第19回 食の無形文化遺産-2

ミルクの国の食だより 連載一覧

コラム、「ミルクの国の食だより」の第19回をお送りします。
2010年、ユネスコ無形文化遺産に登録されたフランスのガストロノミー(美食術)について探っていきます。

食のグローバリゼーションと世界各地の食文化

近年のグローバリゼーションの進展に伴い、消滅の危機が叫ばれるようになった世界各地の食文化。
フランスも例外でありません。
生活スタイルの変化と経済不況の影響を受け、ファストフードや加工食品など画一化された食が浸透しつつあります。
そのような食の伝統や食に対する人々の意識の変化も相まって、このままではフランス本来の文化が失われるという危機感から、フランス人に自分たちの食文化に再び目を向けさせるため、ユネスコ無形文化遺産の申請へと至りました。

無形文化遺産としての「美食術」とは?

そして2010年、ユネスコ無形文化遺産に登録された「フランスのガストロノミー(美食術)」。
”美食術”と聞くと、高級料理に限定される”フランス料理”のイメージがありますが、そもそもガストロノミーは「食生活を行う存在としての人間に関わりのあるすべてのものについての論理的知識」のことで、様々な生活場面での解釈によって成り立つのです。
無形文化遺産としてのガストロノミーは、フランスでは食事が「出産、結婚、誕生日、成功、再会など、個人や集団の生活の最も大切な時を祝うための社会的慣習」であるということ。
つまり、特定の食事のことではなく、より美味しく食事をする慣習のことで、関連するノウハウ(一緒に食事をすること、自然の恵みとの調和、料理とワインの組み合わせ、食器のセッティグ、マナーなど)とともに、フランス人のアイデンティティーの一部を成すものといえます。

食は「喜びを分かちあう時間」

食前酒ではじまり、前菜・主菜・チーズ・デザートなど、少なくとも2~4品の料理が続き、食後酒にいたるまで、たっぷり時間をかけて過ごす伝統的なフランスの食事スタイル。
現代の忙しい生活リズムの中で失われつつあるのは事実ですが、それでも日曜日、クリスマスなど大きな祝祭日、誕生日、結婚式などのハレの日は、家族そろって食卓を囲み、会話をしながら食事を楽しむ食習慣は今も健在です。
彼らにとって、食は「体にいい」「おいしい」という内容よりもむしろ、「親しい人たちと喜びを分かちあう時間」という意味合いが非常に強く、食卓で過ごす時間は人生においても重要な意味を持っているのです。
■以前に宿泊したシャンブル・ドットでは宿泊者全員で同じテーブルを囲んで夕食を共に。夜の8時に食前酒から始まり、最後のコーヒーが出たのが11時過ぎ。その間、知らない人同士でもずっとおしゃべりに興じていたフランス人たち。食事も体力が必要です
※このテーマは次号に続きます。お楽しみに。
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。