第3回 フランスの包装前面栄養表示
「ニュートリスコア」の現状と問題点 - 1

フランスの酪農乳業事情 連載一覧

コラム、「フランスの酪農乳業事情」の第3回をお送りします。

皆さんは食品を買うとき栄養成分の表示を見て選びますか。

日本でも2020年4月から義務となった栄養成分表示は、熱量・たんぱく質・脂質・炭水化物・ナトリウム(食塩相当量)の順で表示することとされています。一般的には包装の側面か裏側にありますが、字が小さく見にくかったり、目立たないため見つけにくいといった意見が聞かれています。そのため、消費者によりわかりやすい栄養表示として「包装前面栄養表示」を導入する検討が2023年11月から始まりました。

消費者の健康的な食品選択を助けるため、世界保健機関(WHO) やコーデックス委員会では、包装前面栄養表示のガイドラインを策定しており、海外ではすでに複数国において導入されています。ヨーロッパでいち早く取り入れたフランスでの包装前面栄養表示「ニュートリスコア」について導入経緯とその後の評価、問題点について紹介していきます。

フランスの包装前面栄養表示「ニュートリスコア」

フランスでは、包装済食品の多くに「ニュートリスコア(Nutri-Score)」と呼ばれる栄養表示が記載されています。
消費者が栄養価に関する情報を一目で比較できるようにする表示です。*1
  • フランスで包装食品の約60%に採用されている栄養表示「ニュートリスコア」。含まれる栄養素によってA,B,C,D,Eの5段階に色分けされ、栄養学的観点から“健康によい”食品がどれかひと目でわかる表示とされる

食品表示に関して、欧州連合(EU) に準拠した法律を適用しているフランスでは、欧州規定で義務化されている栄養成分表示(エネルギー、脂質 、飽和脂肪酸、糖類、たんぱく質 、ナトリウム)に加えて、消費者が製品を理解するのに役立つ場合には、他の形態の表示を行うことが認められています。

ニュートリスコアは、製品100g または 100ml 当たりに含まれるエネルギー・飽和脂肪酸・糖質・塩分= "摂取を制限する栄養素" と、食物繊維・たんぱく質・果実・野菜・豆類・ナッツ・菜種・クルミ・オリーブオイル= "摂取を奨励する栄養素や食品" に応じて、アルゴリズムで計算されます。

計算後、取得されたスコアに基づいて、数値が低い順に「 A= "栄養学的観点から最も好ましい製品"(濃い緑色)」から、「 E= "栄養学的観点から最も好ましくない製品"(赤色)」に分類され、各アルファベットと色が包装の前面に表示されることになります。
 

  • Nutri-Score 栄養情報システム(出典:フランス公衆衛生局)

    ニュートリ−スコアは摂取が推奨される栄養素と摂取を制限する栄養素によってアルゴリズムで計算され、Aは濃い緑色、Bは明るい緑色、Cは「注意」とすぐにわかる黄色、Dはオレンジ色、Eは「危険」を表す赤色に分類され、食品包装前面に表示される

国民健康栄養プログラム(PNNS)*2 と連動し、国民の栄養ニーズをカバーし、特定の食品に関連する慢性疾患のリスクを防ぐことを目的に、「すべての人にとって明確で目に見えて理解しやすい栄養情報」として、食品業界、消費者、研究者など複数レベルの協働によって2017年より導入されることになりました。

現在、ニュートリ-スコアは任意であるため、食品会社の自主表示になりますが、参加する企業は年々増えており、フランス国内では2020年415社、2021年700社、2022年では875社に採用されています。また近隣諸国にも広がっていて、フランスのほか、欧州6カ国(ベルギー、ドイツ、ルクセンブルク、オランダ、スペイン、スイス)で導入されています。

評価に関する懸念

導入後の研究*3では、ニュートリスコアにより、栄養学的に好ましくない製品を選択する確率が34%減少したといった分析結果が発表されました。また、よくないスコアの食品(いわゆるジャンクフードなどの超加工食品)を定期的に食べる成人は、運動習慣や喫煙などの要素を補正した後でも、がんになるリスクが増えるという研究結果が得られています。品質の「透明度」を求める消費者が増えていることもあって、今ではフランス人の約8割が購入時にスコアを参考にするといわれています。

しかし一方で、評価が単純化され過ぎているため、問題があるとの指摘も多く挙がっています。

ニュートリスコアは、もともと国民健康栄養プログラムの枠組みの中で提案されているため、過体重や肥満、ひいては糖尿病、高血圧、心血管疾患など食生活に要因がある疾患の改善を狙いとしています。それらの疾患に関係があるとされる一定の栄養素に着目してスコアが決定されます。つまり、製品に含まれる繊維、たんぱく質、野菜が多いほど、その評価は良くなり、逆に、エネルギー、飽和脂肪酸、糖質、塩分の含有量が多いほど、スコアは悪くなる仕組みです。しかも、食品100g(飲料100ml)あたりの含有量で計算されていますが、一回の食事で100g食べるとは限りません。更には、食品加工の程度は念頭におかれず、望ましくない工業用成分や添加物の有無についても考慮はされていません。

例えば、フランスの食文化を代表するチーズは、その塩分や脂質含有量によって多くがDもしくはEの評価がついていますが、一回の食事で摂る量を考えれば妥当とはいえません。また、原材料がすべて加工されていない自然な食品であるにも関わらず、単純にニュートリスコアだけで判断すれば、超加工食品の評価と同じになってしまうのです。*4
  • フランスの食文化を代表するチーズ。原材料がすべて自然な食品で最小限の加工にも関わらず、その塩分や脂質含有量によって多くが超加工食品と同じDまたはE評価に(写真:E評価のロックフォール、D評価のエメンタール)
フランス乳業会社ラクタリスの会長兼CEOであるフィリップ・パラッツィ氏*5は、「ニュートリスコアは100gの量で計算されるため、バターや生クリームを一度に100g摂取するとすれば脂肪を多く摂取することになり、最悪のE評価となる。逆に、炭酸飲料の多くはBまたはC評価を取得しているが、330ml缶を飲むと、100mlの3倍以上を摂取することになる。実際に摂取する量が重要で、ニュートリスコアは自社製品の品質を正確に反映していない理論的な情報を提供するものである。」と声をあげています。
これに対し、フランス国立農業・食糧・環境研究所(INRAE)によれば*6、少量で消費される製品をより有利に評価すると、摂取量が増加するリスクが生じる可能性があるというのです。

また、ニュートリスコアでは乳製品からのカルシウムとたんぱく質の摂取量が無視されていると言わざるを得ません。たとえば、ロックフォールチーズには 100g 当たりたんぱく質が 19.1g、カルシウムが 662mg 含まれています。成人が1日に必要とするカルシウム量を満たすのに十分な助けになるにも関わらず、塩分と飽和脂肪酸量によりE に分類されているのです。

国外でも反発の声が上がっています。
ニュートリスコアでは、イタリア特産のオリーブオイルをC、パルミジャーノ・レッジャーノの粉チーズをEと評価しています。しかし、イタリアの農業組合はこれを「フランスの評価システムは恣意的であり、消費者に誤解を招く可能性がある」と批判し、ニュートリスコアの見直しを求めています。
フランス人の約90%がこのニュートリスコアに賛同しているといわれていますが、残りの10%の声が大きいのが現状です。
これらを受けて2022年4月、ニュートリスコア委員会は改善点を発表しました。
(このテーマは次号に続きます)
  • ANSES:国家食品安全庁
    INCA3:2017年国民栄養調査
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。