第61回 フランスの学校給食 その4

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コラム、「ミルクの国の食だより」の第61回をお送りします。前回に続き、フランスの学校給食の話題です。フランスでは日本のような「給食係」はいません。また、給食を教室でとることもありません。食文化の縮図といえる面もあり、とても興味深いですね。

給食は食堂で

フランスでは学校給食は教室ではなく、食堂で提供されます。
また、日本のように担任の先生が児童と一緒に食事をすることはありません。昼休みは先生たちにとっても休み時間。
リヨン市から派遣された別の職員が学校食堂へ子どもたちを引率して、食事の世話も行います。

大抵、幼稚園と小学校は同じ敷地内にあって、1クラス最大でも30人ほど。
食堂も共用なので、低学年から時間をずらして入れ替え制で利用します。

公立学校の場合、給食センター(セントラルキッチン)で調理されたものが学校食堂で提供されるため、冷蔵保存と再加熱するくらいの調理設備だけで、大きな調理場があるわけではありません。

子どもたちは着席して待つ

さて、テーブルについて待っているとお皿に料理を取り分けてもらえます。日本のように児童が配膳することはありません。

献立は前菜、メインディッシュ、付け合せ、乳製品、デザートで構成されますが、レストランのように一品ずつ提供されるわけではなく、ほとんどの場合、トレーの上にすべて配膳されます。

たとえトレーに全部が乗っていても前菜から順に食べていくのがフランス式。
給食でも伝統的な食事スタイルを踏襲し、子どもの頃から一皿ずつ食べる習慣が身につきます。

小学生になると、自分でトレーを持って好きなものを選ぶ、カフェテリア形式の配膳になります。メニュー構成は変りませんが、前菜、乳製品、デザートがそれぞれ2種類あり選べるようになります。
  • 幼稚園での給食の様子。ナプキンをつけて料理を待つ子どもたち

乳製品は「食べて」摂取

乳製品はチーズが多く、ヨーグルトも出ます。
チーズはカルシウム摂取という栄養的な役割だけでなく、フランスの食文化を伝える食材でもあることから、献立表にも単にチーズとは書かずに、ゴーダ、エダム、トム、ミモレットなど、その種類が明記されています。

日本のような飲用牛乳は出ませんが、他の乳製品も含め、調理に多く使われています。
フランスの給食で乳製品は「食べて」摂取が基本といえます。

食事開始の合図は?

食事は「いただきます」や「ごちそうさま」のような全員そろっての挨拶はありませんが、同じテーブルで食べる人の配膳を待って食事を開始し、全員食べ終わるまで座って待ちます。
学校給食は栄養バランスと味覚教育の観点から、すべての料理を試してみることが大切ですが、決して無理強いはしません。

昼休みが2時間15分もありますが、実際の食事時間は40分程で、残りの時間は休息をとるか、昼休みを担当する職員によって企画されたスポーツや工作などのレクリエーションに参加して過ごします。

リヨン市の給食費は公立校の場合、家庭の所得によって異なり、一食あたり0,81 - 7,30€となっていますが、これには食費だけでなく職員の人件費も含まれています。
昼休みには「味覚教育」の場を設けることも推奨されています。
  • 長い昼休みには、食事以外にスポーツやレクリエーションの活動も
    第58回参照

多様でおいしい食事の工夫

自分たちで給仕をし、同じ場所で同じものを皆で食べることで共同体の一員としての責任感を育む日本の学校給食。
一方、昼休みの過ごし方を家庭での習慣や主義により選択できるフランス。

品数や料理の構成は、その国で培われてきた食文化の伝統に則っているなどの違いはありますが、児童・生徒の嗜好に応じ、多様でおいしい食事を提供するため、食材を精選したり、調理法を工夫したりするなど、様々な努力が重ねられている姿はどちらの国の学校給食にも共通しています。

子どもたちは、育った国の食文化へ親しみを持てるよう、学校給食を通して食べることの楽しさを知ってほしいと思います。
  • ”Grève”=ストライキのこと。給食のストライキは大概は数日前に予告され、年に数回発生する。昼休みに迎えに行くことになったり、弁当持参が許可される等、対応は学校によって異なる
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。