第57回 暑い夏はアペロでのりきろう!

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コラム、「ミルクの国の食だより」の第57回をお送りします。
暑い夏は体力が消耗し、料理を作るのも大変。そんな夏を楽しく乗り切るとっておきの習慣が「アペロ」です。さて、アペロとはどんなものでしょうか。

日本と異なる乾燥した暑さ

毎日暑い日が続きますね。リヨンの夏は日本のように湿度が高くないので、歩いたりしない限りあまり汗が出てこないかわりに、のどが乾いてふうふう言ってしまう、まるでオーブンの中で焼かれるような暑さです。

冷房があまり普及していないフランスですが、湿気がない分、逆に日中は窓と鎧戸を閉め切って陽光をさえぎり冷気を保つようにしています。

買い物などは朝のうちに済ませ、昼からは外出を控えるのが暑さ対策のひとつに挙げられています。

移動するだけで体力を消耗し、気力がついていかない夏は、暑くて億劫で料理を作る気も失せてしまいますね。。。そんな夏を楽しく乗り切るとっておきの習慣「アペロ」がフランスにはあります。
 

アペロの語源はアペリティフ(食前酒)

アペロ(Apéro) とは、ラテン語「aperire =開ける」が語源の「apéritif(アペリティフ)=食前酒」からきています。

もとは食欲を増進させたり、集まっている人たちとの会話のきっかけになることを狙って食事の前にお酒を飲むことから始まった習慣。このアペリティフの巷でよく使われる表現、友達言葉で「アペロ」といいます。

「アペロしない?」は、フランスで日常的に耳にする言葉。

食前酒というと何だか気取った習慣に聞こえますが、本来気軽なもので、仲間とおしゃべりを楽しみながら、ゆっくり過ごす時間として広く浸透しています。

もっといえば、食事の前に限った習慣ではなく、フランス人はアペロを楽しむのに時間も場所も体裁もお構いなし。
 
  • ピーナツやチーズをつまみにおしゃべりを楽しむこの空間、この開放感がアペロ。フランスの日常生活に欠かせないひとときです

簡単であればあるほど良い !

週末、夕食後に「今からアペロしない?」

—そんな急なお誘いがかかっても、飲みかけのワインにコルクをはめて、残りもののチーズをさっと包んで持参。緯度の高いフランスの夏はなかなか日が沈まないので、ピクニックのように屋外でもアペロを楽しみます。

子どもがおやつの時間を楽しみにしているように、フランスの大人にとって「アペロ」はワクワクした時間です。

なんといっても誘う側も誘われる側も気構えなくてよいのがアペロのよいところ。

友人を自宅に招くときでも肩肘張らずに、おつまみも簡単であればあるほど良いのです。そのため、フランスの家庭の台所には大抵、いつでも簡単なアペロが出来るように、ピーナツやオリーブ等が常備されています。

家庭によって出てくるものは多少違いますが、あとはスーパーにたくさん並んでいるアペロ用のチーズやタルト、ミニトマトなどを調達してくればオーケー。

「お弁当作らなきゃ、おもてなし料理しなきゃ」なんていう心配はいりません。

この気軽さが日本人のおもてなしの習慣とは違うところかもしれません。
 

「飲む」「食べる」「会話」を大切に

友人を作ったり、親睦を深めるのには丁度いい、フランスの「アペロ」という習慣。

日本の「ちょっとお茶しない?」に少し似ているかもしれませんね。

とはいえ、フランス人たちのワインを片手に弾むおしゃべりは一体いつまで続くのかと思うほど。。。

食事は考えるのも作るのも時間がかかり、こだわればこだわるほどエネルギーが必要です。

無理することなく楽しい時間を誰かと共有でき、お腹以上に心が満たされるアペロは「飲む」「食べる」「会話」を、何よりも大切にしているフランス人らしい食文化だといえます。
管理栄養士 吉野綾美

1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。