牛乳と腸内環境
-おなかゴロゴロは腸活のしるし?悪者扱いされがちな乳糖の健康効果に迫る!-

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【2025年度 全国栄養士大会】 
東京農業大学 生命科学部 分子微生物学科 教授
戸塚 護

本レポートは、2025年10月16日~12月21日まで(公社)日本栄養士会が開催した2025年度全国栄養士大会・オンラインにて、Jミルクが協賛したセミナーの内容をまとめたものとなります。

牛乳に含まれる乳糖は、乳糖不耐の原因として悪者扱いされることが少なくありません。
しかし近年、乳糖には大腸で腸内細菌のエサとなる「プレバイオティクス」としての働きがあり、腸内環境の改善を介して、全身の健康づくりに寄与することがわかってきました。
乳糖と腸内細菌、疾患との関係、さらに乳糖不耐の多い日本人だからこそ享受できる牛乳乳製品摂取のメリットなど、最新の知見を交えて解説します。

ヒトと乳糖の関係─乳糖とは、
「ラクターゼ非持続性(LNP)」とは

乳糖(ラクトース)は、グルコース(ブドウ糖)とガラクトースという2つの単糖が結合した二糖類です 図1 。
結合部分はβ-1,4結合と呼ばれる形で、ヒトの小腸で分解できるのはラクターゼという特定の酵素に限られます。
乳糖は、一部海棲哺乳類を除く多くの哺乳類の乳に含まれています。
牛乳には約5%、人の母乳にはさらに多く(約7%)の乳糖が含まれています。

乳糖の役割
栄養学的特性:
乳糖は、乳児期の重要なエネルギー源です。また、腸内で乳糖を利用する細菌の増殖を促します。
後ほど詳しく説明しますが、乳糖が分解されて有機酸が産生されると腸内のpHが低下し、それによってカルシウムの吸収が促進されます。さらに、整腸作用ももたらします。

食品学的特性:乳糖は、ヨーグルトやチーズの製造に不可欠な成分です。微生物が乳糖を利用して増殖することで発酵が進み、ヨーグルトやチーズが作られます。
また、乳糖は加工食品や医薬品にも広く利用されています。

「ラクターゼ非持続性」と「ラクターゼ持続性」
多くの哺乳類は、乳児期以外には乳糖を摂取しません。そのため、乳糖分解酵素ラクターゼの産生は遺伝的に制御されており、通常、離乳期以降に減少します。
人類においても、離乳後、成長に伴ってラクターゼの産生が低下する「ラクターゼ非持続性(LNP)」は自然な形質であり、世界の成人の約3分の2が該当します。

一方で、人類は大人になっても牛乳や乳製品を介して乳糖を摂取するようになりました。
こうした食習慣のもとで、離乳後も十分量のラクターゼ産生が持続する遺伝的形質が広がり、現在では世界の成人の約3分の1が「ラクターゼ持続性(LP)」を有するとされています。
ラクターゼ非持続性(LNP)の比率は、地域(民族)によって大きく異なります 図2
東アジアやアフリカの一部では高頻度でみられるのに対し、北ヨーロッパでは低いことが知られています。

腸と乳糖の関係─
①乳糖不耐の症状としくみ

乳糖不耐とは、牛乳を飲んだ後に腹部膨満感や下痢などの症状が生じる状態を指します。
ラクターゼが産生されている乳児や成人では、乳糖は小腸内でラクターゼによってガラクトースとグルコースに分解され、吸収されます。
一方、ラクターゼ非持続性(LNP)の成人では、乳糖は小腸で分解されず、そのまま大腸へ移動します。大腸に到達した乳糖は浸透圧を上昇させるため、水分が腸管内に引き込まれ、その結果、下痢が起こります。

さらに、大腸には多くの腸内細菌が存在しており、乳糖はこれらによって分解・発酵されます 図3
その過程で、水素、メタン、二酸化炭素などのガスが産生され、腹部膨満感を引き起こします。また、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)も生成されます。短鎖脂肪酸は健康維持に有用な働きをする一方で、腸を刺激して腹痛の原因となることもあります。
おなかゴロゴロの原因は乳糖不耐だけではない
なお、牛乳を飲んで不快症状が起こったからといって、必ずしも乳糖不耐とは限りません 図4
正確な原因を特定するためには医師の診断を受けることが重要です。

腸と乳糖の関係─
②乳糖のプレバイオティクス機能

日本人の95%以上はラクターゼ非持続性(LNP)であり、理論上は乳糖不耐症状が生じやすいと考えられます。
しかし、実際には、乳糖不耐症状を示す人はそれほど多くないとされています。

