第46回 フランスのバター その3 塩分の違いによる区分

ミルクの国の食だより 連載一覧

コラム、「ミルクの国の食だより」の第46回をお送りします。
前回に続き、フランスのバターについてお伝えします。現在、フランスで多く生産される塩を加えないバターが生まれたきっかけは、14世紀の塩への課税が背景にあったようです。

塩への課税で塩を入れないバターが誕生

その昔、冷蔵庫がなかった時代から食べられてきたバターは、保存性を高めるために塩を添加したものが本来の製法でした。
しかし、14世紀のフランスでは、当時の王令により塩に対する課税が始まり、貧しい農民は半ば塩蔵品のバターを作るだけの塩を買うことはできず、やむなく塩を入れないバターを作ったといわれています。(ちなみにチーズは、バターに使う塩の量に比べて少量でも作ることができたので、チーズの食文化が発展するがきっかけになったという面もあるそう)
現在フランスでは、食塩を添加していないバターの方が生産量が多いのは、こういった歴史的背景も関係しているようです。

塩分の違いによる区分は3つ

Beurre doux(ドゥー) 
 クリームの攪拌後に得られた状態だけで塩を加えていないバター。食塩を加えていないという意味で使われる”doux ”は「甘い、マイルドな」という意味。義務表示ではないが、食塩を添加してあるバターとはっきり区別するため表示しているものが多い。
Beurre demi-sel(ドゥミ・セル)
 0.5~3%の塩分を添加したバター。
Beurre salé(サレ)
 3%以上の塩分を添加したバター。
フランスで、バターの成分規格は「100gあたり乳脂肪82g以上、無脂乳固形分2g以下、水分16g以下」ですが、食塩が添加されたバターの場合は「100gあたり乳脂肪80g以上」とされています。添加された塩分量により名称がこのように変わります。
日本の食塩添加バターは100gあたり食塩相当量1.9gなので、フランスの食塩添加バターは日本の平均的なものより塩分が強いといえます。
■Beurre demi-sel(ドゥミ・セル)の製品例
■バターの成分規格は100gあたり乳脂肪82g以上だが、食塩が添加されたバターの場合は乳脂肪80g以上とされている。このバターは海塩2%、食塩1%、計3%の塩が添加されている
■穴のように見えるのは塩の結晶。食塩が均一に混ざっているものが多いが、塩が大粒の結晶のまま混ぜ込んであるバターもある。シャリシャリとした口当たりがおもしろい

地域によって好みが分れるナチュラル派と塩味派

あるアンケート*では、フランス人の53%が食塩を加えてないバターを、45%が食塩を加えたバターを好むという結果があります。ナチュラル派か塩味派か、フランス人の中でもバターの好みは常に二分されます。
その昔、バターはゲルマン人によってもたらされたという歴史的な背景もあり、バターが伝統的な食文化として根付いているブルターニュなどの西の地方では、塩の効いたバターが多く消費されています。
現在では保存性を高める必要はありませんが、塩味のバターが好まれる理由として、乳酸発酵のうま味を引き出し、バターの美味しさをより感じるから、という嗜好的要素が強いといえます。
■地域別のバターの好み*
※フランス BVA社の調査「フランス人と料理」よりグラフ部分を和訳して作成しています。
Les Français et la cuisine Octobre 2016(アンケート フランス人と料理 2016.10)(PDFへリンク)
■市場規模はdoux 62%、 demi-sel 38%、 salé 1%(2015年現在 Panel Symphony IRI/CNIEL)
※このテーマは次号に続きます。お楽しみに。
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。