高齢者の歩行能力維持とフレイル予防に1日1本の牛乳摂取を!

「あたらしいミルクの研究」2019年度

島根大学人間科学部身体活動・健康科学コース 准教授 宮崎 亮

研究報告「離島在住高齢者のフレイル予防に資する牛乳・乳製品摂取の網羅的疫学調査-歩行能力・バランス能力に着目して-」(宮崎亮)をもとに作成。
超高齢社会となった日本では、加齢に伴って身体機能や認知機能が低下した状態の「フレイル(虚弱)」に陥る人が増えています。フレイルを放置すると歩けなくなり、やがては寝たき
りに至るため、早期の段階で食事や運動などの対策をとることが大切です。本研究では、日本海の離島である島根県・隠岐の島町在住の高齢者を対象に、体力維持に必要な牛乳・乳製品の
摂取量を検討し、1 日1本(200㎖)の牛乳摂取が高齢者のフレイル予防につながることを明らかにしました。

牛乳・乳製品をとることは高齢者の歩行能力にどのような影響を及ぼすか?

 フレイルは要介護になる大きな要因であり、日本では有症率が65 歳以上の約10 人に1 人、予備軍は約3 人に1 人と高いことから1)、その対策が急がれています。これまでの研究では、運動量と牛乳消費量がともに多い高齢者はどちらかのみが多い人と比べてフレイルのリスクが低いこと2),3)や、低脂肪乳とヨーグルトを摂取するとフレイルのリスクが低下すること4)など、牛乳・乳製品のフレイルに対する有用性が示されてきました。しかしながら、日常生活動作を維持する上で最も重要な「歩行能力」に焦点を当て、牛乳・乳製品の影響を研究した報告はありません。
 そこで私たちは、島根県・隠岐の島町在住の高齢者における健康診断や栄養調査、生活習慣調査などのデータをもとに、牛乳・乳製品の摂取量とフレイルとの関係性、また歩行能力との関係性について検証を行ないました。

フレイルの判定は体重減少、疲労感、活動量・握力・歩行速度の低下

 隠岐の島町は日本海に浮かぶ離島で、人口の約40%を高齢者が占めています。今回の解析では、65 歳以上の678 名( 男性253 名、女性425 名) を対象としました。解析のための項目は、①フレイル判定、②歩行能力、③身体計測(身長、体重、BMI)、④体組成(筋量、体脂肪量)、⑤筋力(握力)、⑥血液検査(LDL コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、ヘモグロビンA1c)、⑦血圧、⑧牛乳・乳製品摂取量、⑨生活習慣調査(栄養調査など)です。
 フレイルの判定には「フレイルインデックス(J-CHS 基準) 」( 表1 )を用い、体重減少、疲労感、身体活動量低下、握力低下、歩行速度低下のうち、3 項目以上該当した場合をフレイル、1〜2項目該当した場合をフレイルの前段階であるプレフレイルとしました。牛乳・乳製品摂取量については、単位を牛乳1本として、「1. とらない」、「2. 週に1~2本」、「3. 1日に1/2本」、「4. 1日に1本」、「5. 1日に2本以上」の5つに分類しました。なお、牛乳1本の目安は、牛乳瓶1 本(200ml)、ヨーグルトなら2 カップ、スライスチーズなら2 枚です。生活習慣調査では、食欲の有無や1日の食事状況(きちんと3食とっているか)などを調べました。

牛乳・乳製品摂取量が多い人は男女ともフレイルになりにくい

 調査の結果、島でのフレイル有症率は、フレイル7.4%、プレフレイル44.2%、正常48.4% でした。これは日本全体の有症率と同程度となります。また、牛乳・乳製品摂取量を見ると、男性33.6%、女性46.1%が1 日に1本摂取していました( 表2 )。そこで、牛乳・乳製品摂取量がフレイルにどのような影響を与えているかを分析したところ、男女とも牛乳・乳製品摂取量を「1. とらない」と回答した人ほどフレイルインデックスの該当数が多く、「5. 1日に2本以上」と摂取量が多い人では該当数が少なくなりました( 図1 )。よって、牛乳・乳製品摂取量が
多い人ほど、フレイルにはなりにくいことが示唆されました。
 また、牛乳・乳製品摂取量と筋量、体脂肪量、BMI、握力との関係を解析したところ、男性では特に関係性は見られませんでしたが、女性においては牛乳摂取量が多い人ほど、握力が有意に高い結果となりました。

