牛乳・乳製品に特徴的に含まれる「短鎖脂肪酸」「中鎖脂肪酸」と認知機能との関連

「わかりやすい最新ミルクの研究」2016 年度

牛乳・乳製品に特徴的に含まれる 「短鎖脂肪酸」「中鎖脂肪酸」と 認知機能との関連

代表研究者 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター NILS-LSA活用研究室:大塚 礼

超高齢社会に突入した日本では、今後、認知症患者の増加が懸念されています。認知症は特効薬がないためその予防は重要で、予防法のひとつとして牛乳・乳製品の摂取が注目されています。

そこで本研究では、牛乳・乳製品に含まれる特徴的な成分「短鎖脂肪酸」「中鎖脂肪酸」に着目し、地域在住の高齢者を対象に長期間調査し、認知症を抑制する効果との関連性について調べました。

その結果、毎日無理なく摂取できる量の牛乳・乳製品を摂ることで、認知機能低下を抑制する可能性があることがわかりました。 

牛乳・乳製品以外ほとんど含まれない特徴的な成分「短鎖脂肪酸」

炭素が鎖状につながった構造をしている脂肪酸は、炭素の鎖の長さにより、短鎖・中鎖・長鎖脂肪酸に分けられます。

一般的な油脂のほとんどは、長鎖脂肪酸を多く含みますが、食品中で短鎖・中鎖脂肪酸を豊富に含むものはそれ程多くなく、特に「短鎖脂肪酸」は、牛乳・乳製品以外の食品にはほとんど含まれず、牛乳・乳製品の特徴的な成分といえます。

「中鎖脂肪酸」についても、脂肪酸総量100g あたり10%未満の割合で含まれ、牛乳・乳製品には比較的多く含まれます。(表1)  
これまで脂肪酸を短鎖、中鎖、長鎖に分けて検討した研究はほとんどなく、また、それぞれの脂肪酸と認知機能の関連を検討した疫学研究も見当たりませんでした。

そこで、当センターでは、対象者に3日間の食事秤量記録調査を行い、摂取した食事をグラム単位で細かく記入してもらい、摂取量を計算しました。

解析のデータは「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(第1次調査(1997-2000年)~現在)」を使用しました。
対象者は、認知機能の低下リスクが高まる60代、70代とし、認知機能スクリーニングテスト「MMSE」※1の結果が30点満点中27点以下を「少し認知機能が下がった状態」と判定しました。

第2次調査(2000-2002年)では、28点以上だった570人(男性298人、女性272人)を対象とし、第3次調査から第7次調査(2002-2012年)に27点以下となった場合、「認知機能が低下した人」と見なしました。

※1 MMSE: 1975年、米国で認知機能障害の検査のために開発された質問セット 

穀類増、乳製品減で認知機能低下リスク高まる

3日間の食事秤量記録調査では、食品群別の摂取量で分類後に解析した結果、女性の穀類と乳類の摂取量の違いに応じて、認知機能低下リスクに差が生じました。

穀類では、摂取が1日当たり108g(対象者の穀類摂取量1標準偏差に相当)増加するごとに、認知機能を低下させるリスクが約40%ずつ上がることがわかりました。

逆に乳類では、摂取が1日当たり128g 増えるごとに、認知機能を低下させるリスクが20%ずつ下がることがわかりました。(グラフ1) 
これらの導き出された結果を考察すると、60代以上の女性においては、穀類の摂取量が増加し、乳類の摂取量が減少すると、認知機能が衰えやすくなる可能性が明らかになりました。

穀類の中味を詳細に調べると、米飯は認知機能低下リスクとの関連は弱く、うどん、冷や麦の多食がリスクを上げていました。
これは、麺類を単独で食べる穀類中心の食生活が、認知機能低下リスクを高めたと考えられます。

つまり、米飯だけ、麺類だけの副菜が少なく穀類中心の食生活は、認知機能を低下させるリスクを招きやすくなることが推察され、バランスのよい食事習慣が望まれます。
 

牛乳コップ1杯弱の摂取認知機能低下リスク15%下がる

次に脂肪酸が、認知機能を低下させるリスクにどのように影響しているか、男・女合計で結果を見たところ、脂肪の摂取量が1日当たり14.8g 増えると、認知機能の低下リスクを約18%抑制することがわかりました。

近年、高齢者の低栄養が、疾患を招く可能性のあることがわかってきていますので、60代以上になると、肉や魚、乳製品などで脂質を摂る食生活が、認知機能を維持するためにも望まれます。

続いて脂肪酸の中でも牛乳・乳製品に含まれる特徴的な成分「短鎖脂肪酸」について調べてみると、平均摂取量370mg に対し1日当たり297.3mg 上がるごとに、認知機能の低下リスクが14%抑制されることがわかりました。(グラフ2-①②)  
さらに、牛乳・乳製品に比較的多く含まれる「中鎖脂肪酸」についても、平均摂取量302mg に対し1日当たり231.9mg 上がるごとに、認知機能の低下リスクが16%抑制されるという結果になりました。(グラフ3-①②) 
一方、「短鎖脂肪酸」のひとつである「酪酸」については、1日当たり約180mg 上がるごとに認知機能の低下リスクが約15%下がることがわかりました。これは牛乳コップ1杯未満の150g に含まれる分量です。 
「中鎖脂肪酸」のひとつである「オクタン酸」についても、1日当たり81.3mg 上がるごとに約16%リスクが下がりましたが、これは有塩バター9g に含まれる分量です。いずれも1日に無理なく摂取できる量であり、それらを摂ることで認知機能の低下を抑制する方向に導く可能性が、今回の研究で明らかになりました。 

- 「わかりやすい最新ミルクの研究」2016 年度 -

一般社団法人Jミルクと「乳の学術連合」(牛乳乳製品健康科学会議/乳の社会文化ネットワーク/牛乳食育研究会の三つの研究会で構成される学術組織)は、「乳の学術連合」で毎年度実施している乳に関する学術研究の中から、特に優れていると評価されたものを、「わかりやすい 最新ミルクの研究リポート」として作成しています。

本研究リポートは、対象となる学術研究を領域の異なる研究者や専門家含め、牛乳乳製品や酪農乳業に関心のある全ての皆様に、わかりやすく要約したものになります。
なお、研究リポートに掲載されている研究内容詳細を確認する場合は、乳の学術連合公式webサイト内「学術連合の研究データベース」より研究報告書のPDFをダウンロードして閲覧可能です。あわせてご利用ください。 
2017年1月25日 

牛乳・乳製品に特徴的に含まれる「短鎖脂肪酸」「中鎖脂肪酸」と認知機能との関連

代表研究者 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター NILS-LSA活用研究室:大塚 礼

- 「わかりやすい最新ミルクの研究」2016 年度 - 

研究報告書は乳の学術連合のサイトに掲載しています

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我が国における牛乳乳製品の消費の維持・拡大及び酪農乳業と生活者との信頼関係の強化を図っていく観点から、牛乳乳製品の価値向上に繋がる多種多様な情報を「伝わり易く解かり易い表現」として開発し、業界関係者及び生活者に提供することを目的とした健康科学分野・社会文化分野・食育分野の専門家で構成する組織の連合体です。

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