運動+乳製品摂取による体力向上、生活習慣病予防の相乗効果

全国栄養士大会(採録)一覧

信州大学大学院医学系研究科 スポーツ医科学・バイオメディカル研究所 教授 (医学博士) 増木静江

本レポートは、2021年8月1日(日)〜8月31日(火)まで(公社)日本栄養士会が開催した2021年度全国栄養士大会・オンラインにて、Jミルクが共催したセミナーの内容をまとめたものとなります。

体力向上や生活習慣病の改善・予防のためには、場所や時間の制約を受けることなく、だれもが実践できる運動処方の確立が望まれます。
速歩と普通歩行をくり返す「インターバル速歩」は、まさにだれもがとり組みやすいトレーニング法です。
このインターバル速歩の効果とエビデンス、さらに乳製品の摂取を組み合わせることによって生まれる相乗効果について解説します。

高齢社会の大きな課題「医療費削減」の鍵は体力の向上

 高齢社会において、医療費の増加は大きな課題です。図1は、年齢に対する体力の変化をプロットしたものです。私たちの体力は20歳台をピークとし、それ以降は加齢に伴う筋肉萎縮のため、10 歳加齢するごとに10%ずつ低下します。そして、この体力がADL機能不全閾値(緑のライン)を下まわると、自立した生活を送れなくなってしまいます。

 重要なのは、体力の低下と医療費の増加が相関することです。この医療費には、糖尿病、高血圧などの生活習慣病やがんなどが大きな割合を占めています。そしてこの図は、運動処方によって体力が10%向上すれば、20%の医療費が削減できるということを意味します。

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インターバル速歩を軸とした熟年体育大学の取り組み

 私たちは、医療費削減に大きくかかわる体力の向上を目指して、長野県松本市で過去 15 年あまり、「熟年体育大学」という中高年者に向けた健康スポーツ教室を実施してきました。これに用いられた「遠隔型個別運動処方システム」についてご説明します(図2)。

 このシステムには3つの特徴があります。1つ目は後述する「インターバル速歩」というトレーニングを実践すること。2つ目は、携帯型カロリー計を用いてトレーニング中のエネルギー消費量を測定すること。そして3つ目は、ITネットワークシステムを利用することです。携帯型カロリー計に保存された歩行記録は専用のサーバーに転送され、参加者は個人の解析結果と8700人のデータベースに基づいたアドバイスを受けることができます。

速歩と普通歩行をくり返し行なうインターバル速歩とは

 インターバル速歩とは、各個人の体力に合わせて速歩と普通歩行をくり返し行なうトレーニングです。
 速歩の目標レベルは「各個人の最大体力の70%」、即ち限界まで速く歩くスピードの約7割です。この速度でどれだけ歩くのかが非常に重要です。最大体力の70%というのは乳酸が出てくる運動強度であり、3分以上続けることはほとんどの人にとって困難です。そこで、速歩の間に普通歩行を挟むことで、その間に乳酸が代謝されることにより、また次の3分速歩ができます。

 最大体力の指標には、VO2peak(最高酸素摂取量)を用います。通常は自転車エルゴメーターなどで負荷をかけ、その際の酸素摂取量を呼気ガス分析器で測定して実施しますが、ここでは「3段階ステップアップ歩行」によって行ないました。被験者に主観的な低速、中速、高速で歩いてもらい、その際の酸素摂取量を加速度計から推定します。そして、最高速で歩いているときの最後の1分間の値をVO2peak、このときの心拍数を最高心拍数としました(図3)。これは、自転車エルゴメーターによる測定値とほぼ一致しました。

インターバル速歩による体力と生活習慣病改善への効果

 図4は、5か月間のトレーニングによるインターバル速歩(IWT)の効果を、運動をしない群、1日1万歩を歩く群と比較したものです。インターバル速歩群では他の群より膝伸展筋力、膝屈曲筋力、VO2peakの上昇度が10~20%増加していることがわかります。一方、1日1万歩群では筋力、VO2peakがほとんど上昇していません。これは、強度が低い、楽な運動をいくらやっても効果は期待できず、乳酸が出るようなややきつい運動をしないと体力は向上しないことを意味しています。

