子ども向けに作成した学習教材で夜型化に改善効果

「あたらしいミルクの研究」2017 年度

子ども向けに作成した学習教材で夜型化に改善効果

代表研究者
 高知大学教育研究部人文社会科学系 :原田哲夫
共同研究者
 東海学園大学健康栄養学部 :中出美代
 高知大学地域連携推進センター :川田尚弘
 高知大学地域連携推進センター :野地照樹


朝型生活への生活改善を目的とした学習教材を作成し教育効果を検証した結果、朝ごはんで主菜や牛乳を摂る割合が高くなる、睡眠時間が延びる、夜型生活化を抑制し朝型生活化に向うなどの効果がみられました。

この教材は学習者が納得して取り組めるように朝型生活による健康効果の科学的根拠と実践法の両方を取り入れ、幼児向け、小学生向け、中学生向けの発達段階に応じて作成しました。 

早寝 早起き 朝ごはんの生活習慣をつける

日本は様々な施設や店舗が24時間利用できるなど昼夜関係なく生活可能な社会であり、子どもたちの生活習慣にも深刻な影響があるといわれています。人間は、ほぼ決まった時間に自然に眠くなったり、自然に目覚めたりする1日のリズムを持っています。このリズムが早寝・早起きタイプを「朝型」、宵っ張り・朝寝坊タイプを「夜型」と呼びます。近年、日本の子どもたちは小学生から高校生まで夜型傾向にあるといわれています。夜型の子どもには、朝食を摂らない、睡眠の質が悪い、睡眠時間が短いなどの生活習慣の傾向が生じます。そしてこれらの生活習慣を原因として、肥満傾向が進んだり、昼間の集中力や判断力が減退してスポーツや学業成績の低下を招いたり、気分が落ち込みがちで学校に行くのが辛くなったりすることが報告されています。

当研究室でも、1994年頃より「早寝、早起き、朝ごはん」の実践研究に取り組んできました。その結果、朝ごはんの改善が夜型化抑制に特に効果が大きいことがわかってきました。朝ごはん改善のポイントとしては、肉や魚、大豆製品、牛乳などに多く含まれるトリプトファンを摂ることです。なぜなら、トリプトファンから生成されるセロトニンが昼間は天然の抗うつ剤となり、セロトニンから生成されるメラトニンが夜間の眠りをもたらすからです。つまり「昼間は元気、夜はぐっすり」の効果が得られるのです。

そこで本研究では今回、発達段階に応じて幼児向け、小学生向け、中学生向けに絵やマンガを用いてわかりやすい内容で教材を作成。すでに知られている「朝型生活の健康効果の科学的根拠」とこれまでの研究成果である「朝型生活実践法」の両方を取り入れ、教育効果を検証しました。 

「朝型」と「夜型」の子どもの1日の様子を比較

幼児向け教材では、保護者が子どもに読み聞かせることを前提としたミニ絵本型教材(A5版)を作成しました。これは保護者が読み聞かせることによって、お互いが生活をよりよくしようとする意識が生まれる、親子の相乗効果をねらいました。絵本の構成は毎日元気な「朝型」の子どもの生活、昼間はあまり元気のない「夜型」の子どもの生活を並べて描き、それぞれの1日の様子を比較しながら読み進められるようになっています。その他保護者向けに、生活リズムと健康の関係についての説明も加えました。

小学生と中学生向けには、「健康教育」の授業で1~2時間、先生に使用してもらうことを想定した教材(A5版6ページ)を作成しました。こちらも「朝型」と「夜型」の子どもの1日の様子を比較できるように構成しました。 

繰り返しの読み聞かせにより効果を持続

幼児向けミニ絵本を使って3週間、読み聞かせと「早寝 早起き 朝ごはん」を保護者に任意で実践してもらいました。その結果、読み聞かせをした日の翌日はしなかった日の翌日に比べ、朝ごはんに主菜や牛乳を摂る割合が高くなり、睡眠時間も長くなっていました。3か月後の事後調査においても、読み聞かせしてもらった子どもは休日でも早寝でした。さらに3回以上読み聞かせを繰り返してもらった子どもは、「朝型」であることがわかりました。保護者からも「普段の生活を確認するきっかけになった」「よい子のまねをしようとした」「少しだけでも早寝をしようとした」など子どもの行動変化が報告されました。また読み聞かせた効果として「早寝早起きが大切な理由を親子で理解する」「子どもに生活を変える努力をしてもらいやすくなる」「生活改善のために意識が少し変わる」「できることから始める」ことがわかりました。これらの結果から読み聞かせ型の幼児向けミニ絵本は、生活リズム改善に十分な効果があったと考えられます。(グラフ1) 

中学生も行動に変化、夜型化を抑制

中学生向け教材を使って「健康教育」を実施した結果、授業2か月後には朝ごはんに牛乳を摂る生徒が増えていました。また授業前と授業2か月後を比較した結果、授業前に夜型だった生徒のうち、朝ごはんの品数が「減った・変わらなかった」生徒は夜型傾向のまま変化がなく、「1品以上増えた」生徒は朝型傾向になっていました。逆に授業前に夜型ではなかった生徒のうち、「減った・変わらなかった」生徒は夜型傾向になり、「1品以上増えた」生徒は夜型傾向になっていませんでした。(グラフ2)

つまり授業を受けたことで、牛乳を飲むようになるなど朝ごはんの改善を行った生徒がいることや、夜型化を抑制し朝型化の効果が確認できたことから、中学生向け教材にも一定の教育効果があると考えられます。 

-「あたらしいミルクの研究」2017 年度 -

一般社団法人Jミルクと「乳の学術連合」(牛乳乳製品健康科学会議/乳の社会文化ネットワーク/牛乳食育研究会の三つの研究会で構成される学術組織)は、「乳の学術連合」で毎年度実施している乳に関する学術研究の中から、特に優れていると評価されたものを、「あたらしいミルクの研究リポート」として作成しています。

本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。 

子ども向けに作成した学習教材で夜型化に改善効果

代表研究者
 高知大学教育研究部人文社会科学系 :原田哲夫
共同研究者
 東海学園大学健康栄養学部 :中出美代
 高知大学地域連携推進センター :川田尚弘
 高知大学地域連携推進センター :野地照樹

- 「あたらしいミルクの研究」2017 年度 - 

研究報告書は乳の学術連合のサイトに掲載しています

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我が国における牛乳乳製品の消費の維持・拡大及び酪農乳業と生活者との信頼関係の強化を図っていく観点から、牛乳乳製品の価値向上に繋がる多種多様な情報を「伝わり易く解かり易い表現」として開発し、業界関係者及び生活者に提供することを目的とした健康科学分野・社会文化分野・食育分野の専門家で構成する組織の連合体です。
乳の学術連合