【新しい生活様式】家庭で食育実践!親子で学ぶ

新型コロナウイルス関連情報

藤本勇ニ・武庫川女子大学准教授

(3)牛乳が変身したもの何だ?

2020年9月24日 

 多くの人が食文化の大切さを理解し、次世代に伝えていきたいと考えていると思います。しかし、『これが食文化なんだ』と日常生活で実感できる機会がまだ少ない子どもたちにとって、食文化は遠い存在であると思います。そのことが、子どもたちに食文化をテーマとした食育を実践する具体的な手立てを考える上で、より一層の難しさを感じさせる要因です。今回、紹介する「牛乳が変身したもの何だ?」は、子どもたちにとっても身近な乳製品加工の体験や学習を通した理解によって、食文化の知恵をより身近に感じることができる、家庭でも実践可能な食育プログラムの内容になっています。
加工は人類の知恵

 そもそも乳製品とは、牧場で酪農家が育てた乳牛などの乳から絞った生乳(せいにゅう)1)を加工したチーズ、バター、ヨーグルト、クリーム、練乳、アイスクリーム、粉乳、乳酸菌飲料などの総称した言葉です。
 子どもたちは、普段の食生活で身近な乳製品から様々な加工の知恵に出会うことで、食文化に触れる機会をつくりだすことができます。
 生乳や牛乳は、加工することによって「固まる」「粉になる」など形態が変化し、品質の安定化や保存性も高まります。また、乳酸菌などを活用することで栄養機能性を強化することが可能です。こうした特徴を生かして、さまざまな乳製品がつくられ、私たちの生活を豊かにし、いろいろなものに利用されています。私たちの身近にある乳製品を食文化の視点からとらえなおすことで大人も感心することがあるでしょう。

1)生乳を加熱殺菌すると牛乳になります。

  • ステップ1 「牛乳が変身したもの、なあんだ」クイズを解く。

[先生・保護者の方へ]
ヒントをもとに、牛乳から変身した食べ物を考えるクイズです。答えが見つけられない場合には、ヒント2を教えてあげてください。

【ヒント2】
(1)とくに食パンやコッペパンに合います。
(2)熱を加えると、とろ~っとしてお料理によく使われます。
(3)ジャムやハチミツを入れると甘酸っぱいデザートにもなります。
【参考】「牛乳が変身したもの、なあんだ」模擬授業動画

 
  • ステップ2 チーズやバターの加工の工程を調べ、「熟成(じゅくせい)」や「発酵(はっこう)」、「乳酸菌(にゅうさんきん)」という言葉を理解する。

[先生・保護者の方へ]

(1) 牛乳からバターにする
  牛乳からクリームを取り出し、激しくかきまぜて乳脂肪(油分)を集めたものがバターになります。また、途中で脂肪の形や大きさを一定にするエージング(熟成ともよばれている)を行います。

(2) 牛乳からチーズにする
  牛乳に乳酸菌や酵素を入れて発酵させ、水分を抜いてゆっくり熟成させるとチーズになります。(熟成させないチーズもあります。)

【体験チャレンジ!】バターやチーズを作ってみよう!
生乳から乳製品にする工程を体験的に学んでいただくために、バターやチーズを作ってみましょう。
※工場の製造方法とは異なりますが、作り方は下記「親子で牛乳を変身させよう」を参考にしてください。バターは生クリームを使用してください。
  • 牛乳から生まれるいろいろな乳製品(「牛乳・乳製品の知識」より一部抜粋・加工)
「発酵」とは?
 乳酸菌などの力を借りて牛乳の味や成分を別のものに変化させること。「熟成」とは一定時間をかけて成分をならしたり、うまみを引き出したりすること。そうした手を加えることによって牛乳は形や味を変えるだけではなく、保存しやすくもなります。私たち人間が、食生活をより楽しく豊かにするためにいろいろと工夫して知恵を生み出してきたことが分かりますね。
食品加工が食生活を豊かにしてくれる気づき

 このプログラムに登場する「発酵」「乳酸菌」といった言葉は、日常生活でもよく聞く言葉です。テレビのCMやスーパーマーケットの広告等、子どもたちは目にしています。聞いたことはあるけど詳しくは知らないことは、子どもたちの学びの動機づけになります。このプログラムを通して、「なるほどそういうことか」「そういう意味だったんだ」という実感のある学びにすることができます。さらに、興味をもったことを調べていくと、こうした食品加工が私たちの食生活を豊かにしてくれていることに気付かされるでしょう。
  • ステップ3 発酵させると良い点について考える。また「腐敗」との違いを考える。
 ※発酵と腐敗は、同じ現象であることを確認する。

