フランスの冷たいデザート その1

連載コラム ミルクの国の食だより

コラム、「ミルクの国の食だより」の第81回をお送りします。今回は夏にうれしい冷たいデザートの話題です。

夏のバカンスモードは今年も変わらず

新型コロナウイルス感染第2波の懸念があるにもかかわらず、フランスは今年も夏のバカンスモードに入りました。
いつも通うパン屋さんやチーズ屋さんが、夏休みの閉店期間を告げる張り紙を出し、毎週立つマルシェの店の数がぐっと減り、普段ならびっしり停まっている路上駐車がこの時期だけは格段に少なくなります。

そんな現象がピークになるのが、8月15日のカトリックの祝日—聖母被昇天祭をはさんだ前後2週間。
偶然ですが、ちょうど日本のお盆の時期と重なります。
  • 暑い夏、涼を求めてリヨン市内の噴水で水浴びをする子供たち

ゼリーは売ってない?

バカンスの居残り組も例年に比べれば多いと思います。
とはいえ、今年も暑いリヨンの夏。
食欲が減退する夏はツルッとのど越しがよいゼリーが食べたくなりますね。

が、残念なことにフランスには冷たいデザートのゼリーは売っていません。
スーパーでも、ケーキ屋さんにも、どこにも売っていないのです。

フランス人の夫に尋ねてみると、果汁などの甘味液をゼラチンで固めたゼリーはそもそもイギリスのデザートなのだそうです。
もとは、肉や魚を煮た後、冷えて煮汁が固まることを利用したのがゼラチン料理の原型なので、コンソメ味のゼリーとか野菜のゼリー寄せなど、フランス人にとっては甘味よりも塩味の料理というイメージが強いようです。

イギリスで普及したゼリー

イギリス帝国の絶頂期といわれたヴィクトリア朝時代(1837‐1901)、裕福な家庭の必需品だった、前菜やデザートに使われる型。

当時は高価な果物やスパイスを使って着色されたカラフルな液体を固めたゼリーは、一種のステイタスシンボルでもありました。
さまざまなデザインの型を組み合わせて複雑な造形に仕立てることもでき、奇抜な見た目から上流階級のテーブルを華やかに演出していました。

イギリスでゼラチン製造に関する最初の特許が付与されたことや、 銅やアルミニウムの金型の導入など、産業革命に伴う技術革新の連鎖によって、料理においてこのようなきらめく作品の表現が可能になりました。
その後、他国よりも早く一般庶民に砂糖が普及したこともあり、イギリス家庭料理の本でゼリーのレシピが登場し、広く普及していったようです。

プルプルとかっちり固まったテクスチャーが特徴のイギリスのゼリー(ちなみにこの食感もフランス人の好みではないようです)に比べ、フランスのデザートは緩い食感のものが多いように感じます。

柔らかい口当たりのフランスのデザート

16~19世紀にかけて、イギリスでは甘いデザートが一般的だった一方、フランスのデザート(アントルメ)は、塩味と甘味の皿が混在していました。

今日私たちが知っている甘いデザートが本当にフランスの料理文化の地位を占めたのは、19世紀以降のことです。

一般家庭で普及した定番デザートといわれる多くのレシピが、牛乳、砂糖、時には卵やクリームで構成されています。
牛乳のたんぱく質が酸で固まることや、クリームが振動や加熱によって固まる性質、卵の牛乳やクリームの凝固を促進する特性や、熱凝固を左右する砂糖の特性が活かされて作られた多様なデザートは、ゼラチンを使わなくても、ある程度固形状の仕上がりになります。

伝統的には型や器から出して食べることを想定していないこともあり、フランスの冷たいデザートは、とろとろとして柔らかい口当たりが特徴なのです。
  • ミルクの成分が豊富なフランスの冷たいデザートはとろっとしたナチュラルでやさしいテクスチャーが特徴
※このテーマは次号に続きます。
管理栄養士 吉野綾美

1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。