第47回 フランスのバター その4 こだわりのバターいろいろ

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コラム、「ミルクの国の食だより」の第47回をお送りします。
前回に続き、フランスのバターについてお伝えします。フランスのバターには、さまざまなこだわりが。そしてそのこだわりは、表示でしっかりわかるようになっています。

フランスでバターを購入する際に参考になるのが、原料と製法による区分と、食塩の添加・無添加による区分。
これだけでも数種のバターが存在するわけですが、このほかにもパッケージの表示からわかることがあります。

Beurre de baratte(バラットのバター)

伝統的なバター製造用の攪拌器をフランスではbaratte(バラット)と呼びます。
昔はこのバラットでクリームを激しく攪拌して作られていたバター。30分 - 2時間程の攪拌作業が必要で、その間にクリームの熟成が進んで味わい深くなるともいわれます。
今日のフランスでは、この製法で作られているバターは1割程度。大半のバターは、原理は同じですが、何十倍もの速さで一気に成形まで仕上げるオートメーション化した連続式バター製造機で製造されています。
Beurre de baratte」は省令による表示義務ではありませんが、近代的な製法で作られたバターとの差別化になります。
なお、バラットでバターを作る方法は、日本ではチャーン製法と呼ばれています。
■バター製造用の攪拌器バラットのイラストがついたバター。バラットであっても手で攪拌しているわけではない
※バター製造機のイラストは日本乳業協会のサイトでご覧いただけます。日本乳業協会「バターの歴史」

Beurres AOP(AOP認定バター)

AOP=Appéllation d’Origine Protégée(原産地保護呼称)の略。
生産地と歴史に深く結びつく製品の特徴を確実に定義づける品質保証制度であるAOP。
2017年現在、フランスでAOP表示が許可されたバターは3つあり、いずれも原産地と製造法が規定されています。
le beurre Charentes-Poitou AOP、 le beurre d’Isigny AOP 、le beurre de Bresse AOP
■AOP認定バターの製品例。写真は Charentes-Poitou 産

Beurre AB(有機農産物認定バター)

AB=Agriculture Biologiqueの略。
原料となるクリームが、厳格な生産基準に基づいて管理された牛から生産されという品質保証であって、クリームやバターの製造法に関する規定はありません。
■有機農産物認定バターの製品例

筒形バターや量り売りバターも

などなど…やはり、フランスの食文化にバターは欠かせないだけあって、こだわりのバターが色々と存在します。
さて私個人は、欧州旅行で初めて食べたバターの味、あの感動がよみがえるようなバターにはいつ出会えるのでしょうか。
今思い返すと、旅という非日常で出会った味だからこそ、なおのこと感動したのだろうと思います。
バターと一緒に食べたパンやコーヒーの味、町並みや空気感も・・・
舌の記憶だけでなく、知り得た知識は、異国での生活に新たな発見や新鮮な驚きをもたらしてくれもします。
この先、どんなバターに出会えるのか、楽しみです。
■形も日本のバターでおなじみの板のような形状から、木型で成型したような形、筒形などいろいろ存在する
■チーズ専門店で買える量り売りのバター。beurre à la motte=塊バターの意味
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。