全国酪農業協同組合連合会 購買部さまより情報をいただき、掲載しています。
【寄稿】全国酪農業協同組合連合会 購買部
第1回 2012年干ばつと穀物高騰について(2012年7月26日)
■米国中西部穀倉地帯
米国中西部穀倉地帯とは五大湖から南西に広がる世界最大の穀物生産地域であり、『世界のパンかご』とも呼ばれています。
この穀倉地帯で生産されるトウモロコシは3億1千万トンであり、全世界のトウモロコシ生産量約8億7千万トンの実に36%を占めており(2011年産)、その作況は全世界に大きな影響を与えることとなります。
■米国中西部の天候とトウモロコシの生育状況
当初、今年(2012年産)の米国トウモロコシの作付面積は史上最高となり、順調に作付けを終了し大豊作が期待されていました。しかしながら、6月中旬より高温乾燥気候(HOT & DRY)が継続し、その状況は日に日に悪化し、記録的な熱波・干ばつの様相を呈し、トウモロコシの生育に大きなダメージを与えています。 今年の干ばつは1988年の大干ばつ以来と言われており、事態はますます深刻化しつつあります。
トウモロコシは7月上旬から、その生育段階で最も重要で水分を必要とする受粉期を迎えましたが、その間も高温乾燥気候は継続し作柄に致命的なダメージを与えました。今後の降雨によって若干の改善は期待されるものの、大きな作柄改善は期待できない状況となっています。
米国農務省は毎週トウモロコシの生育状況を発表しており、7月22日時点で良/優の合計は一週間前の31%から26%と状況はさらに悪化し、昨年同時期の62%とは大きくかい離し、今年度の不作が確実視されています。【表1参照】
現時点(7月)で予想されている単位収量は147ブッシェル/エーカーで6月時点の予想の88%に低下し、今後もさらに下方修正され、生産量が大きく減少することは確実となっています。
■シカゴ穀物(トウモロコシ)相場の反応
上述のような、熱波による旱魃気候、生産量の減少(不作)を受け、シカゴ相場は急騰しています。【図1参照】
6月中旬以降その値位置を切り上げ、8ドル/ブッシェルを突破し史上最高値を更新するとともに、約一ヶ月で50%もの上昇となりました。投機筋の資金が流入したことも要因ですが、需給環境が逼迫することが確実となったことから、今後も最高値圏での推移が継続することが予想されます。
■我が国の畜産への影響
現在のシカゴ相場の高騰はトウモロコシのみならず、大豆、小麦でも同様な状況となっています。飼料穀物のほとんどを輸入に依存している結果として、第3/四半期以降の配合飼料のコストは、現時点でも相当な上昇が見込まれ、酪農生産現場に大きな影響を与えることが必至の状況となっています。
第2回 米国中西部穀倉地帯の干ばつと穀物高騰について(2012年8月30日)
■米国中西部の天候とトウモロコシの生育状況
8月13日米国オバマ大統領は、遊説先のアイオワ州で6月以降の記録的な降雨不足と高温により56年振りの大干ばつ(米海洋大気局)となっている状況を受け、干ばつ被害農家支援として肉・魚1億7,000万ドル(約136億円)の買取りと併せて、農産物生産者に対する低金利融資の緊急支援策を発表しました。
先回もお伝えした通り、この干ばつの影響によるトウモロコシの生育ダメージは深刻化しており、8月10日米国農務省発表の単位収量予想は、7月発表の146ブッシェル/エーカーから123.4ブッシェル/エーカーと前月から22.6ブッシェル/エーカーの下方修正がされました。6月の発表は166ブッシェル/エーカーだったので6月対比では42.6ブッシェル/エーカーもの減少となっております。
現在も産地では穀物調査会社、専門家による圃場調査が行われており、日々明らかになる悲惨な生育状況に事態はさらに悪化するのではとの意見も多く聞かれております。
■トウモロコシの受粉
