フランス人の食卓—パンは主食か? - 3

連載コラム ミルクの国の食だより

コラム、「ミルクの国の食だより」の第86回をお送りします。パンはルネサンス期以降「最も当たり前で、最も価値がある食品」となっていきました。

当たり前で、そして最も価値がある食品

フランスで、バゲットのように小麦粉だけで作られた白いパンを誰もが食べられるようになったのは第二次大戦以降のことで、それほど遠い昔のことではありません。
薄い褐色の皮で中が真っ白のパンは、他の穀物で作ったパンと異なり、軽く、風味豊かで美食家たちを魅了しました。

そのため、長い間、ステータスシンボルとして裕福な人々だけに与えられた特権でした。

庶民は身分に応じて、ライ麦を混ぜた茶色いパン、大麦や混合麦で作った黒いパンを食べていました。

飢饉や戦争が相次いだ時代においては、小麦の凶作でパンの色が黒くなると、人々は不安を募らせたように、日々のパンの質、大きさがそのまま時の景況として反映されていました。

また、たとえ他の食べ物が不足していない時でも、パンがなければ飢えで死んでしまうとさえ考えられてたほど、ルネサンス期以降、社会階層に問わず、パンは「最も当たり前で、最も価値を与えられた食品」となっていったのです。

現代の多様なパンの食べかた

中世時代、1人1日あたり1~1.5Kg*2のパンが消費されていましたが、1900年代に900g、1920年代630g、1970年代200g、1990年代160g*3と、パンの総消費量は近代以降、食べ物の多様性によって大きく減少しました。

19世紀の終わりまで主食と主張されていたパンは、今日の食事の中では、もはや同じ場所を占めていません。

今日、フランス人はどのようなパン(バゲット)の食べ方を好むのでしょうか。*1
  • 90% チーズを味わうために
  • 89% 食事と一緒に
  • 84% 朝食のタルティーヌ*として
  • 74% 昼のサンドイッチとして
  • 62% チョコレートやジャムをのせて
  • 59% そのままで 

チーズを味わうために添えられたり、食事中にメインディッシュの皿のソースを拭うときに、前日に残ったパンをトースターで焼いてタルティーヌにして朝食に食べたり、あるいはサンドイッチだけの食事の時はそのメインの材料になったり、小腹が空いたときにチョコレートやジャムの受け皿として、フランス人はパンを消費する傾向にあるようです。

そのまま食べてももちろん美味しいバゲットですが、夫(フランス人)のようにパンだけでお腹が膨れると他の美味しい料理やコンパナージュ(パンの添え物としてのつまみ的な食べ物)が味わえなくなって残念な気分になるという人が多いように感じます。

現代のフランスでは、パンは「主食」ではなく、食事に必須の「ツール」であって、その時々の食欲に応じて自由に消費されるものといえます。

「パンをともにする」が語源の「友人、仲間」

新型コロナウィルス感染拡大第一波で起こった外出制限により、日保ちのする小麦粉はスーパーの棚から姿を消し、パンを自宅で手作りする人が増えました。
ソーシャルネットワーク上では、自作したパンの写真やレシピを共有する人が多く出現したそうです。
不足することへの恐れや、時間ができたからという理由だけではなく、パンを通して誰かと分かち合いながらこの苦境を乗り越えたいという願いもあったのかもしれません。

また、パンをこねてオーブンで焼かれる間のパチパチという音を聞いたり、香ばしく心地よい香りを嗅いで 、この期間中のストレスを忘れたり、家族と食べる喜びを再認識した人も少なくなかったことでしょう。

 フランス語の ”コパン(Copain)=友人、仲間” が、「パン(Pain)をともにする(Co)」という語源からできた言葉であるように、パンは無意識のうちにフランス人に深く刻まれた人と人をつなげる唯一無二の存在だからこそ、必須の食品としてそこにあり続けるのだと思います。
  • 時代によって、神聖、正義、希望、安定の象徴であったパンは、現代のフランス人の食卓にも欠かせない。パンを皆で切り分けて食べることは、悲しみや喜びを共に分かち合うことであるように、パンは人と人とをつなげる重要なツールなのだ
出典・参考資料

*1 LES FRANCAIS ET LE PAIN (フランス人とパンに関するアンケート研究)
https://france3-regions.francetvinfo.fr/sites/regions_france3/files/assets/documents/2017/06/15/etude-pain-dossier-de-presse-3119539.pdf


*タルティーヌ(Tartine):バゲット(フランスパン)を食べやすい長さに切り、バター、ジャムなどを塗ったもの

*2 Contribution à l'histoire de la consommation alimentaire du XIVe au XIXe siècle (14世紀から19世紀までの食糧消費の歴史への貢献)
https://www.persee.fr/doc/ahess_0395-2649_1975_num_30_2_293615


*2 L'Alimentation paysanne(農民の食料)
http://viepaysanneautrefois.free.fr/chapitres/ch03/310_AlimentationPaysanne_336a355.pdf


*3 フランス上院1998年5月6日の会議議事録の付属書N°4171997より
保存するべく製品パンと専門職ブーランジェリー
https://www.senat.fr/rap/l97-417/l97-4171.html


管理栄養士 吉野綾美

1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。