フレイル予防の適正量は毎日1本の牛乳・乳製品摂取

 では、フレイル予防に効果的な牛乳・乳製品の摂取量はどの程度なのでしょうか。牛乳・乳製品摂取量を、「低摂取群(1. とらない、2. 週に1~2本)」、「中摂取群(3.1日に1/2本)」、「高摂取群(4. 1日に1 本、5. 1日に2本以上)」の3 群に分けてフレイルの有無(フレイル、プレフレイル、正常)との関係性を分析したところ、男女とも低摂取群に比べ高摂取群でのフレイル有症率が低くなり、女性ではそれが顕著でした。この結果より、フレイル予防の観点からは、男女とも、特に女性においては「牛乳・乳製品を1 日1 本以上」とることが望ましいと考えられます。
 続けて、牛乳・乳製品摂取量と歩行能力の関係性についても分析を行ないました。歩行能力については、圧力センサーを搭載したシートの上を歩くことにより、歩行速度、ピッチ、歩幅などを測定しています。分析の結果、女性においては牛乳・乳製品摂取量が多くなるほど、歩行速度が有意に速くなり( 図2 )、歩幅も大きくなる傾向が認められました。歩行速度を速めるには筋力の高さと歩幅の大きさの両方が必要になりますが、前述したように牛乳・乳製品の摂取量が多い女性は握力が高い(=筋力が高い)ことがわかっています。したがって、筋量が低下している高齢女性においても、1 日1 本の牛乳摂取により筋力が高まり、歩幅も大きくなって身体機能が向上し、歩行能力を維持できる可能性があるといえます。一方で男性においては歩行能力との関連性が見られませんでした。
 以上より、牛乳・乳製品摂取量はその量に比例してフレイル予防に効果的であり、特に女性においては身体機能向上を介してフレイルを予防すること、そして予防に効果的な摂取量は牛乳換算で1 日1 本以上であることが示されました。この研究結果は、「健常高齢者が牛乳・乳製品摂取量を増やし、歩行速度を維持することがフレイルや介護予防に重要である」という超高齢社会に対する有用なメッセージになり得ると考えられます。
(文献)
1)Kojima G, Iliffe S, Taniguchi Y, Shimada H, Rakugi H, Walters K.Prevalence of frailty in Japan: A systematic review and meta-analysis. Journal of Epidemiology. 2017;27(8):347-353.
2)川上 浩, 朴 眩, 朴 晟, 青栁 幸. 高齢者における牛乳摂取と身体活動に関する研究. ミルクサイエンス. 2014;63(3):145-153.
3)Lo YL, Hsieh YT, Hsu LL, et al. Dietary Pattern Associated with Frailty:Results from Nutrition and Health Survey in Taiwan. Journal of theAmerican Geriatrics Society. 2017;65(9):2009-2015.
4)Cuesta-Triana, et al. Effect of milk and other dairy products on the risk of frailty, sarcopenia, and cognitive performance decline in the elderly: A systematic review. Adv. Nutr. 2019, 10, S105–S119.

-「あたらしいミルクの研究」2019 年度 -

一般社団法人Jミルクと「乳の学術連合」(牛乳乳製品健康科学会議/乳の社会文化ネットワーク/牛乳食育研究会の三つの研究会で構成される学術組織)は、「乳の学術連合」で毎年度実施している乳に関する学術研究の中から、特に優れていると評価されたものを、「あたらしいミルクの研究リポート」として作成しています。

本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。

なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。
  • 全3ページ

研究報告書は乳の学術連合のサイトに掲載しています

乳の学術連合のサイトはこちら

我が国における牛乳乳製品の消費の維持・拡大及び酪農乳業と生活者との信頼関係の強化を図っていく観点から、牛乳乳製品の価値向上に繋がる多種多様な情報を「伝わり易く解かり易い表現」として開発し、業界関係者及び生活者に提供することを目的とした健康科学分野・社会文化分野・食育分野の専門家で構成する組織の連合体です。