 また、5か月間のトレーニングによる最高血圧、最低血圧の低下度を見ると、インターバル速歩群では最高血圧が10㎜ Hg、最低血圧が5㎜ Hg低下しました(図5)。もし、この最低血圧5㎜ Hgの低下を5年間維持すれば、脳卒中の発症を40%抑制できることになります。
 次に、8700名の参加者を対象とした生活習慣病の改善効果の検証データから、中高年者を対象としたものを紹介します。なお、そのデータ中の「生活習慣病指標」の算出は次のように設定しています。
 被験者を初期の体力レベル(VO2peak)に従って3つのグループに分け、生活習慣病指標を測定すると、低体力者ほど生活習慣病指標が高いことがわかりました。一方で5か月間のインターバル速歩により体力が上昇すると、体力の増加度に比例して生活習慣病指標が低下することがわかりました。図6は女性の結果ですが、男性でも同様でした。
 また、インターバル速歩によってどの生活習慣病指標が改善するのかを示したものが図7です。生活習慣病指標の項目のうち、最も該当者の割合が高いのは血圧で、次いで血糖、BMIの順番でした。低体力、中体力、高体力ともに同様です。一方で、インターバル速歩を5か月間実施すると、どの体力レベルでも血圧や血糖など初期値が高い項目ほど低下しています。つまり、血圧、血糖、BMIの順に運動に関する感受性が高いことがわかります。こちらも女性の結果ですが、男性でも同様でした。
 また、図8は対照群と介入群の5か月ごとの医療費を示しています。黒が運動をしなかった対照群、赤がインターバル速歩を実施した介入群です。右下の図が4つのモデルを合わせた全体の結果ですが、介入前のベースラインでは両群の医療費が一致しているのに対して、赤の介入群ではインターバル速歩を5か月間実施したことにより低下し、介入後も低下し続けています。一方、黒の対照群では増加傾向であり、介入後の医療費は対照群と比較して20%有意に削減されました。
 インターバル速歩の効果についてまとめますと、次のようになります。

「1日1万歩」では、体力向上や生活習慣病予防の効果は出ない

 インターバル速歩の効果が明らかになる一方で、ただ1日1万歩を歩くだけでは、その効果が保証されないということもわかりました。

 図9図10は、679名の被験者について、5か月間のトレーニング量に対して、トレーニングによる体力VO2peakの上昇度と生活習慣病指標の改善度をそれぞれプロットしたものです。このトレーニング中、速歩と普通歩行を半分ずつやった人、ほとんど普通歩行をせずに速歩ばかりやった人、またその逆の人も見られました。

 1週間あたりの速歩時間と体力の上昇度について見てみると、速歩時間の長い人ほどそれに比例してVO2peakが上昇しており、その効果は速歩時間50分/週で頭打ちになっていました。一方で、 速歩時間の短い人ではVO2peakは上昇しませんでした。また、普通歩行時間と総歩行時間は、VO2peakの上昇度との相関はありませんでした。

 また、生活習慣病指標についても同様で、速歩時間の長い人ほどそれに比例して生活習慣病指標が改善しており、その効果は速歩時間50分/週で頭打ちになっていました。普通歩行時間、総歩行時間との相関はありませんでした。

 速歩時間と体力向上、生活習慣病の改善は非常によく相関します。体力向上、生活習慣病の改善には、速歩を週に最低50分実施することが大切なのです。

インターバル速歩の改善効果の分子生物学的裏付け

 「身体の不活動」は慢性炎症を引き起こすことが報告されています。慢性炎症は、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病や、認知症、がんといったさまざまな病気につながります(図11)。不活動による慢性炎症の原因の一つとして、加齢によって筋肉が萎縮し、ミトコンドリア機能が低下することが考えられます。ミトコンドリア機能が低下すると、エネルギー産生の際に活性酸素が発生し、それが組織を傷つけ炎症を惹起します。このため、加齢による筋肉の萎縮は生活習慣病の根本の原因である可能性があります。そこで、運動トレーニングによる筋肉の萎縮抑制が慢性炎症を防止できるか、検証しました。
 人のゲノム(遺伝情報の全体・総体)は、32億もの塩基対からできており、一部にメチル基が結合している箇所があります。このメチル化は「遺伝子の化粧、錆」といわれ、炎症関連遺伝子のメチル化はその活性を抑制します(図12)。

