英国の飲用牛乳市場とミルク・サプライチェーン論の動向

今年の初めに、社団法人中央畜産会から「新基本法農政推進等調査事業」に基づく委託を受けて、矢坂雅充東京大学大学院経済学研究科助教授と前田浩史酪農乳業情報センター事務局長が、英国の生乳・乳製品需給調整について調査研究を行った、これは、その報告書です。
報告書の全文を関連リンクに分割して掲載しましたので、ご参考にしてください。
また、「ミルク・タスクフォース」も併せてその訳文を掲載しています。 

英国の飲用牛乳市場とミルク・サプライチェーン論の動向

報告書では、第1章において、英国の飲用牛乳市場と酪農乳業動向を調査・分析されています。
飲用牛乳市場の消費動向では、一般家庭において牛乳がお茶やコーヒー等へ入れて消費される割合がわが国と比較にならないほど高いことや、脂肪率タイプ別や容器タイプ別の飲用牛乳の消費動向におけるわが国との差異等も分析・紹介されています。
また、飲用牛乳の小売価格の推移等では、90年代において、飲用牛乳の小売価格の低下が「生産者価格の低下と相互に関連して」推移している背景を、ポンド高も然りながら、94年のMMB解体による規制緩和や「激しい乳業再編」等の面から分析し、近年における酪農家による初めての「経済的自立のための主体的行動」について紹介しています。
一方、酪農乳業の組織に関しては、「MM解体後の生乳供給の組織形態は、どちらが生乳取引のヘゲモニーを取るかという乳業者と生乳生産者の綱引きの中で、依然、合従連衡の様相にある」とわが国の酪農乳業組織が相対的に極めて安定的な状況にあることとの対比を際立たせています。
そして、流動的な状況の中で、飲用牛乳に係る乳業者の動向を、規模やシェア、収益等から分析し、特に、飲用牛乳についての「乳業者のコストと収益」構造を、優秀な工場と平均的な工場について比較分析を掲載しています。
第2章では、英国におけるミルクサプライチェーン論の動向を農漁業食料大臣によって設置された「Milk Task Force 」の「Report」を中心に分析されています。
先ず、90年代の後半のレポートである、「Co-operative Milk Marketing Report」(当センターのホームページで「酪農乳業による牛乳のマーケティング協働戦略」として既に紹介)や「Pooling Resources - Strategy for the Scottish Dairy Industry 2001-2006」から、「ミルク・サプライチェーンのなかににおける酪農家パワーバランスの脆弱性への危機感」と、「英国の酪農乳業が存続し得る条件は、市場での対立的な競争の結果からは獲得し得ないという危機感」が業界で共有されていく状況の中に、「Milk Task Force Report」が生まれる蓋然性を見ています。
次いで、「Milk Task Force Report」において、牛乳乳製品市場の現状と酪農乳業の産業構造の特徴が先ず分析され、今後予測されるミルクチェーンの展開と問題点、それに対する提言を概括しています。
そして、わが国においても、需要の拡大や乳価の引き上げに困難が予想される環境の中では、「酪農乳業の活性化への道筋を見出そうとするとき、サプライチェーン・マネジメントの構築という戦略は、挑戦するに値する選択肢である」として、「机上の空論、海外での出来事として無関心でいられない」問題であるとの認識から、わが国においてミルク・サプライチェーン・マネジメントを構築する際の留意点を、「日本のミルク・サプライチェーンへの示唆」として、わが国の英国との(1)類似性、(2)優位性、そして、優位性の反面として逆にわが国が負うであろう(3)ハードルの3点に纏めています。
わが国の飲用牛乳の流通と価格形成において参考なるものと考えられます。

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