第25回 どれを食べる?-いろいろなヨーグルト-1

ミルクの国の食だより 連載一覧

コラム、「ミルクの国の食だより」の第25回をお送りします。
ヨーグルトはフランスでも人気ですが注目され始めたのは19世紀末になってから。意外と歴史は浅く、最初は医薬品として売られていました。

長いヨーロッパの冬が終わり、太陽が燦々と降り注ぐ清々しい季節がやってきました。
春から初夏にかけてのこの時期、人々を悩ますのが花粉症。白樺やプラタナスなど、日本とは花粉の種類は違えど、フランスにも同様の症状が存在します。
現在、様々なアレルギーが存在する中、花粉症はフランスでワースト2に位置するそう。
日本では花粉症対策のために、腸内の免疫バランスを調整する働きがあるヨーグルトの摂取を心がけている人もいると思います。
フランス人もそうかは定かではありませんが、多くのフランス人は「ヨーグルトは健康によい」というイメージをもっているようです。
■新緑の中、屋外で過ごす時間が心地よい季節。一方で日本同様に花粉症に悩む人も多い
(カルノ広場のプラタナスの木)

90%の人がポジティブなイメージをもっている

ヨーグルトに関するイメージ調査(*1)では、
ヨーグルトは
  • 利便性の高い食品
  • 様々な味が楽しめ、バラエティーに富んでいる
  • 現在のライフスタイルに適している
  • 健康によい
  • 本当に美味しい
というポジティブな印象を約90%の人が抱いています。
ほかにも、ヨーグルトは、なくてはならない食品、毎日食べるのは必須、トレンディな食品などのイメージがあるようです。
一人当たり年間15kgと、日本の1.5倍以上のヨーグルトを消費するフランス(*2)。生産量もドイツに次いでヨーロッパ第2位を誇ります。
チーズの国として知られるフランスですが、実はヨーグルトの国でもあるのです。

最初は医薬品として販売

フランスに初めてヨーグルトの前身なるものがもたらされたのは16世紀。メディチ家のカトリーヌを輿入れさせ、ダヴィンチをかわいがり、フランス・ルネサンスの父と呼ばれたフランソワ一世の御代。
→詳細はこちら「ミルクの国の食だより 第10回 美食の町-リヨンの歴史1-」
この時代の王侯貴族は、肉を多く食べて野菜を嫌っていたので、腸の病気が多かったとか。腸の病気にかかっていたフランソワ一世。そして適切な治療法を見出せずにいた医師たち。
心配した王の母は、当時オスマン帝国でその驚異的な効能が話題になっていた羊の発酵乳の噂を耳にし、その奇跡の飲物を作る医者を呼び寄せました。食べ始めてから数週間で王の病気は完治。しかし、医師は製法を極秘のうちに帰国の途に着いたといいます。
残念ながら、その後のヨーグルトについての記録は途絶えており、ヨーロッパではむしろチーズ作りのほうが盛んだったようです。
再びヨーグルトがヨーロッパで注目されるようになったのは、19世紀末になってからのこと。
発酵乳をたくさん食べるブルガリアの農民がとても長生きだ、という事実に注目し、発酵乳の健康効果を唱えたのが、パスツール研究所のロシア人科学者メチニコフ。
その後、このブルガリア発祥の発酵乳をパリのパスツール研究所で検証後、オスマン帝国出身の医師カラッソが、ヨーグルト生産の工業化を成し遂げました。
当時まだ西欧には普及していなかったため、当初はヨーグルトを薬局を通じて医薬品として販売していたそうです。
以降、ヨーグルトはフランスを筆頭に西欧で急速に広まることとなったのです。
■フランスでも健康によいイメージが定着しているヨーグルト。19世紀末には医薬品として販売されていた
(*1)Pouvoir d'achat et nutrition : Observatoire des perceptions et des comportements alimentaires des Français" - Octobre 2008より抜粋
(*2) l'economie laitière en chiffres édition 2014より計算
日本の一人あたりのヨーグルト消費量は約9.5リットル/2014年。(JミルクHP「データベース」より試算)
※このテーマは次回に続きます。お楽しみに。
管理栄養士 吉野綾美
1999年より乳業団体に所属し、食育授業や料理講習会での講師、消費者相談業務、牛乳・乳製品に関する記事執筆等に従事。中でも学校での食育授業の先駆けとして初期より立ち上げ、長年講師として活躍。2011年退職後渡仏、現在フランス第二の都市リヨン市に夫、息子と暮らす。