第1回 世界で起こる食品価格の高騰-フランスでは

フランスの酪農乳業事情 連載一覧

コラム、「フランスの酪農乳業事情」の連載スタートです。
近年の「酪農乳業」をめぐる日本の情勢と酪農国フランスの「酪農乳業」事情の違いとは?

世界で起こる食品価格の高騰-フランスでは

リヨンではつい先日まで記録的な猛暑が続いていたかと思えば、9月に入って急に空気が冷たくなり、衣替えをする間もなく寒くなってきました。朝晩の最低気温は10℃を下回り、日中でも20℃に届かず、このまま一気に冬になってしまわないかと心配しています。

というのも、各国で電気料金の値上げが話題になっていますが、昨年に比べて2倍以上の請求額になっていたからです。フランスの秋は短く、我が家では11月に入ってから暖房を入れていましたが、今年はクリスマス頃まで我慢しなければならないかもしれません。

各国同様、電気代だけでなく、食料品価格の高騰も家計を圧迫しています。

情勢悪化の影響で消えたひまわり油

春先には、ひまわり油が一時的にフランス国内の棚から消え、価格が2倍に跳ね上がりました。家庭用の調理油としてだけでなく、外食産業のポテトフライやマヨネーズなど油脂加工食品の原料として欠かせない製品です。

フランスは欧州連合内の主要なヒマワリ生産国でもありますが、消費量を賄えないため、ウクライナからの輸入にも頼っています。情勢悪化の影響により不足に陥りました。

加工食品メーカーは製品価格が上がるのを避けるために使用量を減らしたり、パーム、ナタネ油などに変更したりしていましたが、緊急対処のため原材料表示の書き換えが免除され、消費者はアレルゲンの特定ができなくなったりなど、新たな問題も発生しました。

後日、スーパーにはトルコやアルゼンチンからのヒマワリ油も並ぶようにもなったため、欠品期間は長期にわたることはありませんでしたが、9月現在の価格は昨年に比べ約40%値上がりしています。

  • ウクライナからの輸入が途絶え、フランスで品薄になったひまわり油

猛暑の影響で消えたマスタード

ひまわり油の次にスーパーの棚から消えたのは、フレンチマスタードでした。

日本でもディジョンマスタードはよく知られているように、フランス人の食卓に欠かせない食品で、ヨーロッパで消費されるマスタードの半分はフランス製です。

しかし、原料となるからし菜の種子の自国栽培は 5%程度で、8割をカナダから輸入しています。昨年の夏、カナダでは50℃近くの猛暑に見舞われ、収穫量が半分になったことが主な原因です。

リヨン料理にも欠かせない伝統的な調味料の不足により、レストランではレシピを変更したり、マスタードを提供しなくなったりした店も現れました。

そのほか、フランスのスーパーで昨年に比べ価格上昇率が高かった主な製品は次の通りです。

  • (2022年4月IRi Institute 調べ)

    *スムル…主菜の付け合わせとして使われる粗挽きデュラム小麦

食料自給率125%のフランスが受ける気象状況や政治的・経済的問題の影響とは

食料自給率(カロリーベース)125%のフランスでは、食料不足を心配する必要はないと言われています。それでも国内で不足している、あるいは調達できない食料など約20%を輸入しており、その率は年々上がっています。

農業国であっても輸入に頼る限り、生産国の気象状況および政治的・経済的問題による国際市場での食料価格の変化に食生活が左右されてしまいます。

ほぼ自給自足できている農産物でさえ、気候リスクは避けては通れず、一次産品の収量が減少すれば、飼料穀物や肥料原料の調達にも影響を与えます。フランス国内では今夏記録的な熱波に見舞われ、干ばつにより乳牛は例年通りの量の青草などの飼料をはむことができないため、生乳の不足が秋から冬にかけて生じると予想されています。

8月には、牛の飼料に 75% の牧草を使用することを義務付けているAOP(原産地呼称保護制度)チーズの「サレール」が、生産停止に追い込まれる事態が生じています。

また、日常食品ではありませんが、クリスマスの食卓に上るエスカルゴも干ばつの影響を受けています。バター不足ともなれば、郷土料理エスカルゴバターの危機にもなりかねません。

クリスマスシーズン前に、思わぬ食品がスーパーの棚から姿を消す懸念はありますが、年に一度家族が揃うクリスマスは温かい食卓を囲みたいものです。

管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。

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