このギャップを説明するカギとなるのが腸内細菌です。日本人の腸内は、他国の人々と比較してビフィズス菌の存在比率が高いことが知られています。
近年、ビフィズス菌の存在比と乳製品摂取量との間に正の相関が認められたことから、低ラクターゼ活性を示す遺伝子型がこの現象に関与している可能性が指摘されています1)

つまり、ラクターゼ非持続性(LNP)の人では、小腸で十分に分解されなかった乳糖が大腸へ届きます。
この乳糖が腸内細菌叢に影響を与え、結果として乳糖を利用する菌が増え、乳糖不耐の症状が起こりにくくなっているのではないかということです。
乳製品の摂取量が多いほどビフィズス菌の割合が増えるという報告は、乳糖がプレバイオティクスとして機能している可能性を示唆しています。
プロバイオティクス
ここで「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」について整理します。両者はいずれも腸内細菌叢のバランスを改善し、宿主に有益な作用をもたらすという点で共通しています。
プロバイオティクスは、ヨーグルトに含まれるビフィズス菌や乳酸菌に代表されるように、生きた微生物そのものを摂取するものです。
一方、プレバイオティクスは菌そのものではなく、腸内細菌の栄養源となる食品成分です。代表例は難消化性オリゴ糖や食物繊維ですが、牛乳に含まれる乳糖もプレバイオティクスとして働く可能性があります。
プレバイオティクスは 腸内細菌のエサとなって有益菌の増殖を促すことで、腸内環境を介したさまざまな健康効果が期待されます 図5

腸内細菌叢と健康─
①腸内細菌の重要性と健康への影響

ヒトの腸内には約1000種類の常在細菌が存在し、その総数はヒトの細胞数(約37兆個)を上回る約40兆個とれています。重さにして1~1.5kgにもなります。
腸内細菌は善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3つに分類して説明されることが多いですが、実際には多様な種類がさまざまな働きを担っています。腸内細菌叢のバランスは、食事やストレス、体調などによって変化するため、健康維持のためには善玉菌が悪玉菌より優勢であること、多様性が保たれていることがきわめて重要です。

腸内細菌叢の乱れが与える悪影響
腸内細菌叢のバランスが崩れ、多様性が低下した状態を「ディスバイオシス」と呼びます。ディスバイオシスは、炎症性腸疾患、動脈硬化、肥満、免疫異常などの発症に関与すると考えられています。
さらに近年では、自閉症やうつなどの神経疾患との関連も示唆されています。

加齢に伴う腸内細菌叢の変化
腸内細菌叢は加齢によっても変化します 図6 。
出生直後は大腸菌や腸球菌が増加しますが、乳児期には母乳に含まれるビフィズス菌増殖因子(ヒトミルクオリゴ糖など)の作用により、ビフィズス菌が優勢になります。
その後、離乳期以降はバクテロイデス属などが優勢となり、青年期まで比較的安定します。そして老年期になるとビフィズス菌が減 少し、ウェルシュ菌などの悪玉菌が増加する傾向がみられ、腸内バランスが崩れやすくなります。

腸内細菌叢と健康─
②腸内細菌叢と疾患の関係、牛乳乳製品にできること

腸内細菌叢は全身の健康と密接に関係していることが明らかになっています 図7
一方、牛乳乳製品は腸内環境の改善を介して健康維持に寄与する可能性が示唆されています。ここからは、腸内細菌叢と疾患、さらに牛乳乳製品との関係について解説します。

肥満と腸内細菌

肥満や2型糖尿病と腸内細菌叢は密接に関係しています。

肥満と痩せで異なる腸内細菌叢
腸内細菌をもたない無菌マウスにヒトの腸内細菌叢を移植した実験において、肥満の人に特徴的な腸内細菌叢(いわゆる「肥満フローラ」)を移植したマウスでは、約1ヶ月後に脂肪量が約20%増加しました。
一方、やせている人に特徴的な腸内細菌叢を移植したマウスでは、脂肪量の増加はみられませんでした。与えたエサの量は同じで両群の違いは腸内細菌叢のみであり、この結果から腸内細菌叢が肥満の形成に関与することが示されました2)

短鎖脂肪酸と肥満抑制
短鎖脂肪酸は、難消化性炭水化物が腸内細菌により発酵されて産生される酢酸・プロピオン酸・酪酸などの総称です。
短鎖脂肪酸には、代謝を高めて脂肪の蓄積を抑制する働きがあります。さらに、腸内環境の改善、腸管バリア機能の向上、抗炎症作用、免疫機能の正常化など、健康維持に非常に有用であることが明らかになっています。

