第18回 食の無形文化遺産-1

ミルクの国の食だより 連載一覧

コラム、「ミルクの国の食だより」の第18回をお送りします。
和食が2013年、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。”食の無形文化遺産”とはどのようなものか、そしてその意義は?

「食」の登録はフランスが初

フランスの食文化であるガストロノミー(美食術)は2010年、初めて食の分野で認められたユネスコの無形文化遺産です。そして2013年12月、日本の和食も同じくユネスコに登録されました。
フランスも日本も、長い歴史の中で培った自国の食文化に対し、誇りとこだわりがある国。いったい、”食の無形文化遺産”とはどのようなものなのでしょうか。

フランスの馬術、日本の歌舞伎も

「無形文化遺産」とは、遺跡や建造物のような、いわゆる有形の文化遺産に対し、形に残らず、人づてにしか伝えられない形のない文化遺産のことです。
近年のグローバリゼーションの進展に伴い、世界各地で消滅の危機が叫ばれるようになったため、保護と継承を目的に2006年に発効されたユネスコの新しい条約(無形文化遺産の保護に関する条約)に基づいて登録されます。
日本では”人間国宝”といった言葉もあるように、もともと国内の無形文化財に対する保護制度が50年以上も前から存在していることもあって、歌舞伎や能楽、京都祇園祭、結城紬など計22件(*1)が、ユネスコ無形文化遺産に登録されています。
これに対し、フランスからは馬術やかぎ針レース編など、計12件が登録されています。
■近郊の特産品が集まるマルシェで披露されていた民俗舞踊。ユネスコではないが、こういう無形文化も次世代ではもう見られないのかもしれない
■こちらもマルシェで熟練された技術が披露されていたボビンレース。ボビン(糸巻)に巻かれた何本もの糸を、型紙のデザインに従ってピンで固定しながら糸を交差させ織り上げる

5つの分野の無形文化遺産

その土地の歴史、文化、生活風習と密接に結びつき、世代から世代へと伝承されるユネスコ無形文化遺産。
具体的には、
(a)口承による伝統及び表現
(b)芸能
(c)社会的慣習、儀式及び祭礼行事
(d)自然及び万物に関する知識及び慣習
(e)伝統工芸技術
の5つの分野があります

「栄養」「味」以外の食の機能に重点

これまでに食に関するもので登録されたものは5件。
フランスのガストロノミー、地中海料理、メキシコの伝統料理、トルコのケシケキの伝統、そして、日本の和食。いずれも「社会的慣習」の分野での登録になります。
私たちは食について評価する際「栄養があるか」「味がよいか」というところに注目しがちです。
しかし、食にはそれ以外にも役割があります。
・生理的機能
食の最も基本的な役割はエネルギーや栄養素を摂取し生命や健康を保持していくことです。
・精神的機能
食は単に空腹を満たすだけでなく、食べ物の味や香りを楽しむことで心理的な満足を得ることができます。
栄養と味に関連し、人間の本能的な欲求でもあるこの2つが、食の機能として印象が強いですが、食の無形文化遺産は残り3つの機能に重点を置いています。
・社会的機能
食は人間関係の媒体ともいわれます。
食事を通して家族の団らんや友人らと仲を深めるなどの人間関係を築いています。また、それを円滑に進めるため、食におけるルールやマナーが決められています。
・文化的機能
私たちは、より美味しいものを求めることから、食の文化をはぐくみ、食に対する精神・芸術を展開してきました。
郷土料理や行事などでの料理様式はその地域の自然・歴史・宗教などを通して培われた文化といえます。
・教育的機能
食卓は子どもが食べ物に関する知識やマナー、食べ方や食べる適量などの習慣を身につける場でもあります。
同時に大人から子どもへそれらを伝えていくことが求められます。
このように食に関わる技術や知識とその背後にある伝統、行事、儀式。
これらを保護し伝えて行くことで、その食が育まれてきた社会や文化そのものを守り、次の世代へと継承・伝承していく。これが”食の無形文化遺産”というもののようです。
*1  2014年8月現在
※このテーマは次号に続きます。お楽しみに。
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。