週刊文春「乳製品をやめたら、がんが治った!」に対するコメント
平成27年10月16日
一般社団法人Jミルク
一般社団法人Jミルク
週刊文春(10月22日号・10月15日発売)における「乳製品ががんの発症リスクを高める」という趣旨の記事については、食生活とがんとの関係に関する国内外の多くの疫学調査などの学術研究の結果を無視し、特定の治療現場の個別の体験的情報を利用して、乳製品をがん発症の真犯人として乳製品摂取を減らすよう暗示するなど、意図的かつ一方的な内容という印象を持ちます。
食生活と健康や病気の関係については、多くの人々が強い関心を持つテーマであることから、確かな科学的根拠に基づいた議論が不可欠であり、異なった研究報告がある場合は、両論を紹介するなどのバランスの取れた情報提供に努め、一般消費者の誤解や誤認を避けるようにすることが重要です。
なお、Jミルクにおいては、今回の記事に取り上げられた乳摂取とIGF-1、乳がんについて、既に多くの学術研究を整理し、適切な情報の提供に努めてきたところです。
あらためて、参考に供するために、以下のとおり、科学的根拠に基づいた情報を集約・整理して提供致します。
1.気になるウワサ(特にIGF-1に関する項)
要約:乳由来のIGF-1のがん増殖リスクへの寄与度は仮にそれが存在しても低い。
2.佐藤章夫著「牛乳はこどもによくない」へのコメント
内容:牛乳中の女性ホルモンの悪影響などの主張に対する、Jミルクとしての反論。
3.牛乳摂取とがん発症リスクとの関係に対する国立がん研究センターの見解
要約:現時点では「データ不十分」というものである。
4.日本乳癌学会の見解(HPのQ&A)
「最近の研究報告で,乳製品全般を多く摂取している人では少ない摂取の人に比較して乳がん発症リスクが少し低くなることが示されました。牛乳に限っては明らかな傾向は認められませんでした。」
【捕捉説明】
補足1:牛乳中のIGF-1と発がんリスクに関する追記
インシュリン様成長因子(IGF-1)は、食物摂取により血中の栄養成分等の増加が感知されると、細胞分裂など各細胞に与えられた活動を促進するために分泌されるペプチド性のホルモンで、もともと体内で産生される物質である。
IGF-1の発がんリスクについては、「フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)、がんの増殖リスクに影響を及ぼす乳及び乳製品の成長因子に関する報告書」の次の見解(要約)が参考になる。
「科学論文データ分析の結果、IGF-1の血中濃度と前立腺がん、乳がん、結腸直腸がんの罹患率とに相関性が見られた。そこで、乳や乳製品由来のIGF-1のヒトの血中IGF-1濃度への寄与度が問題となる。ANSESは、乳と乳製品に含まれる成長因子含有量及び成長因子が血液中に存在するか研究した。乳から製品を製造する過程で成長因子含有量は減少する(現在入手できうるデータからは、高温処理後にはIGF-1は検出されない)。また、成長因子は生体に消化吸収される各段階で分解し、時間経過とともに徐々に減少する。したがって、IGF-1が血流に入ったとしても、その量は、体内で生合成されて循環しているIGF-1の量に比べて少ない。それゆえ、乳由来のIGF-1のがん増殖リスクへの寄与度は、それが存在しても、低いと考えられる。」
内閣府が設置した食品安全委員会のホームページ
補足2:記事中の「前立腺がんの発症リスクの上昇をJミルクが認めた」という記述に関して
Jミルクとしては、取材に対し「そうした研究結果があることを承知している」とコメントしたものであり、「前立腺がんの発症リスクの上昇」そのものを認めたわけではない。
なお、記事が指摘した調査報告書においても、「乳製品をたくさん摂取すると前立腺がんのリスクが高くなりましたが、一方、乳製品の摂取が、骨粗鬆症、高血圧、大腸がんといった疾患に予防的であるという報告も多くあります。したがって、乳製品の摂取を控えた方がいいかについては、総合的な判断が必要であり、現時点では結論を出すことはできません。今後、乳製品の利益と不利益のバランスを明らかにするような研究が期待されます。」と論述している。
補足3:乳がんと乳製品摂取との関係に関する“最近の研究報告”
最近の研究報告としては次のメタアナリシスがよく知られている。内容は上記日本乳癌学会の見解と同様の内容である。
Dairy consumption and risk of breast cancer: a meta-analysis of prospective cohort studies.
Breast Cancer Res Treat. 2011 May;127(1):23-31. doi: 10.1007/s10549-011-1467-5. Epub 2011 Mar 27.
(以上)