チーズか、それともデザート?
— Fromage ou Dessert

ミルクの国の食だより 連載一覧

コラム、「ミルクの国の食だより」の第73回をお送りします。チーズかデザートか、それが問題だ!? さてあなたならどちら?

「人生には選択を迫られる時がある。チ-ズを選ぶか、デザ-トを選ぶか」

今は亡きフランス人コメディアンのコリューシュ(Coluche)が言ったジョークにもありますが、二者択一をしなければならない時に使われるこの比喩は、フランス人の美食をよく表しているフレーズだなと感じます。

「Fromage ou Dessert /チーズかデザート」というのは文字通り、レストランのメニューで使用される2つの形式のことで、前菜とメイン料理の後に、好みによってどちらを選ばなければなりません。

フランスの食を代表する芸術性と美食性を兼ね備えた2つの皿…どちらか一方を選択しなければならないとなると、ハムレットの心境になるのも分かる気がします。

甘いデザートで食事を締めくくるのは世界共通

実際のところ、フランス人はどちらを選ぶのでしょうか。

ある調査では、49.7%がデザートを、29.3%がチーズを選択するそうです。*

同じ調査で英国人では20%がデザートを、11.2%がチーズを選び、さらにどちらも選ばないと答えたのが66.7%。また日本では35%の人が食後に甘いものを食べる習慣があるという結果も。*

食事の最後を甘いデザートで締めくくるというのは、ヨーロッパではルネサンス期に導入され、18世紀以降に定着していった比較的新しい慣習ですが、現在では世界共通ともいえるかもしれません。

国によって消費パターンが異なるチーズ

一方のチーズは、国によって消費パターンが大きく異なります。

同じヨーロッパでもドイツ、ベルギー、オランダでは、主に朝食時と夕食時にサンドイッチの形で消費されています。

イタリアでは、パルメザン、モツァレラのように消費されるチーズの多くが料理に使用されます。

そしてアングロサクソン諸国(イギリス、アイルランド)では、何よりもサンドイッチやスナックの形で食べられます。

フランスの食事スタイルにおいては、ほかの3つの皿(前菜、メイン、デザート)はさまざまな食材や調理法で構成されていますが、チーズは単独でチーズのみが提供されるという、まさにフランスならではの食文化。
伝統的に料理には塩味、デザートには甘味とはっきりと味が分かれて構成されるフランス料理では、チーズは甘味へといざなう役割があります。

迷ったら、フランスの格言 ”Fromage ET Dessert”(チーズもデザートも!)

食事は甘いもので終わらせたいが、チ-ズを抜かすのは寂しい…

数千年の歴史を持ち各地の庶民たちの手によって次々と生み出され、酸味やうま味だけでなく、刺激味など複雑な味が絡み、加えて様々なテクスチャーと多様性に富み、人々を虜にするフランスのチーズ。

クリーム、バター、チョコレート、果物など、様々な食材と調理技術とを組み合わせ、時には冷たく時には温かく、固さがあったり滑らかだったり。華やかな装いで食べる人に感動を与えるフランスのデザート。

あなたならどちらにしますか?

もしも、迷いに迷ったら”Fromage ET Dessert”(チーズもデザートも!)がおすすめ。
選択することなく、2つのことから同時に恩恵を受けることができる可能性を示す比喩として使われるフランスの格言でもあります。
* L'Echo Magazine - Février 2014より https://issuu.com/lecholondon/docs/2014-02-echo
*『おやつ・間食に関する実態調査2017』より https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_001663.html
  • 食事は甘いもので終わらせたいが、チ-ズを抜かすのは寂しい…
管理栄養士 吉野綾美

1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。