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高品質を支える日本の酪農家

生乳は牛や人間にとって栄養豊かな食品ですが、それは同時に微生物の増殖にも好条件となります。
良い生乳を出荷するためには、乳牛の品種改良や飼育環境、餌の内容、健康管理などの他に、生乳の栄養成分内容や鮮度維持なども欠くことのできない条件です。そのため、酪農家は搾乳から貯乳・出荷までの衛生管理や温度管理を厳しく行っています。
現在の酪農家は、一戸あたりの平均飼育頭数が79頭を超え(2016年)、多くは生乳生産のみを行う専業の酪農家として品質の良い生乳を生産しています。全国の酪農家戸数は約1万7,000戸であり(2016年)、地域や飼育環境などにより飼育方法に特徴があります。

地域環境と飼育方法

草地型酪農

北海道のように広大な牧草専用地や放牧地を持ち、牧草など粗飼料のほとんどを自給しえる酪農です[図1-13]。
図1-13 | 草地型酪農
草地型酪農
出典:一般社団法人 中央酪農会議

中山間地型酪農

平野周辺部から山間地にいたる中山間地域で行う酪農です。日本は中山間地域が国土面積の約7割を占め、平地と比較して傾斜がきついなど他の農業では生産効率が悪く、耕作放棄された農地が多くありますが、これを酪農生産で利用することで環境保全としての役割もあります[図1-14]。
図1-14 | 中山間地型酪農
中山間地型酪農
出典:一般社団法人 中央酪農会議

都市近郊型酪農

消費地に近い都市近郊で行う酪農です。住宅などで囲まれている地域などの場合は地価が高く、農地も少ないため、草など粗飼料の栽培は少なく、濃厚飼料への依存が多くなります。一方で、都市近郊の酪農地だからこそ、消費地に近い牛乳工場への出荷の便が良いなどの利点があります[図1-15]。
図1-15 | 都市近郊型酪農
都市近郊型酪農
出典:公益社団法人 中央畜産会
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「食やしごと、いのちの大切さ」を学ぶ酪農教育ファーム活動
出典:一般社団法人 中央酪農会議

酪農教育ファーム活動とは、牧場を教育の場として活用し、子どもたちに「食やしごと、いのちの大切さ」を学ばせたいという学校の先生の思いと酪農について知ってもらいたいという酪農家の思いが一致して誕生した活動です。
酪農教育ファーム推進委員会(事務局:一般社団法人中央酪農会議)から認証を受けた酪農家等が、子どもたちが安心して活動できるように安全や衛生に留意しながら、情熱をもって酪農体験の受け入れや学校への出前授業などの活動を行っています。現在、全国に約300の認証牧場があります(2016年)。認証牧場は、下記の中央酪農会議が運営する「酪農教育ファーム」サイトから検索できます。

多様化する酪農経営

日本の酪農では、家族経営が圧倒的多数を占めています。酪農は給餌や搾乳、繁殖管理や分娩時の介護などの作業を機械的にコントロールすることは難しく、突発的な事態や作業時間の不規則性に対応しなければならないからです。
農地の確保が困難な日本では、1頭あたりの産乳量を増やすことで生産性の向上を図ってきたこともあり、日本の酪農家には乳牛の泌乳生理を最大限に生かす高度な技術が求められます。こうした技能を修得するためには、乳牛と長い時間を共に過ごすことができる家族経営が適しているといわれています。
しかし、最近では新しい酪農技術の導入により省力化を図り、規模拡大を実現する動きも続いています。年間1,000t以上の生乳を出荷する牧場はメガファーム、年間1万t以上の生乳を出荷する牧場はギガファームと呼ばれており、土地を広く利用できる北海道に多く見られます。また、フリーストール方式や搾乳室、搾乳ロボット、哺乳ロボットなどがそうした大規模牧場を中心に普及しつつあります。

牧場の多面的機能

牧場(酪農家)は牛乳乳製品の原料である生乳を衛生的に生産しているだけではなく、私たちの生活に必要なさまざまな役割を担っています。
雄の子牛や、生乳を搾らなくなった牛は、食肉などに利用されています。
乳牛が出す糞尿は、稲や麦、野菜や果物などをつくる堆肥として利用されています。
牧場が休耕田を牧草地やトウモロコシ畑として利用することで、山間地などを荒れ地にすることなく、豊かな農村風景が残されます。
また、牧場はきれいな空気や水の保全だけでなく、牧場に棲む昆虫や小鳥など生物の食物連鎖のバランスを保ち、生態系の維持・保全にも役立っています。