 インターバル速歩を非常によく行なう高運動群7名と、ほとんどやっていない低運動群6名について、5か月間のインターバル速歩の前後で採血を行ない白血球内の炎症関連遺伝子のメチル化を測定しました。その結果、炎症を促進させる遺伝子群は、インターバル速歩を行なっている高運動群においてメチル化が亢進しており、炎症促進遺伝子が抑制されていました。一方で、炎症を抑制させる遺伝子群では高運動群で脱メチル化が起きており、炎症抑制遺伝子が活性化していました。

 すなわち、インターバル速歩は炎症促進遺伝子を抑制し、炎症抑制遺伝子を活性化することがわかりました。

インターバル速歩と乳製品摂取を組み合わせると、さらなる効果が得られる

 運動の直後に乳製品を摂取すると、体力向上と生活習慣病の予防効果がさらに高まることがわかってきました。

 まず、筋力向上についてのデータを紹介します。大腿部の CT 断面図を測定し、「インターバル速歩+乳製品摂取」の筋肉への効果について調べました。インターバル速歩を6か月以上継続し、トレーニングのみによる筋力向上効果が頭打ちになっている中高年者に対し、さらに5か月間インターバル速歩を実施します。そして日々のインターバル速歩の直後にミルクプロテインと糖質サプリメントを摂取してもらいました。その効果をインターバル速歩のみの対照群と比較したところ、図13のように摂取群は対照群と比較して屈曲筋群断面積の上昇度が大きく、屈曲筋力の上昇度も大きいことがわかりました。

 次に、「インターバル速歩+乳製品摂取」によって、慢性炎症が抑制されるのかどうかを調べました。インターバル速歩を6か月以上継続している被験者に対し、さらに5か月間インターバル速歩を実施します。そして、日々のインターバル速歩後30分以内に乳製品を摂取します。1単位の乳製品を摂取する「Low Dose群」、3単位の乳製品を摂取する「High Dose群」、さらにインターバル速歩のみを行なう対照群について、5か月間の介入前後の筋力と遺伝子のメチル化を測定しました。介入期間中、Low Dose群と High Dose群がそれぞれ摂取した乳製品の内容と栄養素は図14のとおりです。チーズ18gまたはヨーグルト80gを1単位として、Low Dose群はチーズまたはヨーグルト1単位を交互に、High Dose群はチーズ1単位とヨーグルト2単位を摂取しました。これによって Low Dose群はたんぱく質を4g、High Dose群は 12g摂取することになります。その結果、High Dose群が他の群と比較して下肢筋力の増加度が大きいだけでなく、炎症反応の指標となる遺伝子(NFKB1、NFKB2)のメチル化も亢進しており、他の群に比べて炎症反応が抑制されていることがわかりました(図15)。

 別の実験では、「インターバル速歩+乳製品摂取」によって高血圧、高血糖など生活習慣病の症状をさらに改善する結果も得られました。つまり、インターバル速歩の直後に乳製品摂取を組み合わせることで体力向上が促進され、それに伴って慢性炎症が抑制され、その結果、生活習慣病の改善がさらに促進されることがわかりました。
 インターバル速歩による体力向上および生活習慣病の改善効果は、国内外で高く評価されています。そして、私たちは新しいツールとしてインターバル速歩のスマホアプリを開発しました。この強力なツールを生かして、インターバル速歩を世界に向けてより一層広めていきたいと考えています。

 詳細については熟年体育大学リサーチセンター webサイト(www.jtrc.or.jp)をご覧ください。
 増木静江
信州大学大学院医学系研究科
スポーツ医科学・バイオメディカル研究所
教授 (医学博士)

奈良女子大学生活環境学部卒業、信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了、信州大学大学院医学研究科修了。米国 Mayo Clinic 麻酔科博士研究員、信州大学大学院医学系研究科助教、同研究科准教授を経て、2018年より現職。主な研究分野は「生活習慣病・介護予防のための運動処方」、「トレーニング効果を亢進させるための栄養補助食品」、「遺伝子多型と運動習慣の定着率と効果の個体差」、「バゾプレッシン V1a 受容体と運動開始時の中枢性昇圧応答」など。

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