トウモロコシの受粉は、オシベ(茎の先端で穂を広げている部分)から落下した花粉がシルクと呼ばれるメシベ(実の先端についているヒゲ)に付着するところから始まります。このシルク1本1本が1つ1つの穀粒と繋がっており、この受粉を行うためにはシルクは若干の湿気を帯びている必要があります。しっかりと受精できない場合に穀粒は退化し、実が十分に形成しないといった障害が発生します。米国産地での受粉期は、作付時期にもよりますが7~8月の約1~2週間(花粉が飛ぶ時期が1~2週間)で、気温24~30℃、降雨量1日平均10㎜が理想的な環境とされています。今年は、6月から気温は平年平均より約2~5℃高く、ほとんど降雨のない高温乾燥した気候状況が続き受粉や生育に悪影響を与えました。
■干ばつによる水位低下で輸送船舶座礁
トウモロコシの産地から輸出港への輸送の大動脈となっているミシシッピ川では、干ばつの影響による水位の低下により船舶の航行に支障が発生しております。中西部穀倉地帯のとうもろこしは、バージと呼ばれる1隻約1,500トン積載できる艀(はしけ)で船団を組み輸送されます。現在、水位低下の影響で積載量が9割に減量され、川幅の影響で船団も通常(1船団最大約40隻)の6割程度しか組めない状況となっており輸送量が制限されている状況です。また8月20日には、ミシシッピ州グリーンビル付近で川の水位の低下によりバージ97隻が座礁、川が閉鎖される事態となっております。
■シカゴ穀物(トウモロコシ)相場の反応
6月中旬より天候懸念を受けて高騰し始めた相場は、徐々にその懸念(干ばつによる生産量の減少)が現実味を帯びるのに合わせて急騰し、7月20日には8ドル/ブッシェルを突破し最高値を更新しました(現在の最高値は8月10日電子取引における8ドル43セント/ブッシェル)。
8月以降も生産現場からのレポートによる悲惨な生育状況、中国産トウモロコシ減産の情報を受け8ドル/ブッシェルの高値圏で推移しております。
一部の専門家からは、更なる高値圏への突入を危惧する声も上がっています。
■我が国の畜産への影響
第3/四半期以降の配合飼料のコストは、上記トウモロコシ同様に大麦、小麦、大豆粕等も高騰しており、大幅な値上げが確実視される状況となっております。
第3回 米国産トウモロコシ高騰による米国内の動向と世界輸出市場の動向(2012年9月28日)
■米国エタノール生産動向について
米国中西部の干ばつの影響によりトウモロコシが高騰する中、米国ではトウモロコシ由来のエタノールを減産する動きが出てきています。原料の高騰による採算の悪化から、夏場にかけて全米の工場の1割強に当たる26工場が稼動停止に踏み切っている状況です。
そのような中、米国政府が再生可能燃料基準(RFS)(※1)のトウモロコシ由来のエタノール使用義務量を見直すべきだとの声が高まり、畜産農家団体や米国下院議員らが基準の見直しを求める嘆願書を提出しました。しかし、見直しには、①エタノール副産物(DDGS)の生産減による飼料価格高騰の可能性、②ガソリン価格の上昇に対する懸念、③ガソリンのオクタン価(※2)を高めるためのエタノールの必要性、④見直しに伴うガソリンスタンドやメーカー側の設備投資への負担増など多くのハードルが存在し、難航が予想されます。更に、11月には米国大統領選を控えていることもあり、ここで大きな変革をもたらすような決定は行わないのではないかとの見方が多くなっています。
このため、昨年末のエタノール優遇税制の撤廃や、米国内の干ばつによるトウモロコシ暴騰によりエタノール需要は頭打ちとはなっていますが、使用義務量が残る限りにおいては大きなエタノール需要の減退までには至らないと見られています。
(※1):2005年に成立したエネルギー政策法により定められたバイオエタノールを主とする再生可能燃料の使用量を義務付ける基準。
(※2):エンジン内でノッキング<異常爆発>の起こりにくさを示す数値。エタノールは高オクタン価の燃料である。
■輸入産地の多角化
米国産トウモロコシの世界輸出市場でのシェアは、この約10年で65%から35%まで減少しています。
これは、米国内ではエタノールによる国内需要が増加している一方で、南米(ブラジル・アルゼンチン)や東欧(ウクライナ、ルーマニア)ではトウモロコシ価格の上昇を受けて生産量が増加し、輸出マーケットに占めるシェアが大幅に増加していることが挙げられます。また、中国が大輸出国から輸入国へ変わり、今後も輸入量の増加が見込まれていることから、国際相場への影響力が増大すると見られています。
