える(5)。
  5. 意識して野菜や果物を食べる(5)。すぐ食べられるカット野菜でもよい。
  6. 昼食を出来合いの弁当にするときの注意点としては、食塩、脂質が多くなるので、 いも類や野菜、果物などカリウムの多い食品をおやつなどに与える。
  7. 特に欠乏しやすい栄養素とその補充について
  • カルシウム
牛乳を少なくとも毎日コップ1 杯(約180ml)飲みましょう(カルシウムは約200mg)。牛乳を摂取しないと、1 日の必要量(推奨量:ほとんどの人が満たしている量)を摂取することは困難です。牛乳は料理の手間がなく、学校で普段飲んでいるので、摂取しやすいと言えるでしょう。牛乳アレルギーのある子どもには調整豆乳、がんもどき、豆腐などがよいでしょう。
  • ビタミンB1
ビタミンB1 が多く含まれる強化米を使用するとよいでしょう(強化米0.41mg/100g、普通の米0.02 - 0.03mg/100g)。その他の食品として、発芽玄米、サツマイモ、豆などにもビタミンB1は多く含まれます。
豚・鶏レバー、豆腐、がんもどき、豆乳、大豆などに多く含まれます。大豆製品や野菜に含まれる鉄の吸収をよくするためにビタミンC の多い野菜などを一緒に摂るとよいでしょう。

(データ提供 広島国際大学 岡山和代氏、帝京平成大学 松田依果氏)

参考文献

(1) 文部科学省平成24 年度学校保健統計調査結果
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2013/03/29/1331750_1.pdf
(2) Mashiko H et al: Mental health status of children after the great east Japan earthquake and Fukusima daiichi nuclear power plant accident. Asia Pacific J Pub Health 2017;29:131S-138S
(3) 日本スポーツ振興センター:平成22 年度児童生徒の食事状況等調査
(4) Nozue M, Jun K, Ishihara Y, Taketa Y, Naruse A, Nagai N, Yoshita K, Ishida H: How does fortification affect the distribution of calcium and vitamin B1 intake at the shool lunch for fifthgrade children? J Nutr Sci Vitaminol 59: 22-28, 2013.
(5) FAO: Maintaining a healthy diet during the COVID-19 pandemic, 27 March 2020.
http://www.fao.org/documents/card/en/c/ca8380en/

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