話題の「やせ菌」
近年、「やせ菌」として注目されているAkkermansia muciniphila(アッカーマンシア・ムシニフィラ)は、正常体重者と比較して肥満者や2型糖尿病患者では存在量が少ないことが知られています。この菌の投与により肥満や2型糖尿病が改善する可能性が、動物試験やヒト試験で報告されています。
牛乳をサルコペニア肥満モデルマウスに8週間投与した試験では、腸内のアッカーマンシア菌が増加し、体重減少(肥満の改善)が確認されました3)

2型糖尿病と腸内細菌叢、牛乳乳製品摂取との関係
先行研究では、牛乳乳製品の摂取量が多いほど体脂肪率が低く、2型糖尿病のリスクが低いことが報告されています4)
さらに近年、ラクターゼ非持続性(LNP)の人では、牛乳の摂取がビフィズス菌の増加など腸内細菌叢の好ましい変化と関連することが示されています。糖尿病リスクに関連する血中代謝物(インドールプロピオネートなど)や、血圧・血糖・コレステロールなどの指標についても、牛乳摂取との好ましい関連が報告されています 図8 。

フレイル/サルコペニアと腸内細菌

加齢に伴う骨格筋量の低下により、筋力や身体機能が低下した状態をサルコペニアといい、転倒や骨折のリスク増加につながります。フレイル(高齢による衰弱)も、加齢とともに増加し、要介護状態のリスクを高めます。
フレイル/サルコペニアの予防のためには、高齢期においても骨格筋量を維持することが重要です。

筋機能と腸内細菌叢
筋機能と腸内細菌叢は密接に関連しています(筋腸相関)。腸内細菌叢が乱れると悪玉菌由来のLPS(エンドトキシン)や腸内腐敗産物が血中へ侵入し、筋機能の低下や筋萎縮を促進すると考えられています。
健康長寿地域として知られ、サルコペニアが少ない京丹後市の高齢者を対象とした研究では、ファーミキューテス門、中でも酪酸産生菌が多いことが示されました 図9
酪酸産生菌の豊富さがサルコペニアの少なさと関連する可能性があります。
また別の研究では、男性サルコペニア患者において特定の腸内細菌属の減少が認められ、特に酪酸産生菌の占有率が、骨格筋量、握力、歩行速度といった筋機能と正の相関を示すことが確認されました5)
フレイル/サルコペニアと牛乳乳製品摂取との関係
たんぱく質やカルシウムが豊富な牛乳は、筋肉や骨量の維持に貢献する食品です。腸内細菌との関連を調べた研究ではありませんが、日本の高齢者を対象にした研究において、牛乳乳製品を習慣的に摂取する人はサルコペニアが少なく、多様な食品摂取を心がける人はフレイルが少ないことが報告されています6)

循環器疾患と腸内細菌

高血圧、心疾患、脳血管疾患などの循環器系疾患は、日本で最も患者数が多い疾患群です。日本人の主な死因でも、第1位のがん(悪性新生物)に次いで心疾患が第2位、脳血管疾患が第4位を占めています。
循環器系疾患と腸内細菌との関係において注目されているのが、腸内細菌の代謝産物であるTMA(トリメチルアミン)とTMAO(トリメチルアミン-N-オキシド)です。食品由来のコリンやL-カルニチンが腸内細菌によってTMAに変換され、さらに肝臓で代謝されてTMAOとなることで、動脈硬化や高血圧のリスクが高まることが知られています。このことから、腸内細菌は循環器系疾患の発症や進展に大きく関与していると考えられています。

循環器疾患と牛乳乳製品摂取との関係
世界各国の研究を統合した解析結果において、牛乳乳製品の摂取は虚血性心疾患に対しては中立的、あるいはやや予防的に働くとされています7)
また、東アジア人では脳卒中に対して予防的に作用する可能性が示されています8)
さらに、日本人男性では、牛乳乳製品の摂取が全死亡リスクおよび心血管疾患死亡リスクの低下と関連することも報告されています9)
これらの研究では腸内細菌の影響は直接評価されていませんが、それでも牛乳乳製品の摂取が循環器系疾患のリスク低下につながる可能性があることを示しています。

認知症と腸内細菌

厚生労働省の調査によれば、2022年時点における日本の65歳以上高齢者の認知症および軽度認知障害(MCI)有病率は約3割と推計されており、高齢化のさらなる進展に伴い、今後も患者数の増加が予測されています。
脳機能と腸内環境には「脳腸相関」と呼ばれる相互に密接な関係があり、認知症の発症に腸内細菌叢が強く影響することがわかっています。
MCIのリスク因子を解析した研究では、「高年齢」「ApoE遺伝子保因」「バクテロイデス属優勢な腸内細菌叢」がいずれもリスク上昇と有意に関連することが示されており、腸内細菌叢の構成も関連要因の一つとして注目されています10)