[先生・保護者の方へ]
 例えば牛乳を発酵させてつくるチーズを例に、牛乳と比べてどのような良い点があるか考えてみるとよいでしょう。
・保存しやすくなる
・運びやすくなる(液体→固形)
・運びやすくなる(容量が小さくなる) など
私たち人間が、食生活をより楽しく豊かにするためにいろいろと工夫して知恵を生み出してきたことが分かります。
 ※発酵と腐敗:腐敗も発酵もどちらも菌のはたらき。人間にとって有益なものであれば発酵、有害なものであれば腐敗となります。

  • ステップ4 ワークシートをもとに、牛乳が変身した食べ物をもっと考える。
[先生・保護者の方へ]
さらなる学びの深まり、広がりに

学習ステップの最後では、乳製品で興味を持った食品加工と食生活のかかわりから、他の身近な食品に目を向けさせ、さらなる探究をしてみましょう。「探究の手立て」を二つ例示してみましたので参考にしてください。
  • ステップ5 
大豆や米、小麦が変身した食べ物を台所にある食品パッケージの表示やインターネットなどを活用して調べる。

【A  コウジ菌の働きをみつけよう】
4月から小学校で全面実施された学習指導要領では、家庭科において和食が明確に指導内容となっています。「米飯とみそ汁が我が国の伝統的な日常食であること」「みそは、大豆の加工品であり、調味料として日本人には古くから親しまれている食品」「和食の基本となるだしについては、煮干しや昆布、かつお節など様々な材料からだしをとることについて触れ、みそ汁にだしを使うことで風味が増すことを理解」といった記述が学習指導要領にはあります。
大豆が形を変えた食品を見つけることから始めます。味噌、醤油、もやし、きな粉、納豆、豆腐、おからなど身近にある食品をどんどん見つけていきます。出てきた食品を二つに仲間分けできることを伝えます。子どもたちからは、色や形などの違いに関心が向くでしょう。コウジ菌の働きでできるものとそうでないものに分けられることが分かるでしょう。そこからコウジ菌の働き歴史や種類、菌を使った食品の作り方などを調べる活動につなげます。

【B 発酵食品をさがそう】
みそのように「うまく腐らせて役立つ」例を台所や買い物先のスーパーマーケットで発酵食品をみつけます。「醤油」に「味噌」「チーズ」「日本酒」「ワイン」「漬物」「納豆」。古くから人間の知恵によってこうした食品が作られ、食生活を豊かにしてきたことに気付かせます。最後に自然の中では木の葉などは長い時間をかけて、ゆっくりと分解し腐って土になります。この自然の働きを活かして短い時間に発酵させるのが堆肥作りであることを取り上げて微生物の働きに目を向けるようにします。

・対象学年:保護者と一緒に調べるなら小学校低学年から
 子どもが調べることを、保護者が見守るなら小学校5・6年
 子どもが一人で調べるなら中学生以上

・学習活動のねらい:牛乳の加工食品のよさについて考えることで、加工食品の知恵を理解する。

・関連する学習:小学校3年生 国語 「姿を変える大豆」
 小学校5・6年生 家庭「ごはんとみそ汁」

(2)「醍醐味」の「醍醐」とはなに?

