第44回 フランスのバター その1 製法による区分

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コラム、「ミルクの国の食だより」の第44回をお送りします。
一人当たりのバターの消費量が世界一のフランス。さて、バターの規格はどのようになっているのでしょうか。

みなさんは、「ヨーロッパで食べたバターがすごくおいしかった」という経験はありませんか?
私自身、旅行で初めてフランスを訪れた時に食べたその味に、バターとはこんなにおいしいものだったかしら!?と、半ば感動した記憶があります。
リヨンに住んでからというもの、バターは我が家の冷蔵庫に欠かせない食材のひとつ。初めてスーパーに買いに行った時は、日本とは比較にならないほどのその種類と量に驚きました。
この中からどれを選んだらよいのか途方にくれてしまい、酪農大国なのだからきっとどのバターも美味しいだろうという思い込みから適当に選んで買ってみたものの、あれ、あの感動はどこに??
・・・残念ながら味はいまひとつピンときませんでした。
その後、いろいろなバターを買って食べてみたら、製品によって味がそれぞれ違うことに気づきました。パッケージのデザインだけで判断して購入していましたが、自分好みのバターにいち早くたどり着くためには、まずは表示の見方を知らなくてはなりません。
■ 酪農大国フランス。バターの年間消費量は一人当たり8kgで世界第一位

そもそも「バター」とは?

フランスでバター(Beurre)は
「油中水滴型エマルションの乳製品で物理的操作によって得られる乳由来の食品。100gあたり乳脂肪82g以上、無脂乳固形分2g以下、水分16g以下でなければならない」
と定義されています。 
ちなみに日本のバターの成分規格は「乳脂肪80%以上、水分17%以下」です。
なるほど、フランスのバターが日本のバターに比べてやわらかいと感じたのは、日本のものより乳脂肪が2%高いからなのかもしれません。
■ 冷蔵庫から取り出したばかりでも日本のバターに比べて柔らかい印象のフランスのバター

フランスのバターの規格は3つ

そして、原料のクリームと製法によって、3種類のバターが存在します。
1.Beurre cru(クリュ) 熱処理は全くされていないクリームから製造されるバター。
2.Beurre extra-fin(エクストラ・ファン) 加熱殺菌したクリームを使用するが、冷凍ないし急速冷凍したクリームは認められない。搾乳から72時間以内、クリームの分離から48時間以内に攪拌作業が開始されなければならない。酸性化の工程は経ていない。
この名称は冷凍、急速冷凍、混合、膨張、などの工程を経たバターと区別するためのものである。
3.Beurre fin(ファン) 冷凍ないし急速冷凍した乳原料が30%を超えないこと。ホエーに含まれる乳脂肪(crème de sérum)から製造されるものではない。
乳牛は春に乳量が豊富になるので、そのときに冷凍保存されたクリームがバターの原料として使われるようです。
上記2,3に該当するバターは殺菌バター(beurre pasteurisé)とも呼ばれます。
■ たくさんの種類と量のバターが並ぶフランスのスーパー
※このテーマは次号に続きます。お楽しみに。
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。