認知症と牛乳乳製品摂取との関係
牛乳乳製品摂取と認知機能低下・認知症発症リスクの関連をメタ解析したシステマティックレビュー11)によると、地域差はあるものの、牛乳乳製品摂取と認知症発症リスクとの間には負の関係が認められています。
特にアジアでは、摂取量および摂取頻度が多いほど、認知機能低下や認知症発症リスクが低いことが報告されています。

肌荒れ・皮膚トラブルと牛乳・腸内環境

牛乳には、ビタミンA、ビタミンB2、カルシウムなど、皮膚の健康維持に重要な栄養素が豊富に含まれています。ビタミンAは皮膚や粘膜の表皮細胞を正常に保ち、ビタミンB2はたんぱく質・脂質・糖質の代謝に関与し、健康な皮膚・毛髪・爪の形成を助けます。
吹き出物や皮膚炎の予防にも役立つとされています。カルシウムはストレス関連の肌荒れ予防効果が期待されています。
さらに、乳糖が腸内の善玉菌の栄養源となって腸内細菌のバランスを改善した結果、便秘の改善を通じて、肌荒れ予防に寄与する可能性があります。

乳糖不耐は改善できる可能性あり
取り入れやすい牛乳の飲み方の工夫

乳糖不耐の場合でも、食物アレルギーとは異なり、牛乳であれば最大250mL(乳糖12g)程度までは無症状で摂取可能な例が多いと報告されています12)。また、以下のような摂取の仕方の工夫によって、乳糖不耐症状の軽減・改善の可能性があることも近年の研究で示されています。
  1. プレバイオティクスの活用……プレバイオティクス(ガラクトオリゴ糖)の定期摂取により腹痛の改善がみられ、ビフィズス菌の増加と腹痛との間に負の相関が認められたとの報告があります13)
  2. プロバイオティクスの活用……システマティックレビューにおいて、エビデンスの質に課題はあるものの、乳糖不耐の改善におおむね肯定的な結果が示されています14)
  3. 徐々に慣らす……日本人を対象とした研究では、牛乳摂取を少量から徐々に増やすことで症状の緩和が認められたと報告されています15)

以上のことから、ラクターゼ非持続性(LNP)で乳糖不耐を伴う人であっても、少量の牛乳乳製品を摂取することは、総合的に判断してデメリットよりもメリットのほうが大きいとする論文もあります16)

乳糖不耐の方への工夫
最後に、「牛乳でおなかがゴロゴロする」という人も取り入れやすい、牛乳乳製品の摂取方法の工夫について紹介します 図10 。
自分に合った方法で、無理なく食生活に牛乳習慣を取り入れていきましょう。
  1) PLOS ONE. 2018;13(10):e0206189.
  2) Science. 2013;341(6150):1241214.
  3) J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023;14(3):1395-1409.
  4) BMJ Open Diabetes Res Care. 2020;8(1):e000826.
  5) Nutrients. 2025;17(10):1746.
  6) 成田美紀.ジャパンミルクコングレス2019(口頭発表).2019.
  7) Asia Pac J Clin Nutr. 2015;24(1):90-100.
  8) J Am Heart Assoc. 2016;5:e002787.
  9) Eur J Nutr. 2023;62(5):2087-2104.
10) Sci Rep. 2019;9(1):19227.
11) Adv Nutr. 2024;15(1):100160.
12) Ann Intern Med. 2010;152(12):797-803.
13) Nutr J. 2013:12:160.
14) Crit Rev Food Sci Nutr. 2019;59(11):1675-1683.
15) World J Clin Cases. 2023;11(4):797-808.
16) Asia Pac J Clin Nutr. 2015:24 Suppl 1:S1-8.
戸塚 護   東京農業大学 生命科学部 分子微生物学科 教授
1988年東京大学農学部農芸化学科卒業。
1990年同大学院農学系研究科農芸化学専攻修士課程を修了した後、東京大学農学部助手、同客員准教授、准教授、2017年日本獣医生命科学大学教授を経て、2022年より現職。2009年から2年間文部科学省学術調査官を兼任。
学位:博士(農学)。専門は「食品機能学・食品免疫学」。
食品の生理調節機能に関する研究、特に食・腸内細菌・免疫応答の関係の解明を目指して研究を行っている。
所属学会は日本農芸化学会(代議員)、日本食品免疫学会(幹事)、日本栄養・食糧学会(代議員)、腸内細菌学会(前理事)、日本動物細胞工学会(評議員)、日本免疫学会。(一社)Jミルク 乳の学術連合牛乳乳製品健康科学会議幹事、(一社)日本乳業協会理事。2015年日本食品免疫学会賞受賞。
近著に「食品免疫学のプロが書いたウイルスに負けない最高の食事術」(扶桑社、2021年)。

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