リヨンの学校給食から考える、持続可能で健康的な食生活 - 5
(たんぱく質源の多様化の課題)

ミルクの国の食だより 連載一覧

コラム、「ミルクの国の食だより」の第94回をお送りします。前回に続き、リヨンの学校給食から考える、持続可能で健康的な食生活(たんぱく質源の多様化の課題)についてお届けします。

肉を使った給食メニューが5回に1回復活

今年2月中旬、新型コロナウイルス感染症対策として、肉のないメニューに一本化されたリヨン市の学校給食ですが、4月末から5回に1回の割合で肉を使ったメニューが復活しました。

我が家の子どもたちは安堵(あんど)した様子。

というのも、肉の代わりのたんぱく質源として、魚、卵、豆類、乳製品を主菜に使った料理が提供されましたが、実のところ、おいしかったと思えた料理はほとんどなかったようでした。

頻繁に登場していた卵料理の一つが「ゆで卵」。

メインディッシュがゆで卵だけ?と親は半信半疑でしたが、日によってトマトソースやホワイトソースが付いたゆで卵が二つと、野菜が脇に添えられた主菜だったそうです。

魚がメインディッシュのときは、蒸した魚にソースが添えられたものが多く、時には冷たいまま提供されたそう。残念ながら、子どもたちの食欲をそそる料理とは言い難い内容でした。

  • 9月から新年度が始まったフランスの小学校。
    新型コロナウイルス感染症対策のためまだ多くの規制がしかれていますが、給食の時間が楽しい学校生活の一部であってほしいと切に願っています

日本とフランスの食文化の違い

日本の食事では、魚、肉、卵、大豆など、動物性・植物性問わず色々なたんぱく質源食品を使った主菜がありますよね。

それらの食材に、野菜や海藻類を混ぜたりするので、料理のバリエーションが豊富で味付けもさまざま。

フランスの食事ではメインディッシュの肉や魚は他の食材と混ぜたりせずにソースで味わうのが基本のためか、バリエーションを広げるのが難しいのかなと個人的に感じます。

フランスの栄養士も、肉を使わない献立は食事を多様化し、子どもの味覚を目覚めさせるきっかけにつながると述べていますが、豆類など肉以外の食材をメインディッシュにする献立は家庭であまり食べられてこなかったこともあり、子どもたちが自分のイメージを持っていないため、料理を受け入れにくく感じてしまうようです。

ゆで卵も立派な料理の一つですが、私なら卵と野菜を混ぜてスクランブルエッグ風やオムレツ風にして、見慣れた料理を多様化させていく方法はどうだろうかと考えます。

しかしながら集団給食施設の場合、調理の器具や工程が特殊で作る側の訓練も必要になるので、家庭料理のように簡単にはいかないことも十分想像できます。

日本の学校給食と食文化のすばらしさ

栄養管理された食事が提供されている学校給食では、栄養の過不足を心配する必要はまずありません。

目的は、偏った動物性たんぱく質の過剰消費、食品廃棄物、食品ロスなどの環境への悪影響を制限し、このレベルの栄養価を維持することです。

栄養と環境を調和させる方法として、肉以外のたんぱく質食品を使った料理の開発や、従来とは異なる野菜の調理法など、日本の学校給食が参考になるのではと思います。

もちろん、食文化の違いはありますが、食材の多様性から言えば日本のような食品構成が理想的だと思いますし、外国の食を柔軟に取り入れながら我が国独自の日本型食生活を形成していったことで、今日のような長寿国になった背景からも学ぶことは多いのではと思います。

そして調理法だけではなく、生きていくための基本となる食を教育の一環として位置づけている日本の学校給食が、日本に住んでいると当たり前のことのように見えますが、実は世界的に見ると進んだ教育のように思えるのです。

コロナ禍に見えてきた大切な食生活

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより生活に規制がかかり、フランスではこれまでの食習慣を変えようとする人が増えました。

食生活を変えることは、決して容易なことではありませんが、食事が「共有と喜び」の源であり続ける場合にのみ、成功し得るものです。

多民族国家で食の考え方も人それぞれのフランスですが、家庭だけでなく学校給食でも、そのことが体現できる場であってほしいと、保護者の一人として強く望んでいます。

参考文献:
・肉を使わないメニューをめぐる論争を超えて、学校給食における複数の課題
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8020843/

管理栄養士 吉野綾美

1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。