このような輸入産地の多角化を受けて、日本の輸入先も干ばつの影響による米国産の減産からブラジル産など米国以外の産地へのシフトが進みつつあります。
■シカゴ穀物(トウモロコシ)相場の状況
6月中旬より干ばつ等の影響により急騰した相場は7月19日に8ドル/ブッシェルを突破しました。9月以降、収穫期を迎えて天候予想で好天が続く見込みであることから若干値を下げていますが、依然として高値圏での推移が続いております。
■我が国の畜産への影響
トウモロコシ同様に大麦、小麦、大豆粕等も高騰しており、畜産団体、配合飼料メーカーが発表した第3/四半期(10~12月期)の配合飼料価格改定は大幅な値上げとなっております。
第4回 米国中西部穀倉地帯の干ばつと穀物高騰をもたらした天候について-観天望気-(2012年10月29日)
■最近のトウモロコシの需給見通しとシカゴ相場の状況
10月11日に米国農務省が発表した12/13年産(2012年9月~2013年8月)の需給見通しによると、前回の需給見通し(9月12日発表)に比べ期首在庫が193百万ブッシェル減少、生産量も単収の減少により21百万ブッシェル減少し10,781百万ブッシェルとなる一方、需要量は、ブラジル産トウモロコシへの需給シフトを反映して輸出を100万ブッシェル減少させ11,150万ブッシェルとした。結果として、期末在庫は、前回の需給見通しに比べて114万ブッシェル減少し619百万ブッシェルとなり、在庫率は5.55%となることが発表されました。
前回の在庫率が6.52%と予想されていたため、今回の発表は、より需給が逼迫した厳しい見通しとなりました。
【図1】米国とうもろこし需給見通し (単位:百万ブッシェル)
|
今回発表 (10月11日) |
前回発表 (9月12日) |
前回との差 |
期首在庫 |
988 |
1,181 |
△193 |
生産量 |
10,781 |
10,802 |
△21 |
需要量 |
11,150 |
11,250 |
△100 |
期末在庫 |
619 |
733 |
△114 |
在庫率 |
5.55% |
6.52% |
△0.97 |
米国農務省「米国主要穀物需給見通し」より
干ばつ等の影響により8ドル/ブッシェルを突破していたシカゴのトウモロコシ相場は、9月以降の収穫期を迎えて若干値を下げていましたが、今回の需給見通しを受けて高値圏での推移が続いています。
【図2】シカゴトウモロコシ相場の推移(12月限)
■米国の穀物の生産状況
全酪連では、9月29日から10月8日に会員役職員研修を開催し、米国中西部の穀物情勢や西海岸の粗飼料情勢を視察しました。
米国中西部のイリノイ州シャンペーンにある穀物農家を視察した際には、既にトウモロコシの収穫を終え、大豆の収穫の最中でした。トウモロコシは、降水量が少なかった影響を受けて生産量が落ち込んだ一方、大豆は、順調に収穫が進んでいました。
■大干ばつをもたらした偏西風の蛇行図
米国では、6月以降広い範囲で高温、少雨となりました。特にトウモロコシの生産地域である中西部では平年より3~4℃高く、降水量も50%以下となりました。50数年ぶりとも言われる今回の大干ばつを引き起こした要因の一つに偏西風の蛇行が挙げられます。偏西風は、地球の周りを西から東へ向かって吹いている上空の風で、緩やかに蛇行しながら流れています。この偏西風が、米国の上空で北へ大きく蛇行したことにより中西部を中心に高気圧が居座り続けたとみられています。
日本においても9月に日本付近の上空で偏西風が大きく北に蛇行したことにより、日本の東海上で太平洋高気圧の勢力が非常に強まるとともに日本に張り出したことで、記録的な残暑となったことは記憶に新しいところです。
【図3】米国インディアナ州インディアナポリスでの気温・積算降水量の経過
■今後の天候見通しとわが国畜産への影響
10月11日気象庁の発表によると、世界中に異常な天候をもたらすとされるエルニーニョ現象は、今夏に発生したものの弱まりつつあります。また、米国海洋大気庁(NOAA)の天候見通しにおいても米国中西部の降水量は、平年並みに戻るとみられています。米国の上空を吹く風が「桶屋」に留まらず、配合飼料価格にも影響を与えており、今後の天候の推移についても注視していく必要があります。
以上