2020年6月19日 
  •     牛乳の歴史から日本の歴史や言葉の探究へ
 このプログラムは、牛乳の歴史を通して、日本の歴史をより身近に感じることができるようになっています。ホームページ上にある「牛乳丸とミルちゃんのミルク学習教室」の動画なども一緒に視聴すると、「へー」「そうだったのか」と、大人でも感心することがあるでしょう。
 保護者の皆さんは、子どもが感じたことや興味を持ったことをぜひ、聞いてあげてください。そして「どうして興味を持ったの?」と子どもに問いかけると、それを足場に自分の関心事を深めていくことが、主体的に学ぶ姿勢にもつながります。
 また、子どもは少し背伸びをして知識を獲得することを楽しみます。「醍醐味」と聞いても、すぐには意味が分からないでしょう。しかしその言葉の成り立ちを国語辞典やインターネット検索などで調べて知ると、言葉への関心を自然に高めてくれます。
  •     子どもの学びが深まる、広がる
 「醍醐味」についての学習で興味・関心が広がった食と言葉のつながりを、さらに探究する学習にもチャレンジしてみてください。学習ステップの巻末に書いてある「さらなる探究をしてみましょう」では「探究の手立て」を二つ例示してみましたので、参考にしてください。
 一つめは、たくさんある食べ物の名前が含まれている言葉の由来を調べる活動です。国語辞典を丹念に探すと、多くの慣用句にいろいろな食べ物の名前が使われていることに気づくでしょう。「手前みそ」や「手塩にかける」など、食べものの名前が入った言葉を見つけたら、醍醐味の例があるので、その成り立ちや由来を調べたくなります。知るたびに言葉への関心を高めていくでしょう。もし見つけられないようなら、台所で見つけた食べ物をヒントに、辞書で引くようサポートしてあげるとよいでしょう。
 また、国語から社会科へ学びを広げる可能性もあります。「敵に塩を送る」といった言葉からは日本の歴史への関心を高めるでしょう。「サラリーマン」のサラリー(salary)はラテン語のサラーリウム(salarium)に由来し、このsalariumの語源はsalすなわち「塩」であることを知ることになれば、世界の歴史まで関心を高めていくでしょう。食べ物の名前が含まれている言葉には、そんな力があるのです。
 二つめでそれぞれの時代の日本人の食生活の特徴を調べると、日本の歴史がぐっと自分と近づき、歴史が実感のあるものになります。ご家庭でも子どもに実践してみてください。

・対象学年:保護者と一緒に調べるなら小学校3・4年
 子どもが調べることを、保護者が見守るなら小学校5・6年
 子どもが一人で調べるなら中学生以上

・学習活動のねらい:日本における牛乳の歴史を知り、「醍醐」を例に、言葉の成り立ちに関心を持つ

・関連する学習:小学校6年生 社会「日本の歴史(奈良時代、明治維新、戦後の復興)」
 小学校4年生~ 国語「国語辞典の使い方」
【家庭での学習ステップ】
  •     ステップ1 牛乳の歴史を視聴する。 [先生・保護者の方へ]

動画を視聴しながら「初めて知ったこと」「面白いと思ったこと」などについて、子どもと一緒に話し合うようにします。
牛乳の歴史 https://www.j-milk.jp/tool/hn0mvm0000003z5n.html
  •     ステップ2 「戦後の復興の様子」「文明開化」「奈良時代の人々のくらし」について調べる。
[先生・保護者の方へ]いずれも6年生社会科の内容です。三つの内容から興味を持ったものを教科書や資料集、インターネットなどを使って調べるようにします。どうして興味を持ったのかも聞いてあげるようにしてください。
  • ステップ3 「醍醐」の成り立ちを知る。
[先生・保護者の方へ]
 「醍醐」という言葉をステップ1の動画視聴以外でも知っていたかを聞いてみてください。
以下のサイトの補助教材のイラスト(ア)(イ)や指導案の教師の問いかけを参考に「醍醐」の言葉の成り立ちを知って、「醍醐味」のいろいろな使い方を考えてみましょう。
 給食献立から文化・言葉を考える https://www.j-milk.jp/tool/hn0mvm0000007m7w.html
  • *醍醐味とは「物事の本当の面白さ」「深い味わい」を表現する言葉です。
  • ステップ4 食べ物の名前が含まれている言葉を探す。
[先生・保護者の方へ]
子どもに国語辞典や教科書の中から食べ物の言葉(「手前みそ」や「手塩にかける」など)を探すよう促します。
  • さらなる探究をしてみましょう
A  ステップ4で見つけた食べ物の名前が含まれている言葉の由来を調べる
B 日本人は何を食べてきたかを調べる
[先生・保護者の方へ]
米、小麦、魚、肉、牛乳、芋など身近な食べ物がどのように食べられていたか調べてみてもよいでしょう。

(1) オリジナルみそ汁に挑戦!

2020年6月12日

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う3月の休校から、ようやく全国的に児童・生徒が学校へ登校する日常が戻ってきました。しかし、学校に子どもが登校できない日々が続いたことで、心のケアや授業時数確保などの問題にどう対応していくかが学校現場の大きな課題です。
 また、新しい生活様式のなかで感染防止に配慮することも必要で、食育の学習活動に十分な時間を割くことが難しくなってくる学校もあるかもしれません。今後、学校と家庭が連携して子どもの食育を推進していくための工夫が必要になってくることでしょう。
 そこで、武庫川女子大学准教授の藤本勇二先生に学校の食育活動を家庭で楽しみながら実践できるアイデアをお寄せいただきました。

「オリジナルみそ汁に挑戦!」
  • “ミルクみそ汁”作りから親子で健康を学ぶ
  子どもと一緒にみそ汁を作りませんか。みそ汁は、小学校の家庭科の教材にも取り上げられているように、子どもにとって、比較的ハードルの低い調理です。家庭科の教科書を参考にして作ることもできますが、様々な学習の目的にあわせて「みそ汁」づくりを工夫することもできます。
 その工夫の一つとして、牛乳を使った減塩みそ汁を作ってみましょう。そうすると、家庭科だけでなく、保健の学習にもつながります。健康な生活を送るための食生活について親子で学ぶことができます。こうした調理の際は、できるだけ子どもに任せることが大切です。危なっかしくても、食材の無駄が多少出ても、明日からの暮らしを自分で作っていくその一歩を見守ってあげてください。食材の無駄が出た場合は、保護者が別の料理で使用するなどして工夫するとよいでしょう。
  • より良い暮らしを“みそ汁”から子どもが探究
 本プログラムには、自らが「学び」「考える」といった子どもに求められている探究型の学習を家庭で実践できるヒントがあります。プログラムの最後で、住んでいる地域の食材や旬の食材を子どもと一緒に考えることで、社会科の内容も学ぶことができます。また、「探究の手立て」として、二つの手立てを用意しました。みそ汁を作る活動を通して学んだ、地域や旬の食材のよさを生かして「地域の食材を活かした料理を調べる」「旬の食材のよさを調べる」では、環境に配慮した生活の工夫やSDGs(国連の「持続可能な開発目標」)についても発展させていくことができます。子どもが自分の生活を振り返ったり、学んだこと、よりよい生活を送るためにどうしたらよいと考えたのかなど、家族や友達と話したり、ノートにまとめたりするとよいでしょう。

・対象学年:保護者と一緒に作るなら小学校低学年
 子どもが作るのを保護者が見守るなら小学校高学年
 子どもが一人で作るなら中学生以上

・学習活動のねらい:減塩みそ汁を作ったり、みそ汁の具を工夫したりすることを通して、牛乳や和食・食材の良さを理解する。

・関連する学習
 小学校5・6年生 家庭「ご飯とみそ汁」
 小学校5・6年生 保健「病気の予防」
 中学校 保健「健康な生活と疾病の予防」
 【家庭での学習ステップ】

  ・    ステップ1 「家庭科の教科書でみそ汁の作り方を知る」
    [先生・保護者の方へ]
    家庭科の教科書を読んで、みそ汁作りのポイントを子どもに聞くようにします。
    ※低学年などで家庭科の教科書が手元にない場合は、子どもとインターネット「みそ汁の作り方」を調べます。

  ・    ステップ2 「みそ汁を作る」
    [先生・保護者の方へ]
    子どもが準備や調理できることは、学年によってできるだけ見守りながら子どもにやらせてあげてください。
    ※ただし、包丁や火の扱いについては十分にご注意ください。

  ・    ステップ3 「日本人の適切な塩分量を知る」
    [先生・保護者の方へ]
    子どもとインターネットや「保健」の教科書を使って、1日の食塩摂取量を調べてみましょう。
    参考:「日本人の食事摂取基準2020年版」(厚生労働省)
・    ステップ4 「乳和食で減塩みそ汁を作る」
    [先生・保護者の方へ]
    まず、牛乳を使用した「乳和食」の減塩みそ汁を、「乳和食」ウェブサイトで子どもと一緒に調理動画を視聴します。2回目のみそ汁作りですから、子どもに任せることを増やしていきます。
    https://www.j-milk.jp/recipes/recipe/hn0mvm0000002f99.html
・    ステップ5 「地域の食材や旬の食材を入れた乳和食の減塩みそ汁を作る」
    [先生・保護者の方へ]
    子どもに減塩みそ汁に入れる具材を地域の食材や旬の食材で考えてもらうようにします。スーパーの食品売り場(*)をヒントにしたり、インターネットで調べたりして探します。
    *スーパーマーケットへ子どもが出向くことは、状況をよく判断して行いましょう。無理をせず、インターネットなど代替の手段を選びましょう。

  ・     さらなる探究をしてみましょう。
    A 地域の食材を生かした料理を調べる
    B 旬の食材の良さを調べる